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『外国語学習の科学 ― 第二言語習得論とは何か』

3月
2009
17
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著者:白井恭弘 |出版社:岩波書店(岩波新書)|2008年|700円|高校生・英語教師・一般向け|独断的おすすめ度 ★★★☆

外国語はどう学ばれるか,どう学ぶのがいいのかを研究する学問が「第二言語習得論」です。通常,言語学の中の応用言語学という学問の一分野と位置づけられています。

「外国語をどう学ぶか」を考える上では,この学問で明らかにされたこと,されていないことを踏まえないと有益な議論はできないはずですが,専門書以外の一般向けの本はあまり見当たらないのが現状のようです。このサイトで取り上げた本としては,

は,一般の外国語学習者にも役に立つ本だと思います。ここで取り上げる『外国語学習の科学 ― 第二言語習得論とは何か』は,上の『外国語学習に成功する人,しない人』と同じ白井氏の本です。後書きにもあるとおり,この本は『成功する人,しない人』を岩波新書用に書き換えたもので,「続編」とはいえ,内容的にはほとんど重複していますから,どちらかを読めばいいでしょう。こちらの岩波新書の方が全体的には読みやすいかもしれません(それに手に入りやすいですし)。この学問の全体像を手際よくまとめてあり,前著と同様かそれ以上にすばらしい入門書になっています。内容的には,『外国語学習に成功する人,しない人』についての記事をお読みください。

でも,この学問で得られた知見を,ではどうやって具体的に実践したらいいのかは,かんたんに処方箋が出せる問題ではありません。この本でも(前著でも),筆者の観点からの「学習法」の一端が示されていますが,決定版になっているわけではないようです。「教室」でどのような学習が行われるべきかということと,「個人」がどのように学ぶべきなのか(独学)ということは,必ずしも一致しません。さらに高校レベルで何をすべきかとか,それをどう評価すべきか(結局は,大学入試をどうすべきか)とかいう問題が絡み合っています。

ちょっと,教師や生徒や親が個々人のレベルでは手に負えない問題なのですが,まずは議論の共通の土台が必要でしょうし,その意味でもこの分野の学問にはがんばって欲しいところです。

 

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by rickie | Posted in いろんな本, 一般の語学学習, 勉強法の勉強 | No Comments »

『より良い外国語学習法を求めて』『「達人」の英語学習法』

7月
2008
22
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著者:竹内理 |出版社:松柏社|2003年|2500円|英語教師・研究者・一般向け|独断的おすすめ度 ★★☆☆

著者:竹内理 |出版社:草思社|2007年|1500円|高校生・一般向け|独断的おすすめ度 ★★★☆

 

同じ著者による同じテーマの2冊の本。実は,この2冊は読者対象が違うだけで,中身はほぼ同じといってもいい。

「より良い」が,データをもとにした研究発表の形式であり,「達人」はその研究成果を一般向けにかいつまんで述べたものです。従って,調査方法やデータを含めて知りたいのであれば「より良い」を,結果だけ知りたければ「達人」を読めばいいわけです。

調査目的は,「英語ができるようになった人に共通する学習法はあるのか」ということ。調査対象は3種類で,第二言語習得論の先行研究を踏まえて,

  • 英語ができる大学生とできない大学生
  • おそらく筆者周辺の,英語の達人たち
  • 世間に出回っている「私はいかにして英語の達人となりし乎」といった類の本

を扱っています。「より良い」の第9章で,これらのデータと既存の理論を踏まえた結論を述べていますが,この部分を敷衍ふえんして,英語学習者へのアドバイスの形で1冊の本に独立させたのが「達人」です。

調査方法も,そこから導き出されている「学習法」のアドバイスも,ハッタリのない信頼できるものです。たとえば,「学習法」の議論はそもそも万人共通の学習法が存在するのかどうかから出発すべきなのですが,筆者はその前提を踏まえた上で,調査対象から共通項が引き出せるという順当な手順を踏んで議論を組み立てています。その上で,学習者全般だけでなく,初級段階(中~高レベル)に必要なことと,中上級で必要なことを分けていたりと,あたりまえなんだけど実際には雑に扱われることが多い手順をしっかり押さえて考察を引きだしています。

