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『高校生のための東大授業ライブ』

8 月
2008
29

東京大学教養学部編 |出版社:東大出版会|2007年|1800円|高校生・一般向け|249p.|独断的おすすめ度 ★★☆☆

 

すでに紹介した『16歳からの東大冒険講座』全3巻と同じく,東大が行う「高校生のための金曜特別講座」からピックアップした授業の書籍化。通算4巻目だが,出版社も変わり,ベネッセの援助も受け,本はオール・カラーになって,紙質も,ついでに定価も上がった,というわけですね。書店ではこれがいちばん新しく,いちばん手に入りやすいでしょう。

各講義のレベルはさまざまで,予備知識なしで読めるものもあれば,高校レベルの教科をきちんと頭に入れている人でも難しいものもあります。「学力低下」というレッテルが貼られることの多いいまどきの高校生の目線にまで何とか降りようとしている先生がこの本では多いのですが,高校生のレベルを無視した,または高校生に何がわかっているかがわかっていない先生も中にはいます。でも,わかる・わからないが問題なのではなく,興味が持てるかどうかが問題だと考えて読むのがいいと思います。全体的には,少しでも高校生の興味を引こうと考えた授業がいっぱいあります。わたし的には今回は文系的な話の方が面白かったかな。前は理系の方が面白かったんだけど。生物学関係がちょっと専門的すぎる気がしました。わたしには,ということですが。

ところで,第1講には,余談っぽく次のような話が載っています。

「大学で専攻する分野を大学入学前に決めるのが日本の主流です。ちょうど,皆さんは専攻分野の決定で悩んでいるのではないでしょうか?」

「しかし,全ての若者が高校生時代に自分の興味や適性を活かす分野を見つけることが本当にできるのか,わたしは疑問に思っています。」

「高校生時代では早すぎてデータ不足,根拠に乏しく,結局,本人の適性に即した選択ができていないのではないかと危惧します。大学に入る前に大学での専攻を決めるのではなく,大学でじっくり時間をかけていろいろな分野の学問に触れ,自分の適性にあった分野を探すことが必要だと思います。そのような,大学で広くじっくりと学ぶ時間を許すのが『リベラル・アーツ教育』です。」

これはわたしも賛成ですし,そのように考えている高校生・父兄・高校教師・大学教師はかなりたくさんいると思うのですが,なかなか,というか全く事態は変わりません。このへんのことは,またあらためて考えてみたいと思います。

 

《 目次 》

PART 1 : リベラル・アーツの世界へようこそ

第1講 スーパーマンを救え ― 再生医学の最前線 松田良一

第2講 あみだくじの数理 ― 「自由」な数学の魅力 桂利行

第3講 民主主義は今も魅力があるのか ― 問い直す意味 森政稔

第4講 「今ここにいる自分」の謎を解く ― 哲学への招待

 

PART 2 : 学問と実践 地球大の広がり

第5講 地球は「やさしい惑星」か ― 生命の絶滅と進化 磯﨑行雄

第6講 人生をファンタジー化しよう ― 中国・黄土高原から 安富歩

第7講 アフリカの飢餓・貧困と闘う ― 日系人科学者として Gordon H. Sato

 

PART 3 : 知る・学ぶことの意味,その喜び

第8講 榎本武揚から見た明治維新の世界 ― 領土国家の形成 臼井隆一郎

第9講 イングリッシュ・ガーデン誕生の裏側 ― その美学と政治学 安西信一

第10講 ふるまいと記述 ― 文化人類学の異文化理解 森山工

第11講 朝永振一郎と湯川秀樹 ― 高校時代からの軌跡 岡本拓司

 

PART 4 : 人間と社会を支える科学の力

第12講 先天的な運命は変えられるか ― 生命科学の発展 安田賢二

第13講 生物が持つ分子機械 ― 形と働きを解明する 栗栖源嗣

第14講 エネルギー源としての乳酸 ― 運動と疲労の関係 八田秀雄

第15講 快適生活を支える物性物理 ― 身近な世界への応用 前田京剛

 

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by rickie | Posted in いろんな本, 学問を知る | No Comments »

『16歳からの東大冒険講座 [3] 文学/脳と心/数理』

7 月
2008
9

東京大学教養学部編 |出版社:培風館|2005年|1300円|高校生・一般向け|214p.|独断的おすすめ度 ★★☆☆

東京大学が高校生向けに行っている講座を書籍化したシリーズの第3弾。全三巻完結。

第2弾について書いたのはずいぶん前のような気がする。

第1冊め 「記号と文化/生命」はこちら

第2冊め 「情報/歴史と未来」はこちら

 

