『外国語の学び方』『外国語学習法』

著者:渡辺照宏 |出版社:岩波書店(岩波新書)|1962年|絶版|高校生以上・一般向け|独断的おすすめ度 ★★☆☆

著者:千野栄一|出版社:岩波書店(岩波新書)|1986年|735円|高校生以上・一般向け|独断的おすすめ度 ★★★☆

どちらも岩波新書の外国語学習法本。かなり人気を博した「外国語の学び方」(1962 青本)の後継が「外国語学習法」(1986 黄本)で,そのあいだに24年が経過しています。とすれば,そろそろ岩波の次期「学習法本」が出てもいい頃でしょうか。

これらは英語学習法ではなく,外国語学習法です。別に英語は特別な習得法があるわけではありませんが,世の中,英語しか見えていない風潮なので,多言語を身につけた人のことばは大いに聞くべきでしょう。

前々から疑問なのですが,なぜか英語以外,とくに東欧・スラブ系言語の専門家は驚くほど多くの言語を習得している人がいます。今回の本では,渡辺氏はドイツ語・サンスクリット語が専門,千野氏はチェコ語,それ以外でも,黒田龍之助氏はロシア語の専門家。「わたしの外国語学習法」を出している十数カ国語の達人ロンブ・カトーさんと,12カ国語が使えるというピーター・フランクルさんはともにハンガリー出身。作家でも,英語で小説を書いた Nabokov はロシア, Kosinski はポーランド(盗作疑惑もありましたが),フランス語で書いている Kundera はチェコ,Agota Kristof はハンガリー出身です。逆に,英語の専門家にはそういう人が見当たらない気がするのですが(昔は少しいた)。スラブ語ができれば英語なんかちょろい,というわけでもないでしょう。東欧諸国はよきにつけ悪しきにつけ交流が多いから,そして文化的には英・仏・独・旧ソ連などの強い影響を受けているため自国語だけでは自足せず,外国語に触れることが多くて外国語学習意識が高いから,という理由を今でっちあげてみたのですが,でもそれなら日本も似たようなものなのですが。上の4人の作家はみな亡命者・難民ですから,そういう外的な事情ももちろん影響しているでしょう。でも日本人のスラブ専門家たちのポリグロットぶりはどう説明できるんでしょうか。

さて,「外国語の学び方」はすでに絶版のようですが(古本は大量に出回っているはず),確かに音声面の学習ではレコードのリンガフォンの話が出てきたり,時代を感じさせるものもあります。でも,そんなことより,残念ながら今の人の耳に届きそうにないのは,たとえば

  • 自分の日本語能力と同レベルを目指す
  • 1日24時間その言語のことだけを考えて,3ヶ月後にはなんとかなる
  • 書くためには,短い論文や短編小説を丸暗記する

といった,現代人には難しい集中的学習・言語オタク化を暗に前提にしているところでしょうか。べつに批判しているわけではありません。わたしも実は同意見です。千野先生の本では,「1日に6時間ずつ4日やるより,2時間ずつ12日した方がいい」という説が出ていて,これは実証的に正しいらしいのですが,わたしはそれは初心者向けの話であって,学習過程のどの段階かで集中学習が必要になると思っていますし,今では流行らない長文の丸暗記もかなりプラスになると考えています。でも今そんなことを言うと,引いちゃうでしょうね,みんな。

千野本の特徴は,文法重視の教育に対して,語彙力強化をかなり前面に押し出しているところでしょうか。この本の影響なのか,その後の語学学習では語彙面重視は浸透しているようです。アドバイスのいくつかをピックアップすると,

  • 単語は最低レベルの1000語は単語集などで有無を言わせず覚えねばならない
  • その後,辞書を使って何とか本の読める3000語レベルにまでは上げる
  • 語学学習には金と時間が必要
  • 西洋語の基本的活用は表にすれば10ページくらいに収まるので,まずこれを丸ごと覚える
  • 会話上達には,「いささかの軽薄さと内容」が必要
  • 教養のための語学学習は失敗しやすい

などです。ふつうのアドバイスと言えばそれまでですが,ちまたによくあるエキセントリックな内容ではなく,汎用性があるので,読んである種のインスピレーションを受けて自分なりに工夫していくにはいいだろうとおもいます。語学ってふつうにやるしかないと思いますよ,けっきょく。

どちらの本も,中にちりばめられたいろんな人,ひろんな場面のエピソードが魅力になっていますから,読んで損はありません。

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