『16歳からの東大冒険講座 [1] 記号と文化/生命』

東京大学教養学部編 |出版社:培風館|2005年|1400円|高校生・一般向け|246p.|独断的おすすめ度 ★★☆☆

2001年ころから東京大学が東京都立国際高校と協力して,東大の教師たちが高校生向けに授業を行うという企画「高校生のための土曜特別講座」がスタートしました。 この企画は「高校生のための金曜特別講座」と名前を変え,ベネッセの協賛を得て現在も続いています。

この講座を書籍化したのがこのシリーズで,現在までに『16歳からの東大冒険講座』が3冊,『高校生のための東大授業ライブ』が1冊の計4冊が刊行されています。

大学で研究され,教えられている学問がどのようなものなのかを知る上で参考になるばかりでなく,自分がどういうことに興味があるのかを知る上でもおおいに役立つと思います。もちろん大学教授・准教授たちの講義ですからやさしくすらすら読めるわけではないでしょうが,高校生向けにそれなりに噛み砕いて解説していますし,学問の内容それ自体を講義するというより,高校生に学問に対する関心を抱いてもらいたいという姿勢で語られていますから多少がんばればどんな高校生でもついていけるだろうと思います。

第1巻の内容は以下のようになっています。

1 部 記号と文化

<想像の未来>について   石田英敬

専門は記号論。メディアの,そして現代に生きる私たちの想像力の貧困に立ち向かうには。

 

日本語と韓国朝鮮語      生越直樹

専門は韓国朝鮮語学。韓国朝鮮語(という言い方をしなければならないことにもこの言語が置かれている状況の複雑さが表れている)の入門の入門。

 

でこぼこ道に気をつけよう —道,年号,テキスト—   宮下志朗

専門は言語情報科学。学校で教わる整理された歴史の下にうずもれている様々な逸脱やねじれを掘り起こす。

 

写真と異文化理解        今橋映子

専門は比較文学・比較文化。ジャーナリズムとしての写真,アートとしての写真。それらの写真の与える衝撃。それをどう受け止めるか。

 

2 部 生命

たまごの不思議          松田良一

専門は動物学。卵のしくみと卵の知恵。

 

進化する機能性物質       菅原正

専門は有機物性化学。化学物質が生物のように進化していく?

 

海は不思議の玉手箱       竹井祥郎

専門は海洋生物学・比較内分泌学。システムとしての海の可能性と不思議。

 

進化とはなんだろうか       嶋田正和

専門は行動生物学。生物学の根底にある進化への入門。

 

ヒトゲノムの解読と人権      石浦章一

専門は分子認知科学。天才の脳神経系はどこがちがうか。人種とは何か。遺伝子治療とは?科学と疑似科学。

 

体は細胞のすみか:そしてあるじはわたし —自分を知る生命科学—  跡見順子

専門は運動生命科学・身体運動科学・宇宙生物化学。宇宙の中の私の中の細胞の中身と私たち自身。

 

どれもなかなかおもしろくて,わかりにくいとすればむしろ短すぎ過ぎるからでしょう。私のおすすめは,「写真と異文化理解」とか,理系全般(理系の知識がこっちに欠けているので)。

全3巻ありますが,各巻の中に文系・理系が混ざっています。文・理に分冊して出版することは可能だったでしょうが,あえてそうしなかったことを評価したいと思います。「僕は文(理)系なので,理(文)系のはなしは苦手」というひとは多いでしょうが,それは自分で自分を「×系」の中に縛りつけて不自由にしているのと同じことです。広く関心を持つことの意味と効用はかなり後になってからでないとわかりませんが,悪いことは言いません,いろいろと知的浮気をしてみた方がいいと思いますよ。

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