『勉強法が変わる本 – 心理学からのアドバイス』

著者:市川伸一 |出版社:岩波書店(岩波ジュニア新書)|2000年|780円|高校生・教師向け|独断的おすすめ度 ★★★☆

高校生向けの本を集めている「岩波ジュニア新書」の一冊。英語に限らず,全教科の勉強法を扱っている本です。

勉強法についての本は,今年有名大学に合格した先輩が自分の体験から書いている本もあれば,受験業界の人(予備校講師や教務担当者)による本など様々出ていますが,はっきり言ってこれらはかなり癖があります。だってその人の体験が全員に通用する保証はないわけだし,業界の人の本は(かなりいい本もありますが)営業的意図が見え隠れすることもあります。

認知心理学の権威,市川伸一氏によって書かれたこの本は,そういう癖のない,しかも学問的なバックグラウンドをもとに書かれているスタンダードな学習法本になっていて,ある意味でいろんなところの本棚でこのテの本の中ではよく見かける本です。いちばん広く評価されている本と言っていいと思います。「はじめに」の中で筆者はこう言っています。

ぼくが,勉強法の本をいろいろと読んでみて,いちばん問題だと思うのは,著者自身がやってきた方法を,「こうするとよい」と一方的に書きすぎていることだ。

わたしもそう思います。人は自分の体験抜きにして,他人を動かすようなことをいうことはなかなかできないものですが,体験のみで語られると引いてしまうでしょう。自分の体験を客観視することができていないと,言葉は相手に届きません。特に勉強とか大学受験とかはほとんどの(かなり多くの)大人が経てきた体験なので,お互いに矛盾するような勉強法がいろんな人の口から出てきています。勉強法はなんかの宗教ではないので,すぐうのみにしたりせず,納得できそうなものを何回か試して,それでうまくいきそうなら本格的に取り組んでみる,というほうがいい。

さて,学者が自分の専門分野にもとづいて一般の人(つまりここでは高校生)にアドバイスを送ろうとすると,どうしても抽象的なアドバイスになりがちです。この本の筆者もそのことには気づいていて,できるだけ具体的な指針を出そうと工夫しています。でも,高校生の目から見ると,先ほど挙げた先輩たちのアドバイスに比べれば具体性に欠けているように見えるかもしれません。たとえば,数学に関して言っている「手続きから這入ってある程度習熟し,理解力が育ってから理屈を習う」とか,英文読解に関しての「できるだけ能動的に作者の言っていることをつかみとり,『なるほど。そういうことが言いたいのか。おもしろい!』という感じを持つように心がけ」るというようなアドバイスがありますが,「ふーん」という感想で終わってしまうかもしれません。

でも,わたし的にはこれらはとってもいいアドバイスだと思います。ただそれがいいアドバイスと実感できるまでには,かなり本格的な学習経験を積まなければならないかもしれません。

この本は読んで損はありません。できたら一度読んだ時には良さが実感できなかったとしても,何ヶ月かした後でもう一度パラパラめくってみると,「あっ,そういうことか」という発見があると思います。もちろん,今までさんざん苦労して,学習法に意識的になっている人は,一度で実感できるかもしれませんね。

科目別で言うと,「数学は暗記か理解か」とか「小論文作成のスキル」あたりは,特に問題意識がなくても,なかなかおもしろく読めるのではないかと思います。

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