リスニングは初級レベルでは正確さを重視すべきだが,上級では形式的正確さよりも内容重視に移行する傾向が英語の達人には多いパターンであるという記述があります。細かいことをいえば,「達人にはこのパターンが多い」というデータから「学習者はみなこの方法を採用すべき」という結論を引き出すには少し飛躍があるわけですし,私の経験的(データに基づかない)問題意識から言えば,中上級者も正確さ重視の方法を適宜組み込まないと進歩が止まるという感想を持っています。しかし,日本人の学習成功者対象のデータにもとづいたこの種の議論は今までありそうで,案外なかったような気がします。

英語学習法本には,自分の経験だけが最良の学習法であるかのような語り口の本がよく見られますし,そこに売らんがための宣伝文句が加わるとほとんどウソに近いものも存在しますが,この本は安心して全レベルの学習者にお勧めできるでしょう。もちろんその分,「楽にペラペラになれる」「いつのまにかあなたも達人に」といった魔法のような学習法を探している人にはがっかりするようなことしか出ていません。逆にしっかり腰を据えて勉強しようと思っている人,特に英語初心者にはぜひ読んで欲しい本だと言えます。

 

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by rickie | Posted in 一般の語学学習, 勉強法の勉強, 英語の周辺 | No Comments »

『STUDY HACKS! ― スタディ ハック』

7月
2008
12
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著者:小山龍介 |出版社:東洋経済新報社|2008年|1500円|一般向け|独断的おすすめ度 ★☆☆☆

副題には「楽しみながら成果が上がるスキルアップのコツ」とあります。ビジネスマン向けのようですが,受験生にも何か使えるネタはあるかなと読んでみた。

使えるところが全くないというわけではないが,なんだかなあ,という本ですね。奥付の筆者の経歴によれば筆者は1975年生まれ,京大→広告代理店→MBA→現・松竹・松竹芸能ほか,ということで若い多才な(そしてリッチでスマートな)エリートビジネスマンという人物像が浮かんでくるのですが,本書から受ける印象もそのイメージから1ミリもはみ出しません。紹介しているツールのたぐいはどれもお金のかかるものばかりだし,特に検証されずにシータ波やクオリア,フォトリーディング(!)などが方法論やその理論的背景として導入されているし,英語ができることは前提になっているし...

  • ノイズキャンセリング機能付きヘッドフォンを紹介していて,おもしろそうなので実際買っちゃいました。筆者は4万いくらのやつを薦めていたのですが,手が出るはずもなく1万のものでガマン。ま,こんなところかな。
  • 六本木ヒルズ(!)などの有料自習室を紹介していたので調べてみたが,高いの高くないの。
  • ハーブティー,アロマ,お経,腹式呼吸...好きですよね,こういう人ってこういうものが。
  • 「夜の散歩でリスニング暗記」...昔からやっとります。
  • 「長時間眠る」...生まれたときからやっとります。
  • 「まず机のそうじから始める」...すみません。やってませんでした。さっそくやります。

まあ,このサイトはできる限り人の悪口を言わない方針なのでフォローしておくと,役に立つところもけっこうあります。「勉強」というものとある程度以上つきあってきた人なら誰でも知っていることが多いですが,でもこれからやろうという人にはいいかもしれません。ただそういう人にとって難しいかな,と思うのは,ここのアドバイスをどう使い,どう使わないかです。アドバイス自体が正しくても,学習対象(科目),学習段階,個性などによって使えるときと使えないときがあるということは,どんな勉強法でも言えることです。「試験ハック」の章に出ている「問題集は答から読む」とか「正解した問題は二度とやらない」「教科書を逆さまに読む」とかは使えない場合も多いので注意です。「問題集は答から読む」というのは,知識系の科目(地歴公民)などで,かつある程度予備知識を持っていて新たに覚えることはそれほど多くないという場合などはたいへん有効でしょうが,それ以外の場合はどうかなあ。

学習法というものは「人が言うことを鵜呑みにしない」というのがいちばんだいじなことで,それがわかっている人にはこの本も大いに使えるでしょう。

 

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by rickie | Posted in 一般の語学学習, 勉強法の勉強 | No Comments »

『勉強法が変わる本 – 心理学からのアドバイス』

5月
2008
29
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著者:市川伸一 |出版社:岩波書店(岩波ジュニア新書)|2000年|780円|高校生・教師向け|独断的おすすめ度 ★★★☆