学問紹介や高校生のための大学教授による授業は最近ではだいぶ増えてきましたが,あまりうまくいっていないケースもあるようです。このシリーズは今でも続いていて,成功している方でしょう。

 

1部 文学

● 常識を破る ― ハムレットが太っていた  河合祥一郎

専門はイギリス演劇。

「ハムレット」にはハムレットに関して,He’s fat. という記述がある。だけどこのfatについては「汗かき」の意味だと解釈されてきた。「悩めるハムレット」という先入観がハムレット= fat というあたりまえの解釈を阻んできた。

そういうところから,文学や文化がいかに先入観から自由でないか,という方向へ話は進みます。

 

 21世紀に読み直す宮沢賢治 小森陽一

専門は近代日本文学。

宮沢賢治の『狼森と笊森,盗森』という童話を解読していきます。人間と自然との関わり,制度と権力の発生という視点での解釈です。文学の解釈としてはよくあるパターンの1つですが,高校生には強引に見えたり新鮮に感じるかもしれません。

 

 翻訳の不思議,文学のたくらみ エリス俊子

専門は日本近代の詩。

芭蕉の「古池やかはづ飛び込む水の音」の英訳18種類や,俳句に触発されたイマジズム運動,川端康成,村上春樹の英訳を紹介しながら,翻訳について語ります。翻訳家志望の高校生は時々いるのですが,これは翻訳の技術的なはなしではありません。文化の衝突としての翻訳論です。

 

 イタリア!イタリア!イタリア! 村松真理子

専門はイタリア文学,地域研究。

イタリアのあれこれを語っていて,ちょっとまとまりがないのですが,こういう語り口の方が高校生には興味が持てるかな。

 

2部 脳と心

 大学で心理学を学ぶ ― 心理学との出会い,心理学のおもしろさ ― 丹野義彦

専門は臨床心理。

心理学はいま高校生には人気が高い学問なのですが,心理学についての誤解も多く,ちょっと心配ではあります。心理学はおおざっぱに言うと,科学であることを強く志向する「認知心理学」系と,より文系的というか(こちらだって「科学」と自称するでしょうが)われわれがふつう「こころ」ということばで理解しているものを扱おうとしている「臨床心理」系の2つに分けられます(ホントはさらにこまかく分かれます)。前者は「悲しみ」とか「悩み」とか「不安」といったとらえどころのない「こころ」ではなく,人間の情処理機構としての「こころ」を扱います。そして学問的にはこっちの方が今の心理学のメジャーとなっています。大学選びの際はよくよくその辺の情報を集めておいてください。

この筆者は「臨床心理」系なのでとっつきやすいかもしれません。

 

 言語と脳から見た健康と病 酒井邦嘉

専門は言語脳科学。

こちらは認知科学系というか,脳科学のはなし。言語能力生得説(ヒトは言語を使う能力を遺伝的に持っているという説)は,今や言語学(生成文法派)のセントラル・ドグマになっていて,それを脳科学的に解明したいらしいです。わたしは,この説には???ですので,ふーんという感じですけど。

 

3部 数理

 21世紀の物理学 ― 超弦理論とはどんなものか ― 米谷民明

専門は理論物理学(素粒子論)。

「物理学って何」というすごく大きなはなしから,超弦理論というすごく高級(というかわけわかんない)理論まで,おおざっぱに語っています。物理の知識不要。

 

 知覚の複雑系理論 池上高志

専門は複雑系科学。

理系よりの認知科学。難しいですが,なんかすごいことを言っているな,おもしろそうだな,という気にはなれます。「自分がくすぐってもくすぐったくないのに,他人にくすぐられるとくすぐったいのはなぜか」なんていう問題意識はすごいと思いませんか。

 

 微積分の力 薩摩順吉

専門は応用数理。

差分から微積を考える,というはなしかな。数式は出てきますけど,それほど難しくはありません。話題のでかさから考えると,ちょっと物足りない感はありますが,時間がないんでしょうね。

 

 

このシリーズは幅広い興味がないと通読しにくいでしょう。図書館で見つけて,ぱらぱらめくって,おもしろそうなところを読む,というのがいいでしょう。

 

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by rickie | Posted in いろんな本, 学問を知る | No Comments »

『人間は動物である。ただし・・・』 爆笑問題のニッポンの教養

6 月
2008
20

著者: 山岸俊男・爆笑問題(太田光・田中裕二)|出版社:講談社|2007年|760円|高校生・一般向け|独断的おすすめ度 ★★★☆

社会心理学の紹介。

爆笑問題は研究室に到着するや,実験台にされてしまいます。この最初のカマシのせいか,太田の牙が抜かれて今回は少しおとなしめです。そのせいか,このシリーズの中では,学者と爆問とのかけあいがなかなかうまくかみ合っている方だと思います。山岸氏の提示のしかた,プレゼンテーションもうまくて,もちろん入門の入門の入門にしかなっていないとしても,読んでみると社会心理学への興味が湧いてくるのではないでしょうか。

