『外国語学習に成功する人,しない人 – 第二言語習得論への招待』

著者:白井恭弘 |出版社:岩波書店(岩波科学ライブラリー)|2004年|1100円|英語教師・一般向け|独断的おすすめ度 ★★★☆

英語やその他の外国語の学習法についての本は,本屋へ行けば山ほどありますし,ネット上なら数え切れないほど存在します(このサイトもそのひとつか)。どの本やサイトもいろいろのアドバイスをしてくれますが,ある意味で情報が溢れすぎていて,これから勉強しようという人たちにとってはどの情報を信じていいのか迷ってしまうかもしれません。言っていることがまちまちで相矛盾していたり,それからブームのようなものもあって時代によってころころと変化していきます。最近は「脳」ということばがタイトルにつけば,科学的という印象を与えるのか,売れ線になっています。(わたしは,「脳なんたら」のつく本は基本的に敬遠していますが)

学習法本にはいくつかのタイプがあって,執筆者で分類すると,

  1. 一応その言語を習得した人(カリスマ・達人)が,後輩に向けて,自分の経験にもとづいて学習法を語る
  2. 語学の教師(学校・塾・予備校等)が,生徒に向けて,教育経験にもとづいて語る
  3. 学者が自分の専門分野に関する知見にもとづいて語る

2のタイプは,受験とかテストといった狭い目標に限定して語られることが多いので,その範囲では大いに参考になると思いますが,広い意味での語学学習については別の観点が必要になります。いちばん多い,そしていちばんあやしげなのも多い(全部あやしいわけではない)のがタイプ1でしょう。1のタイプにはしばしば,自分が習得したやり方がいちばんいい方法だと独断的に信じている傾向が見られます。そういう書き方をしている本も何かのヒントを与えてくれることはよくあるのですが,少なくともうのみにしない方が賢明だと思います。その人にとっていい方法が誰にとっても優れた方法であるという保証はありませんし,語学のプロであっても語学学習・言語習得法のプロではないので,さまざまな方法を客観的に比較検討するという視点では書かれていないから,いきおい主観的・独断的になってしまっているものがあります。

タイプ3に入る学者の専門領域は,「学習とはどういうことなのか」を研究する心理学(認知心理学),「語学を教える」という観点の教育学,「言語を身につけるとはどういうことなのか」を研究する言語学の中の一分野(「第二言語習得論」と呼びます)に分かれます。このタイプは前二者と比べて,より客観的だといえるでしょう。ただし,研究者であって語学の教育者ではないこともあり,「研究の結果はわかったけど,それを踏まえて,じゃあどうしたらいいの」という具体的アドバイスを求めても得られないことがあります。

さて,ここで取り上げている『外国語学習に成功する人,しない人 – 第二言語習得論への招待』という本は,副題にあるとおり第二言語習得論入門という色合いの本です。現在出版されている同系統の本の中ではいちばんポピュラーな本なのではないでしょうか。ひたすら理論を語るのではなく,「日本人はなぜ英語が苦手か」「どういう人が語学学習に成功し,どういう人が成功しないか」「外国語が身につくとはどういうことか」「どんな学習法に効果があるのか」という具体的な発問に対して,理論を紹介しながら考えていくという記述になっていますから,読みやすくまとまっています。

紹介されている理論的な概念には次のようなものがあります。

  • 統合的動機づけ(文化に参加したいという目的の学習)と道具的動機付け(実利目的のための学習)
  • 言語的転移(母語の干渉)
  • 臨界期仮説(n才を過ぎるとネイティブ並みにはなれない)
  • 言語学習適性(母語と第二言語に共通する適性)
  • 日常言語能力(日常会話力)と認知学習言語能力(言語による学習能力)
  • インプット仮説(聞くだけで習得可能)・モニター仮説(習得は無意識に起こり,意識的学習はチェック・モニターの役割のみ)と自動化モデル(意識的学習が自動化・無意識化すれば習得可能)
  • オーディオリンガル教授法(パターンプラクティスによる反復練習)とコミュニカティブ・アプローチ(形式より意味・メッセージ伝達に重点)
  • 中間言語分析(学習者が作り上げている母語と第二言語の中間の言語「体系」)

筆者も述べていますが,「第二言語習得論」は生れて四・五十年の若い学問であり,まだまだ研究成果が上がっていない分野がたくさんあります。言語学の中でもいちばん実用性の高い分野と言えるのに,仮説だらけなのは残念ですが今後に期待できる分野とも言えるでしょう。

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