高校生向けの本を集めている「岩波ジュニア新書」の一冊。英語に限らず,全教科の勉強法を扱っている本です。

勉強法についての本は,今年有名大学に合格した先輩が自分の体験から書いている本もあれば,受験業界の人(予備校講師や教務担当者)による本など様々出ていますが,はっきり言ってこれらはかなり癖があります。だってその人の体験が全員に通用する保証はないわけだし,業界の人の本は(かなりいい本もありますが)営業的意図が見え隠れすることもあります。

認知心理学の権威,市川伸一氏によって書かれたこの本は,そういう癖のない,しかも学問的なバックグラウンドをもとに書かれているスタンダードな学習法本になっていて,ある意味でいろんなところの本棚でこのテの本の中ではよく見かける本です。いちばん広く評価されている本と言っていいと思います。「はじめに」の中で筆者はこう言っています。

ぼくが,勉強法の本をいろいろと読んでみて,いちばん問題だと思うのは,著者自身がやってきた方法を,「こうするとよい」と一方的に書きすぎていることだ。

わたしもそう思います。人は自分の体験抜きにして,他人を動かすようなことをいうことはなかなかできないものですが,体験のみで語られると引いてしまうでしょう。自分の体験を客観視することができていないと,言葉は相手に届きません。特に勉強とか大学受験とかはほとんどの(かなり多くの)大人が経てきた体験なので,お互いに矛盾するような勉強法がいろんな人の口から出てきています。勉強法はなんかの宗教ではないので,すぐうのみにしたりせず,納得できそうなものを何回か試して,それでうまくいきそうなら本格的に取り組んでみる,というほうがいい。

さて,学者が自分の専門分野にもとづいて一般の人(つまりここでは高校生)にアドバイスを送ろうとすると,どうしても抽象的なアドバイスになりがちです。この本の筆者もそのことには気づいていて,できるだけ具体的な指針を出そうと工夫しています。でも,高校生の目から見ると,先ほど挙げた先輩たちのアドバイスに比べれば具体性に欠けているように見えるかもしれません。たとえば,数学に関して言っている「手続きから這入ってある程度習熟し,理解力が育ってから理屈を習う」とか,英文読解に関しての「できるだけ能動的に作者の言っていることをつかみとり,『なるほど。そういうことが言いたいのか。おもしろい!』という感じを持つように心がけ」るというようなアドバイスがありますが,「ふーん」という感想で終わってしまうかもしれません。

でも,わたし的にはこれらはとってもいいアドバイスだと思います。ただそれがいいアドバイスと実感できるまでには,かなり本格的な学習経験を積まなければならないかもしれません。

この本は読んで損はありません。できたら一度読んだ時には良さが実感できなかったとしても,何ヶ月かした後でもう一度パラパラめくってみると,「あっ,そういうことか」という発見があると思います。もちろん,今までさんざん苦労して,学習法に意識的になっている人は,一度で実感できるかもしれませんね。

科目別で言うと,「数学は暗記か理解か」とか「小論文作成のスキル」あたりは,特に問題意識がなくても,なかなかおもしろく読めるのではないかと思います。

 

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『英語習得の「常識」「非常識」– 第二言語習得研究からの検証』

5月
2008
27
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著者:白畑知彦・若林茂則・須田孝司 |出版社:大修館書店|2004年|1700円|英語教師・一般向け|独断的おすすめ度 ★★★☆

以前紹介した『外国語学習に成功する人,しない人 – 第二言語習得論への招待』(白井恭弘著 岩波書店)と並んで,第二言語習得論の入門書としていちばん取り上げられることの多い本の一つです。

外国語学習,特に英語学習については世間ではウソとデマがまかり通っています。いくらか学習経験のある人ならすぐにウソだとわかるウソから,いかにもホントらしいウソまで数限りなくあります。ウソがまかりとおっている点ではダイエット法に関するウソとよく似ているのですが,ダイエット法については時々,「あるある納豆事件」のようにウソが指弾される場合もあるのに,外国語学習法については野放し状態です。広告はその表示のしかたにさまざまな規制を受けるはずなのですが,外国語学習産業の広告には,まったくといっていいほど規制も,自己規制もかかっていません。良心的なところも少しはありますが,「楽に身につく」と称しているものは100%ウソと言って間違いないでしょう。

 