心理学は昔の行動主義心理学の時代からよく実験をしていて,それで「マウスで実験して人間心理の何がわかるんだ」というある意味紋切り型の批判を浴びてきました。大昔わたしも図書館で「心理学概論」なる本を読み始めたものの,そんな話ばかりですぐに放り出してしまいました。でも時代は変わって,行動主義はすたれ,実験もちょっとばかりおもしろくなってきたようです。見知らぬ人同士のグループを対象にした実験で,協調して行動すれば全員に利益が少しあるが,自分だけ出し抜こうとすれば大きな利益になりうるという実験で,この実験を日本人とアメリカ人に行ってみると,日本人はおおかたの予想を裏切って,必ずしも集団の利益をアメリカ人より重視しているわけではないが,相互に監視しあう状況だとアメリカ人よりも集団志向になる,なんていうおもしろい結果が出ているそうです。(番組での実験では太田の一人勝ち。)

心理学というのは高校生には(一般にも)誤解されがちで,人間の心のひだの隅々まで知っているのが心理学者だと思っている人が多いのですが,心理学はふつう我々が使っているような意味のよろこびとか悲しみといった「こころ」を研究しているわけではないといった方がいいでしょう。そして「心理学」は個人を対象にしているのに対し,「社会心理学」は社会と個人の相互作用の中での心理を研究対象にしている学問です。

タイトルの「人間は動物である。ただし・・・」は,山岸氏の発想の基本形を簡略に言ったものなのでしょう。

山岸: だから問題の立てかたとしては二とおり考えられます。

「人間と動物とは違うのだ。なぜならば人間はむちゃくちゃ頭がいいからだ。どうしてそんなに頭がいいんだろう。」

「人間だって動物だ。それなのに人間は社会を作って暮らしている。どうしてそんなことができるんだろう。」

田中: ああ,センセイは後者なんだ。

山岸: そう。これが経済学者だったら,人間はむちゃくちゃ頭がいいっていう前提で理論を作る。むちゃくちゃ頭がよくて,自分の利益だけを考えて行動をする。

田中: しかし,さっきやったような実験ではそれを裏切るような結果が出る。

太田: さあ,どう説明する,経済学!

どうやら,社会心理学はゲーム理論を横糸にして,生物学-社会心理学-経済学をつないでいくという構想を抱いているようです。人文・社会科学系の中ではどちらかというとマイナーな社会心理学ですが,けっこう大きな野望を秘めているのですね。

 

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『ヒトはなぜ死ぬのか?』 爆笑問題のニッポンの教養

6 月
2008
6

著者: 田沼靖一・爆笑問題(太田光・田中裕二)|出版社:講談社|2007年|760円|高校生・一般向け|独断的おすすめ度 ★★☆☆

爆笑問題が学者から話を聞くNHKの番組を書籍化したシリーズ。

この本では,生化学の田沼靖一(東京理科大薬学部)を訪問します。アポトーシス論とゲノム解析を基礎にして薬の開発をやっている人です。

幼いころに死というものがあることを知って,すさまじい恐怖にとらわれた人は多いのではないかと思います。たいていの人は,それ以後できるだけ死のことは考えないようにして,そんなもの存在しないよというふりをして,生きていきます。でも時々死というものを深く見つめる必要に迫られることもあります。それは,身近な人の死という人生上の転機においてだったり,何かの職業上の必要(葬儀屋さんとか)だったり,学問・思想的なあるいは文学的な関心に引きずられてだったりします。死を問う学問は,たいてい哲学や精神分析や文学であることが多いのですが,自然科学もやっと死を真正面からとらえることができるようになったのですね。

田沼氏の専門はこの「細胞のアポトーシス的な死」です。細胞の死には大きく分けてネクローシスという外側から破壊されての死と,アポトーシスというDNAに組み込まれている死の二種類があります。つまり,人は(生物の細胞は)老いてくたびれて,機能しなくなった果てに死がやって来るというよりも,あらかじめ死は遺伝子的に予定されていて,細胞は「そろそろ死ななきゃ」という感じで死んでいく(ホントか)ということです。人は死に向かう存在なわけです。たとえば,がん細胞はこのアポトーシスを忘れてしまった細胞なので,がん細胞にアポトーシスを組み込めばがん治療が可能になるというような応用が可能です。

