『ヒトはなぜ死ぬのか?』 爆笑問題のニッポンの教養

著者: 田沼靖一・爆笑問題(太田光・田中裕二)|出版社:講談社|2007年|760円|高校生・一般向け|独断的おすすめ度 ★★☆☆

爆笑問題が学者から話を聞くNHKの番組を書籍化したシリーズ。

この本では,生化学の田沼靖一(東京理科大薬学部)を訪問します。アポトーシス論とゲノム解析を基礎にして薬の開発をやっている人です。

幼いころに死というものがあることを知って,すさまじい恐怖にとらわれた人は多いのではないかと思います。たいていの人は,それ以後できるだけ死のことは考えないようにして,そんなもの存在しないよというふりをして,生きていきます。でも時々死というものを深く見つめる必要に迫られることもあります。それは,身近な人の死という人生上の転機においてだったり,何かの職業上の必要(葬儀屋さんとか)だったり,学問・思想的なあるいは文学的な関心に引きずられてだったりします。死を問う学問は,たいてい哲学や精神分析や文学であることが多いのですが,自然科学もやっと死を真正面からとらえることができるようになったのですね。

田沼氏の専門はこの「細胞のアポトーシス的な死」です。細胞の死には大きく分けてネクローシスという外側から破壊されての死と,アポトーシスというDNAに組み込まれている死の二種類があります。つまり,人は(生物の細胞は)老いてくたびれて,機能しなくなった果てに死がやって来るというよりも,あらかじめ死は遺伝子的に予定されていて,細胞は「そろそろ死ななきゃ」という感じで死んでいく(ホントか)ということです。人は死に向かう存在なわけです。たとえば,がん細胞はこのアポトーシスを忘れてしまった細胞なので,がん細胞にアポトーシスを組み込めばがん治療が可能になるというような応用が可能です。

(昔からわたしは思ってたんですが,ウィルスとか癌とかは人間の中に住み着いてるくせに,人を殺してしまう。人を殺せば自分も死んでしまうんだから,生物学的に見て,人を殺すのは無意味である。だから何とかウィルスや癌を,「おまえなあ,そんなKYなことしてんじゃないよ」と説得することができれば治療が可能だと思ってたんですが,それと似ているでしょうか。似てないよね。)

わたしは文系的人間で,太田もそうですから,「進化の過程では,アポトーシスは両性生殖とともに生まれた。つまり,性とともに死は誕生した」なんてくだりを聞くと,文学的に読み込んでしまいます。「おお,バタイユじゃん」とか「こっちはハイデガーだよね」とか。ま,そういうインスピレーションを与えてくれる本ではあります。理系の人には冷ややかな目で見られますけど。


このシリーズはその分野について深い知識を得たい,じっくり学んでみたいという人には全く向きません。その分野を知っている人にとっては,入口のそのまた入口あたりでうろうろしているようで,物足りないでしょう。その分野は全く無知で,ちょこっとのぞいてみたい,しかもあんまり苦労せずに学者の問題意識の中の面白そうなところだけを,しかも結果だけをつまんでみたい,という人向けです。だからこそ,あまり何の興味も持っていないような高校生には向いていると思います。

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