ウソがはびこる理由はいくつか考えられますが,

  • ダイエット法とちがって,検証可能な客観的データがとりにくい
  • 誰でも英語を学んだ経験があるので,自分なりの学習観を持つ人が多くて乱立しやすい
  • 特に英語学習は市場規模が大きく,新しいニッチを狙った「新規参入」組が,新しい流行商品を作るのにやっきになっている
  • 同時に外国語(英語)コンプレックスを持つ人も多く,とにかく派手な宣伝文句にとびつきやすい
  • 語学が「できる」「できない」,「マスターする」「していない」の基準がばらばらである
  • 言語能力とは「読む」「書く」「話す」「聞く」や「語彙」「文法」などの技能の複雑に組み合わさった能力であり,さらに「常識」「論理的構成力」,多分野に関する知識などが要求されるが,その一面だけを伸ばすことで語学をマスターしたと誤解しやすい
  • 結局,誰もが努力などしたくないし,楽な方法を求めている

というあたりがその理由だと思われます。

「英語ペラペラ」というのは誰でもあこがれますが,ペラペラに見えてもかなり間違いだらけのペラペラもありますし,間違いはないけど中身もないペラペラもあります。言葉の能力はそんなに簡単に測れるものではありません。

どんなやり方でも,それなりの効果を上げる人はいるものです。ダイエットと同じで,がんばればどんなやり方でも,いくらかなりとも力はつきます。そういう人が「このやり方はすばらしい」と思い込んでしまいます。ほんとうは,「やり方」のせいではなく本人の「がんばり」のおかげなので,別のやり方ならもっと効果を上げていたかもしれないのですが,信者になってしまった人は宣伝する側にまわって,布教活動をはじめてしまうから困ったものです。

さて,この本は世間に出回っている外国語学習についての「常識」を,第二言語習得論の観点から可能な限り学問的に検証することをめざしています。この学問分野自体,歴史は数十年と浅く,まだまだ実証的に検証できていないことが多いのですが,現在の到達点はある程度見渡せるでしょう。

取り上げられている「常識」は次のとおりです。

  1. 「母語は模倣によって習得する」のか?
  2. 「母語習得で誤りの訂正は役に立つ」のか?
  3. 「生まれつき備わっている言語習得能力がある」のか?
  4. 「教科書で習った順番に覚えていく」のか?
  5. 「繰り返し練習すると外国語は身につく」のか?
  6. 「外国語学習は音声から導入されるべき」か?
  7. 「聞くだけで英語はできるようになる」のか?
  8. 「多読で英語は伸びる」のか?
  9. 「教師が誤りを直すと効果がある」のか?
  10. 「日本人学習者もgoedやcomedと発話する」のか?
  11. 「やる気があれば上級学習者になれる」のか?
  12. 「頭のいい人が外国語学習で有利」なのか?
  13. 「物おじしない性格の人は第二言語習得に向いている」のか?
  14. 「第二言語学習者と外国語学習者では習得のしかたが違う」のか?
  15. 「学習者の言語適性はテストで測定できる」のか?
  16. 「言語学習においては女性の方が男性よりも優れている」のか?
  17. 「第二言語学習は幼少期から始めないと遅すぎる」のか?
  18. 「大人になってはじめてはネイティブ並みにマスターできる領域はない」のか?
  19. 「幼いうちなら日本人でも /r/ と /l/ を聞き分けられる」のか?
  20. 「運動機能の衰えが言語習得の到達度に影響する」のか?
  21. 本当に「言語習得の臨界期はある」のか?
  22. 「『英語耳』や『日本語耳』という区別はある」のか?
  23. 「英語は『右脳』で学習する」のか?

たとえば,7 では,「聞くだけで母語話者と同じような英語能力が身につくことはない」,8 では,「辞書を引くことなく,書物をいくらたくさん読んでも読むスピードは向上するだろうが,語彙力が増加したり,文法能力が高まったり,発音能力がよくなったりはしない」,23 では,「英語は右脳のみでは学習できない」と今までの研究成果を踏まえて断定しています。

17 では,「第二言語習得環境で,母語話者と変わらないレベルの言語(文法)能力を全員が身につけるためには,7歳ぐらいまでに言語習得を開始する必要がある」とか「どのような内容の英語教育を実施するかにもよるが,歌ったりゲームをしたりする活動が中心の小学校での200時間程度の『英語学習』は,文法習得の発達に影響を及ぼさない。」と述べていて,現在文科省が進めている方向性へ疑問を呈する形になっています。