(昔からわたしは思ってたんですが,ウィルスとか癌とかは人間の中に住み着いてるくせに,人を殺してしまう。人を殺せば自分も死んでしまうんだから,生物学的に見て,人を殺すのは無意味である。だから何とかウィルスや癌を,「おまえなあ,そんなKYなことしてんじゃないよ」と説得することができれば治療が可能だと思ってたんですが,それと似ているでしょうか。似てないよね。)

わたしは文系的人間で,太田もそうですから,「進化の過程では,アポトーシスは両性生殖とともに生まれた。つまり,性とともに死は誕生した」なんてくだりを聞くと,文学的に読み込んでしまいます。「おお,バタイユじゃん」とか「こっちはハイデガーだよね」とか。ま,そういうインスピレーションを与えてくれる本ではあります。理系の人には冷ややかな目で見られますけど。


このシリーズはその分野について深い知識を得たい,じっくり学んでみたいという人には全く向きません。その分野を知っている人にとっては,入口のそのまた入口あたりでうろうろしているようで,物足りないでしょう。その分野は全く無知で,ちょこっとのぞいてみたい,しかもあんまり苦労せずに学者の問題意識の中の面白そうなところだけを,しかも結果だけをつまんでみたい,という人向けです。だからこそ,あまり何の興味も持っていないような高校生には向いていると思います。

 

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by rickie | Posted in 学問を知る | No Comments »

『哲学ということ』 爆笑問題のニッポンの教養

5 月
2008
24

著者: 野矢茂樹・爆笑問題(太田光・田中裕二)|出版社:講談社|2007年|760円|高校生・一般向け|独断的おすすめ度 ★★☆☆

NHKで放映されている「爆笑問題のニッポンの教養」シリーズを書籍化したうちの一冊。一度でもご覧になればおわかりのとおり,爆笑問題が学者を訪ねて教わる,というか爆笑問題(もちろん太田の方が)が学者相手につっこんだり,くってかかったりというのが狙いの番組です。当然それほど深い話が期待できるわけではないですが,太田がうまく突っ込めればそれなりに面白く,かみ合わなければ編集でごまかすしかなくなります。

今回は,いきなり野矢茂樹の「田中さん,太田さん,『心って何?』と聞かれたら何と答えますか   のや」というお題で始まります。太田はテーマが文系関連だと,理系の時の,御説を拝聴させていただきます型態度とはうって変わって,本来のキャラどおり横柄・傲慢と言えそうなくらいの態度で臨むようですね。それはそれでいいのですが,議論はいまいち咬み合いません。でも,咬みあわないまます進んでいくところどころに,哲学的な考え方とはどういうものなのかがかいま見えないわけでもありません。

「日本の哲学は,欧米の哲学の解説・紹介しかしない」と言われ続けて久しくなります。特に日本の哲学者は大陸系(ドイツ・フランス)の影響を強く受けてきましたから,デカルト・カントが,ヘーゲル・マルクスに,それがサルトル・ハイデガー,そしてドゥルーズ・デリダと時代とともに変わっても,コピーとアレンジという基本線はあまり変わらなかったのは確かです。最悪の場合は,哲学=哲学史・思想史的知識となり,「ニーチェが・・・」「フッサールによれば・・・」という name dropping が哲学そのものとなり,「知ること」が「考えること」を抑圧する,という悪しき図式が暗黙のうちに支配してきたようです。その批判は,ひとつにはここ十数年の英米系哲学の流行という形で,あらわれてきました。英米系は,どちらかというと,ということだけど,知識のよろいで身をまとうより,徒手空拳で課題にぶつかるのを好むようです。哲学者は「ものしり博士」であるより,「考える人」であるべきだ,ということになります。

この本に戻ると,哲学者の名前はほとんど出てきません。野矢は,太田と対等の立場で「心とは何か」についての議論を知識としてではなく,先人が何を言ったかではなく,ごくごく普通のことばでゼロから考えようとしているように見えます(ホントはゼロからなんかではないですが)。

野矢: だから一枚岩の「これが心です」って言えるようなものはなくて,世界に入らなかったから,とりあえず心に入れておきましょうみたいな「ゴミ箱」みたいなものになっていると思うの。それが僕らが思っている「心」っていう概念。

この本を読むのに,哲学用語の知識は全く必要ありませんが,彼らの考えの筋道をたどる努力は必要です。それを小さな哲学と呼べなくはないでしょう。後半では,野矢と太田はなんとなく近づいてしまっています。この辺は番組を成立させる爆問の力量なのでしょうか。

最後のインタビュー部分で野矢は「哲学病」について語っています。多少冗談交じりでありますが,哲学者は年季の入った哲学病患者であり,初心者の哲学病患者にアドバイスできることが,哲学の社会的貢献であると。

ここで「哲学病」と言っているのはどういうことなのか説明しにくいけれど,たとえば自分とか他人というもののわけのわからなさ,常識的にあたりまえのことが,自分でも当たり前だとはわかっているけれど,でも何とも言いようのないひっかかりを感じてしまう,そういう経験のことを言っているのだと思います。おそらく誰もがそういう経験を一瞬は感じるでしょうが,ほとんどの人はすぐに忘れてしまいます。それを忘れられなくなるのが「哲学病」なのでしょう。

 

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by rickie | Posted in いろんな本, 学問を知る | No Comments »

『16歳からの東大冒険講座 [2] 情報/歴史と未来』

5 月
2008
20

東京大学教養学部編 |出版社:培風館|2005年|1300円|高校生・一般向け|210p.|独断的おすすめ度 ★★☆☆

 

東京大学が高校生向けに行っている講座を書籍化したシリーズの第2弾。第1巻目のレビューはこっちです

第1巻は理系ものが多かったのですが,今回は文系が多め。1部の最初の二つだけが理系ネタです。第1巻ほどの発見はなかったな,というのが正直な印象ですが,わたし自身文系の人間ですからそっち系の方が多少知識がある分,評価がきつくなりがちかもしれません。

このシリーズは,文系・理系ごった煮になっていて,文・理を分けた方がどの学部に進学しようか迷っている高校生にはよかったのに...という考え方も当然あるでしょう。逆に文・理を完全に分けてお互いのことは何も知らないという現在のあり方に一石を投じる意味では,これでいいのだという考え方もありえます。まっ,実際には出版社の都合でこうなったんだろうとは思いますが。

この文系・理系の壁・対立の問題で有名なのは,1950年代にイギリスの小説家兼物理学者である C. P. Snow という人が書いた(講演だったかも) “Two Cultures” という文章で,その頃からすでに文理のミゾは問題になっていました。学問は日に日に専門分化していますから,文理両方に精通することはますます難しくなっている一方,そういう人材がますます必要になっていることは確かでしょう。

第2巻のもくじは以下のとおりです。

 

1部 情報

● 携帯電話と情報の世界    川合慧

携帯電話がつながる仕組みをごく簡単にですが解説しています。糸電話は実際は伝わってない!という説にはちょっとびっくり。

 

● ソフトウェアの科学       玉井哲雄

うーん,ソフトのことを全く知らない人には入門にはなるかも。でも,最近は高校の授業でも,もっと高度なことをやっているのでは?

 

● 時計と時間の歴史       橋本毅彦

日本人は電車の発着時刻に見られるように時間に非常にうるさく,細かい...と思われていますが,実は明治時代以前はすごくルーズだったという話がおもしろい。

 

2部 歴史と未来

日米関係の現在と未来    油井大三郎

● 欧州統合を考える       柴宜弘

● 国境紛争から地域統合への道 —中ロ関係の50年—   石井明

この3本は政治・外交史のはなしです。中ロ(中ソを含む)関係史が少し面白い。「学ぶことは自己を解放することだ」というフレデリック・ダグラスのことばが印象的。

 

● 21世紀に読み直す夏目漱石 半藤一利

この人は東大の教師ではなく,漱石研究では有名な作家です。学校の宿直制度は戦前の天皇の御真影(天皇・皇后の写真)を守るためであったそうな。

 

● 馬の世界史 —世界史を再考する—   本村凌二

この人は趣味が競馬だそうです。なるほどね。馬の歴史の本でJRAから賞をもらっている!

 

● 21世紀の日本社会を考える  山脇直司

公共哲学についてです。「滅私奉公」(お国のために国民は犠牲に)でもなく,「滅公奉私」(自分の利益が全て)でもなく,「活私開公」をとなえていらっしゃるのですが,なにぶんこのスペースではちょっと本格的議論は無理ですね。注目すべき分野ですが。

 

● 日本史の謎            三谷博

少しでも日本史をかじっていればおもしろいかな。ここではおもに明治維新の謎について語っています。なぜ武士は自らの身分を葬った(廃藩置県・身分制廃止)のか,なぜ維新という変革が「復古」(王政復古)というシンボルのもとになされたのか。

 

できたら,自分の関心のないものを読んでみるといいと思います。得意な分野を伸ばすことはだいじですが,ひょっとすると得意になれるかもしれないものとの出会いがないままに終わってしまうのもさびしいと思いますよ。

 

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by rickie | Posted in いろんな本, 学問を知る | No Comments »