もちろん,「じゃあ,それらの研究成果を踏まえて,これからどうしたらいいの?」という疑問に対して明快な答えは出てきません。学問というものはそういうものでしょうし,言語学習という複雑怪奇な設問に対して出てくる明快な答には,眉に唾して聞く必要があります。少なくとも,ある程度明快な答えを出すためには,その時点での学習対象と目的(大学受験・海外旅行・ニュースの聞き取りなど)を限定すること,どのレベルまでを目指すかを明確にすること,などが必要になるのでしょう。

 

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『外国語学習に成功する人,しない人 – 第二言語習得論への招待』

5月
2008
22
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著者:白井恭弘 |出版社:岩波書店(岩波科学ライブラリー)|2004年|1100円|英語教師・一般向け|独断的おすすめ度 ★★★☆

英語やその他の外国語の学習法についての本は,本屋へ行けば山ほどありますし,ネット上なら数え切れないほど存在します(このサイトもそのひとつか)。どの本やサイトもいろいろのアドバイスをしてくれますが,ある意味で情報が溢れすぎていて,これから勉強しようという人たちにとってはどの情報を信じていいのか迷ってしまうかもしれません。言っていることがまちまちで相矛盾していたり,それからブームのようなものもあって時代によってころころと変化していきます。最近は「脳」ということばがタイトルにつけば,科学的という印象を与えるのか,売れ線になっています。(わたしは,「脳なんたら」のつく本は基本的に敬遠していますが)

学習法本にはいくつかのタイプがあって,執筆者で分類すると,

  1. 一応その言語を習得した人(カリスマ・達人)が,後輩に向けて,自分の経験にもとづいて学習法を語る
  2. 語学の教師(学校・塾・予備校等)が,生徒に向けて,教育経験にもとづいて語る
  3. 学者が自分の専門分野に関する知見にもとづいて語る

2のタイプは,受験とかテストといった狭い目標に限定して語られることが多いので,その範囲では大いに参考になると思いますが,広い意味での語学学習については別の観点が必要になります。いちばん多い,そしていちばんあやしげなのも多い(全部あやしいわけではない)のがタイプ1でしょう。1のタイプにはしばしば,自分が習得したやり方がいちばんいい方法だと独断的に信じている傾向が見られます。そういう書き方をしている本も何かのヒントを与えてくれることはよくあるのですが,少なくともうのみにしない方が賢明だと思います。その人にとっていい方法が誰にとっても優れた方法であるという保証はありませんし,語学のプロであっても語学学習・言語習得法のプロではないので,さまざまな方法を客観的に比較検討するという視点では書かれていないから,いきおい主観的・独断的になってしまっているものがあります。

タイプ3に入る学者の専門領域は,「学習とはどういうことなのか」を研究する心理学(認知心理学),「語学を教える」という観点の教育学,「言語を身につけるとはどういうことなのか」を研究する言語学の中の一分野(「第二言語習得論」と呼びます)に分かれます。このタイプは前二者と比べて,より客観的だといえるでしょう。ただし,研究者であって語学の教育者ではないこともあり,「研究の結果はわかったけど,それを踏まえて,じゃあどうしたらいいの」という具体的アドバイスを求めても得られないことがあります。

さて,ここで取り上げている『外国語学習に成功する人,しない人 – 第二言語習得論への招待』という本は,副題にあるとおり第二言語習得論入門という色合いの本です。現在出版されている同系統の本の中ではいちばんポピュラーな本なのではないでしょうか。ひたすら理論を語るのではなく,「日本人はなぜ英語が苦手か」「どういう人が語学学習に成功し,どういう人が成功しないか」「外国語が身につくとはどういうことか」「どんな学習法に効果があるのか」という具体的な発問に対して,理論を紹介しながら考えていくという記述になっていますから,読みやすくまとまっています。

紹介されている理論的な概念には次のようなものがあります。

  • 統合的動機づけ(文化に参加したいという目的の学習)と道具的動機付け(実利目的のための学習)
  • 言語的転移(母語の干渉)
  • 臨界期仮説(n才を過ぎるとネイティブ並みにはなれない)
  • 言語学習適性(母語と第二言語に共通する適性)
  • 日常言語能力(日常会話力)と認知学習言語能力(言語による学習能力)
  • インプット仮説(聞くだけで習得可能)・モニター仮説(習得は無意識に起こり,意識的学習はチェック・モニターの役割のみ)と自動化モデル(意識的学習が自動化・無意識化すれば習得可能)
  • オーディオリンガル教授法(パターンプラクティスによる反復練習)とコミュニカティブ・アプローチ(形式より意味・メッセージ伝達に重点)
  • 中間言語分析(学習者が作り上げている母語と第二言語の中間の言語「体系」)