『16歳からの東大冒険講座 [1] 記号と文化/生命』

5 月
2008
8

東京大学教養学部編 |出版社:培風館|2005年|1400円|高校生・一般向け|246p.|独断的おすすめ度 ★★☆☆

2001年ころから東京大学が東京都立国際高校と協力して,東大の教師たちが高校生向けに授業を行うという企画「高校生のための土曜特別講座」がスタートしました。 この企画は「高校生のための金曜特別講座」と名前を変え,ベネッセの協賛を得て現在も続いています。

この講座を書籍化したのがこのシリーズで,現在までに『16歳からの東大冒険講座』が3冊,『高校生のための東大授業ライブ』が1冊の計4冊が刊行されています。

大学で研究され,教えられている学問がどのようなものなのかを知る上で参考になるばかりでなく,自分がどういうことに興味があるのかを知る上でもおおいに役立つと思います。もちろん大学教授・准教授たちの講義ですからやさしくすらすら読めるわけではないでしょうが,高校生向けにそれなりに噛み砕いて解説していますし,学問の内容それ自体を講義するというより,高校生に学問に対する関心を抱いてもらいたいという姿勢で語られていますから多少がんばればどんな高校生でもついていけるだろうと思います。

第1巻の内容は以下のようになっています。

1 部 記号と文化

<想像の未来>について   石田英敬

専門は記号論。メディアの,そして現代に生きる私たちの想像力の貧困に立ち向かうには。

 

日本語と韓国朝鮮語      生越直樹

専門は韓国朝鮮語学。韓国朝鮮語(という言い方をしなければならないことにもこの言語が置かれている状況の複雑さが表れている)の入門の入門。

 

でこぼこ道に気をつけよう —道,年号,テキスト—   宮下志朗

専門は言語情報科学。学校で教わる整理された歴史の下にうずもれている様々な逸脱やねじれを掘り起こす。

 

写真と異文化理解        今橋映子

専門は比較文学・比較文化。ジャーナリズムとしての写真,アートとしての写真。それらの写真の与える衝撃。それをどう受け止めるか。

 

2 部 生命

たまごの不思議          松田良一

専門は動物学。卵のしくみと卵の知恵。

 

進化する機能性物質       菅原正

専門は有機物性化学。化学物質が生物のように進化していく?

 

海は不思議の玉手箱       竹井祥郎

専門は海洋生物学・比較内分泌学。システムとしての海の可能性と不思議。

 

進化とはなんだろうか       嶋田正和

専門は行動生物学。生物学の根底にある進化への入門。

 

ヒトゲノムの解読と人権      石浦章一

専門は分子認知科学。天才の脳神経系はどこがちがうか。人種とは何か。遺伝子治療とは?科学と疑似科学。

 

体は細胞のすみか:そしてあるじはわたし —自分を知る生命科学—  跡見順子

専門は運動生命科学・身体運動科学・宇宙生物化学。宇宙の中の私の中の細胞の中身と私たち自身。

 

どれもなかなかおもしろくて,わかりにくいとすればむしろ短すぎ過ぎるからでしょう。私のおすすめは,「写真と異文化理解」とか,理系全般(理系の知識がこっちに欠けているので)。

全3巻ありますが,各巻の中に文系・理系が混ざっています。文・理に分冊して出版することは可能だったでしょうが,あえてそうしなかったことを評価したいと思います。「僕は文(理)系なので,理(文)系のはなしは苦手」というひとは多いでしょうが,それは自分で自分を「×系」の中に縛りつけて不自由にしているのと同じことです。広く関心を持つことの意味と効用はかなり後になってからでないとわかりませんが,悪いことは言いません,いろいろと知的浮気をしてみた方がいいと思いますよ。

 

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by rickie | Posted in いろんな本, 学問を知る | No Comments »

学問の見取り図

2 月
2008
15

Discipline Chart

学問の見取り図

大学の学部・学科では,たとえば,「心理学」と「社会心理学」を一つにして「心理学科」にしていたり,逆に細かく分けたりしています。たとえば,工学部の中に,電子工学,機械工学,土木工学があり,機械工学の中に自動車工学があるなど。

チャート内では,近くにある学問が相互に密接な関係をもった学問,になる予定でしたが,たとえば「地質・気象学」は(自然)地理学と天文学に近づけようと思ったら,関係ない数学にも近づいてしまった。どうも,3次元チャートにしなければむりなようです。

ガクモンのいろいろ

定番教科書がある学問(これだけやればなんとかなる)

  • 自然科学全般(とくに,理論物理や,理論化学など理論面)
  • 法学(法哲学や,法社会学,法思想史を除いた実定法学)
  • 経済学(ミクロ・マクロの理論)

定番教科書なんかありえない学問

  • 哲学・思想
  • 文学

 

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by rickie | Posted in 未分類 | No Comments »

どんな基準で大学・学部を選ぶのか?

2 月
2008
1

進路を決めろと言われても・・・

将来つきたい職業が決まっている人,自分が勉強したいことがはっきりとしている人なら話はかんたんです。その決まっている道を実現できそうな大学・学部の中から,今の自分の実力を考えて目標校やすべり止め校を考えるだけです。でも,その道が決まっていない,そもそもどんな道があるのかもよくわからない,という人が多いのではないでしょうか。親や教師に「どうするんだ?」とせっつかれ(おどされ?),まあそのうちに決めようと先延ばしにしている人も多いでしょう(私もそうでしたが)。決まらないことは何も恥ずかしいことではありません。

ある意味では,大学・学部で自分の将来の道が少なからず決まってしまいます。といっても,別に大学の名前で決まるわけではありません。いわゆる三流大学に入ると希望の持てない人生になると脅かす人もいるでしょうが,三流の人生を送る一流大学出身者は数え切れないくらいいます。三流大学だからどうのこうのということばは,本当は自分には中身がないことをうすうす気づいている「一流」大学出身者の,それがあばかれる恐怖心から出たことば,ないしは自分で自分の道を切り開けず,それを大学のせいにして責任転嫁している人たちのことばである可能性が高いでしょう。大学の名前で決まってしまう人生なんかつまらない人生です。

「大学・学部で自分の将来が少なからず決まる」と言ったのは,それが自分はどういう人間になりたいのか,そしてこれから社会にどう関わっていくのか,を考えていくことに等しいからです。無論,大学・学部だけで決まるわけではありません。むしろ,大学に入った後,いや一生のあいだ考えていくべきことでしょう。すでに今までにその問いにつきあたたった人もいるでしょうが,大学進学は(または就職という選択肢,ニート・フリーターという選択肢でさえ)自分がこの世の中でどのような人間になり,どのような人間として見てもらいたいのかのスタンスを決める第一歩になるでしょう。一生の方向性が決まればラッキーではありますが,決まったからといってその問いの最終的答が出たわけではありません。一生の問いなのですから。

 

将来の職業で選ぶ

医者なら医学部,法曹関係なら法学部,薬品開発をしたいなら薬学部でしょうし,自動車を作るエンジニアになりたいのなら工学部,というぐあいに,すでに「この道一筋」でいきたいという人は迷うことはないでしょう。でもたとえば教師になりたい場合,教育学部でなければならないわけではありませんし,コンピューター関係の職種についている人の中には文系の人もけっこういます。つまり,目標とする職業が決まっていても,学部選択には幅がありえます。さらには,考えている職業は一応あるけれど,「この道一筋」というほどの決意を固めているわけではない人(きっと多いよね),なんとなく英語を使う仕事がしたいというようなあまりに漠然とした願望を持っている人(これはもっと多い),そして仕事なんかまだぜんぜん考えてないという人(一番多いでしょう)などは,大学に入ってから煮詰めていくわけですから,受験の時点ではなかなか答は出せません。

まとめると,

  1. この道一筋でいくから,この学部しかない
  2. 決断してはいないが,意中の仕事はあるので,一応この学部
  3. 職業については漠然とした願望しかないので,これ系とこれ系の学部
  4. ぜんぜん考えてないので,文系・理系しか決まっていない,またはそれも未定

というかんじになりそうです。

ふつう,大人たちは2よりは1,3よりは2,4よりは3を評価します。「将来のことをちゃんと考えなさい」というわけです。僕もそういう評価の仕方を否定はしません。

否定はしませんが,人生は長く,そして意外性に満ちているものです。挫折もあれぱ,予期せぬチャンスもありえます。考え方も変わるし,古い夢を捨てて新しい夢を見つけることもあれば,家族環境の急変,恋愛,結婚,経済問題,病気・事故といった厳しい現実が突如襲いかかってくることもあります。僕の周囲にも,超難関大学医学部に入った後,エリート医師への道を捨ててしまった人,外務省のエリート官僚になったのにあっさりやめてしまった人などがゴロゴロいます。

それに,こういってはなんですが,みなさんはその職業がどういうものか本当に知っていますか?その学部が何を教えてくれるのかわかっていますか?胸を張って「もちろん」といえる人は少ないと思います。

結局,先ほどのリストで言うと,あなたが2や3に該当するなら,それでじゅうぶんだと僕は思っています。4だとちょっと困りますが,1である必要はないと思います。

 

あこがれの人(ロールモデル)で選ぶ

あこがれの人といっても,異性のことを言っているわけではありません(あっ,それもアリかな)。自分も,あんな人になりたいという願望をいだく対象のことです。有名人のこともあれば,身近な親,教師,先輩などのこともあるでしょう。「あんなふうになりたい」と思う対象のことをロールモデル( role model )といいます。