筆者も述べていますが,「第二言語習得論」は生れて四・五十年の若い学問であり,まだまだ研究成果が上がっていない分野がたくさんあります。言語学の中でもいちばん実用性の高い分野と言えるのに,仮説だらけなのは残念ですが今後に期待できる分野とも言えるでしょう。

 

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『語学はやり直せる!』

5月
2008
14
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著者:黒田龍之助 |出版社:角川書店(新書・角川oneテーマ21)|2008年|686円|一般向け(特に語学が好きなのに上達しない人)|独断的おすすめ度 ★★★☆

このブログでも何回か名前を出した,黒田龍之助さんの一般向け,特に語学で失敗した人向け(ってことでしょうね,このタイトルは)の語学学習法本です。

英語中心ではない,多言語のバックグラウンドを持った人が書いた学習本という点で,前に取り上げた渡辺照宏「外国語の学び方」,千野栄一「外国語学習法」と同じ方向性の本ですが,書き方はずっと軽いというか,ノリのいいというか,今風の文体です。

黒田さんは専門はロシア語(NHKのテレビ・ラジオのロシア語講座担当)ですが,スラブ語系言語全般に通じていて,学んだ経験は数十カ国語だそうです。

 

 

 

   第1章 語学がいっぱい

   第2章 語学を続けるために

   第3章 語学の「常識」を疑う

   第4章 理想の語学教師をめざして

   第5章 語学のプロは修行する

   第6章 たとえば英語学習をやめてみる

第4, 5章は一見,プロ向けのようにも見えますが,自分たち語学教師は何をやっているかをとおして,一般の学習者へのアドバイスを送っています。

こういう本は,その本に書かれているメソッドを忠実に実行するためのものというよりも,何らかのヒントやインスピレーションを得るためのものです。その意味では,この本からは数多くいろんなヒントが得られるだろうと思います。

● 語学には時間がかかる

少なくとも「あっという間」に上達することは絶対にありえない。

だから,そういうことを謳っている語学書とか会話学校は,はっきりいって詐欺である。

● メソッドなんて似たり寄ったり

語学のメソッドは多種多様だ。いろんなやり方がある。新しい方法もつぎつぎと生まれている。

でも,結局は似たり寄ったりなのだ。

   (…)

少なくとも,語学メソッドに決定版はない。あったら,みんながその方法で上達するはずだし,そうすれば語学に悩む人が誰もいなくなるはず。

● 「語学適齢期節」(いわゆる「臨界仮説」=「子どものころから始めないと上達しない」)について

ところが,こういう語学適齢期節をむしろ積極的に信じたがる人もいる。なぜだろう。ひっっとすると,一部の人にとっては,そのほうが都合がいいのではないか。

語学は子供の頃から始めなければ上達しない。しかしわたしはすでに子どもではない。したがって,私は語学が上達しない。上達しなくても,わたしが悪いわけではない。

こういう結論を望んでいる人がいるように思えてならない。

ここにあげたのは,ふだんからわたしも思っていることで,無条件で賛成な部分です。というか,賛成できないところはあまりない。一般向けということもあって,意見が分かれそうなところには深入りしていませんし。その他,「教えない教師」の勧めとか,「英語学習が思うように進まない人はいったん英語を中断して,別の言語をやってみる」とか,ユニークな提案もあります。

黒田さんの本で一貫しているのは,多言語学習を奨励していること,しかも役に立つからというよりそれが楽しいから。上達しないかもしれないけど,学ぶことに意味がある,そういう主張です。多言語を知らないと見えてこないものがあるのは確かです。私自身もいくつかやってきましたが,身についていないにせよ,何か新しい地平が開けるような気がしました。ただし,わたしは語学に対して愛憎両方あるのですが,それはまた別のはなし。

 

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『外国語の学び方』『外国語学習法』

5月
2008
10
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著者:渡辺照宏 |出版社:岩波書店(岩波新書)|1962年|絶版|高校生以上・一般向け|独断的おすすめ度 ★★☆☆