「あんな人になりたい」というのは,おもにその人の人格・人間性についてのことですから,必ずしも大学・学部の選択と結びつくわけではありませんが,でも,もしあなたにロールモデルがいて,その人と同じ道を選んでみたいと考えているなら,それはたいせつにすべき選択肢です。このページの最初に,大学・学部選択は「自分はどういう人間になりたいのか,そしてこれから社会にどう関わっていくのか」の第一歩になると言いましたが,ロールモデルというのはまさしくそれだからです。

 

ミエで選ぶ

これは,いちばん安易でいちばんダメな選び方,といいたいところですが,もちろん誰でもやっていることであり,これを否定することは誰にもできないでしょう。ひょっとするとこれも大切なことかもしれません。

ミエというのは,自分をより大きく,すばらしく,立派にみせようとするプライドと言っていいかもしれません。だとすれば,それはある意味で健全なことで,特に青年時代には誰もが何かの点で向上しようともがいているわけですからミエをはるのは当たり前のことです。ただ,その「より大きく,すばらしく,立派に」見てくれるのは他人の視線,他人の評価基準なわけですから,ミエだけを追い求めることは周囲の人の価値観,評価に自分を合わせることになり, 気づいてみるとひどく居心地の悪い場所にいた,ということにもなりかねません。他人の価値観に合わせて生きることは,それに少しも疑いを抱かない人にとっては気楽な生き方でしょうが,いったんズレが生じると他人の視線が苦痛以外の何物でもなくなってしまいます。大学生になって,「自分はなんでこんな大学でこんなことをしているのだろう」と思う人はかなり多く見かけます。

だから,進学後に明らかにモチベーションを保てそうもない,つまりあんまり興味もない学部をミエだけで選んでしまうのはあまりに危険です。ある程度,その学部で何を学ぶのかを頭に入れておかないと暗い気持ちで4年を過ごさなければならなくなるかもしれません。逆にそういう危険がなさそうなら,どんな選び方をしたって別に構わないわけです。

 

関心・興味を持っている分野で選ぶ

自分の今の関心で大学・学部を選ぶというのは,学問を志す高校生の模範的答えでしょうし,大学側も一番望んでいる答えです。少しでも高校生の知的・学問的好奇心を高めてもらった上で自分の進路を考えてもらいたい,というのがこのサイトのねらいの一つでもあります。ただし,いくつか考慮しておきたいこともあります。

  • 今の関心・興味といっても,たいていの場合漠然としているので,はっきりと進路を定めきれないのがふつう。(たとえば,文学が好きだとして,英米文学にするのか国文学にするのかそれいがいにするのか。物理が好きだとして,何物理にするのか,さらに理論物理的なものか,工学的なものか)
  • その学問分野について,誤解をしていないだろうか。(人の心について知りたいから心理学科,英語をやりたいので英文科という選択は失敗することもある)
  • 自分の関心は,その大学のその学部への進学で満たされるものなのか。(大学によって,教師によって当然,得意不得意やクセや個性がある)
  • 関心がいくつかあって,それがかけ離れていたらどうするのか。(たとえば,経済学とコンピュータサイエンスを両方できるのか)
  • 関心・興味はあくまで今現在の関心・興味なので,将来大きく変わることがある。そして,この変化はたいていすごくいいことである。
  • よく,本などで知った大学教授に教わりたくて大学を選ぶことがあるが,その先生が将来もその大学にいるとは限らない。お年を召した先生なら定年ということもあるし,若い先生なら大学を移ることはよくあることです。

このへんは,日本の大学教育の現在の問題点が関わってくるので,ページを改めて考えていきたいと思っています。

 

将来の職業も何に関心があるのかもよくわからない,またはいろんなことに関心があってひとつに決められないという人には,次のような大学・学部がいいかもしれません。

  • 東京大学
  • 国際基督教大学 (ICU)
  • 首都大学東京・都市教養学部
  • 横浜市立大学・国際総合科学部

などで,これらは比較的はば広い括りで進路が選べたり,大学入学後に進路変更が可能なところ(難関ばっかりですが)。それ以外でも,

  • 国際教養学部 (早稲田・上智)
  • 総合人間学部・人間科学部 (大阪・京都・上智)
  • 総合科学部 (広島・徳島)
  • 文理学部 (東京女子・日大)
  • 情報文化学部 (名古屋)

など比較的新しい学部(文理学部は昔からある)も広い領域を扱う学部です。ただ,昔からの学部と併設される形で作られた学部なので,人文系にかたよっていたりするかもしれません。詳細は各大学のホームページをご覧ください。

 

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by rickie | Posted in 未分類 | No Comments »