著者:千野栄一|出版社:岩波書店(岩波新書)|1986年|735円|高校生以上・一般向け|独断的おすすめ度 ★★★☆

どちらも岩波新書の外国語学習法本。かなり人気を博した「外国語の学び方」(1962 青本)の後継が「外国語学習法」(1986 黄本)で,そのあいだに24年が経過しています。とすれば,そろそろ岩波の次期「学習法本」が出てもいい頃でしょうか。

これらは英語学習法ではなく,外国語学習法です。別に英語は特別な習得法があるわけではありませんが,世の中,英語しか見えていない風潮なので,多言語を身につけた人のことばは大いに聞くべきでしょう。

前々から疑問なのですが,なぜか英語以外,とくに東欧・スラブ系言語の専門家は驚くほど多くの言語を習得している人がいます。今回の本では,渡辺氏はドイツ語・サンスクリット語が専門,千野氏はチェコ語,それ以外でも,黒田龍之助氏はロシア語の専門家。「わたしの外国語学習法」を出している十数カ国語の達人ロンブ・カトーさんと,12カ国語が使えるというピーター・フランクルさんはともにハンガリー出身。作家でも,英語で小説を書いた Nabokov はロシア, Kosinski はポーランド(盗作疑惑もありましたが),フランス語で書いている Kundera はチェコ,Agota Kristof はハンガリー出身です。逆に,英語の専門家にはそういう人が見当たらない気がするのですが(昔は少しいた)。スラブ語ができれば英語なんかちょろい,というわけでもないでしょう。東欧諸国はよきにつけ悪しきにつけ交流が多いから,そして文化的には英・仏・独・旧ソ連などの強い影響を受けているため自国語だけでは自足せず,外国語に触れることが多くて外国語学習意識が高いから,という理由を今でっちあげてみたのですが,でもそれなら日本も似たようなものなのですが。上の4人の作家はみな亡命者・難民ですから,そういう外的な事情ももちろん影響しているでしょう。でも日本人のスラブ専門家たちのポリグロットぶりはどう説明できるんでしょうか。

さて,「外国語の学び方」はすでに絶版のようですが(古本は大量に出回っているはず),確かに音声面の学習ではレコードのリンガフォンの話が出てきたり,時代を感じさせるものもあります。でも,そんなことより,残念ながら今の人の耳に届きそうにないのは,たとえば

  • 自分の日本語能力と同レベルを目指す
  • 1日24時間その言語のことだけを考えて,3ヶ月後にはなんとかなる
  • 書くためには,短い論文や短編小説を丸暗記する

といった,現代人には難しい集中的学習・言語オタク化を暗に前提にしているところでしょうか。べつに批判しているわけではありません。わたしも実は同意見です。千野先生の本では,「1日に6時間ずつ4日やるより,2時間ずつ12日した方がいい」という説が出ていて,これは実証的に正しいらしいのですが,わたしはそれは初心者向けの話であって,学習過程のどの段階かで集中学習が必要になると思っていますし,今では流行らない長文の丸暗記もかなりプラスになると考えています。でも今そんなことを言うと,引いちゃうでしょうね,みんな。

千野本の特徴は,文法重視の教育に対して,語彙力強化をかなり前面に押し出しているところでしょうか。この本の影響なのか,その後の語学学習では語彙面重視は浸透しているようです。アドバイスのいくつかをピックアップすると,

  • 単語は最低レベルの1000語は単語集などで有無を言わせず覚えねばならない
  • その後,辞書を使って何とか本の読める3000語レベルにまでは上げる
  • 語学学習には金と時間が必要
  • 西洋語の基本的活用は表にすれば10ページくらいに収まるので,まずこれを丸ごと覚える
  • 会話上達には,「いささかの軽薄さと内容」が必要
  • 教養のための語学学習は失敗しやすい

などです。ふつうのアドバイスと言えばそれまでですが,ちまたによくあるエキセントリックな内容ではなく,汎用性があるので,読んである種のインスピレーションを受けて自分なりに工夫していくにはいいだろうとおもいます。語学ってふつうにやるしかないと思いますよ,けっきょく。

どちらの本も,中にちりばめられたいろんな人,ひろんな場面のエピソードが魅力になっていますから,読んで損はありません。

 

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