高校生用の分厚い英文法参考書のはなし (4)

英文法参考書をさらっと見ていく企画の続き。

しつこく繰り返しますが,文法上の疑問を抱いたときに辞書的に使うというのが高校生が゜この種の本を使うほとんど唯一の使い方です。通読する必要はありません。

 

徹底例解 ロイヤル英文法 (改訂新版 綿貫陽,宮川幸久,須貝猛敏 著 旺文社 2000)

この本の特徴はひとことで言えば,標準的・網羅的・手堅いということでしょうか(「ひとこと」じゃない?)。

標準的とは,あまり個性的ではないということ。「目次と索引を使って辞書的に使う」という使い方を想定しているわけですから,あまり個性的な記述でない方が便利です。最新の理論を取り入れている場合,しばしばその理論についてのおおざっぱであれ全体像の理解が必要になり,そうするとAということが知りたいのに,その説明を理解するためにA’ を調べなければならず,A’ を理解するのには...となってしまいます。

辞書的に使うには,ある程度網羅的でないと意味がありません。こまかすぎると目的の情報が見つからない危険性もあるわけですが,今はおおざっぱな文法のしくみについては理解している前提で話しています(理解していない場合はこのシリーズの(1),(2)へ)。本文中には,その説明項目と同パターンの語句のリスト(たとえば,I don’t think の型を取る動詞とか,It is ~ that で使えるが It is ~ to V では使えない形容詞とか)がボックスの中に挙げられていて,これが非常に便利です。

  • 読者対象 英語力が平均レベルの高校生~大学生レベル
  • 使用目的  文法について基礎的なことはわかっている人が,さらにすすんで調べたいと思った時のレファレンス
  • 長所 こまかい事項まで,網羅されている。リストやQ&Aのコーナーはかなり詳しく,興味を持てる人にはおもしろいだろう。
  • 短所 英語が苦手な人には知りたいポイントにたどり着くのがむずかしいかも。伝統文法の枠内で書かれている,というのはこのテの本では短所にはならないでしょう。

わたしとしては,中レベル以上の生徒には,このへんがいちばんオススメですね。売れている方なので今後も改訂が期待できます。もっとも,これ以上の改訂の余地はあまり残っていそうにないですが。

なお,別売の準拠問題集もあります。私は未見ですが。

 

表現のための実践ロイヤル英文法 (綿貫陽,マーク・ピーターセン 著 旺文社 2006)

文法書としては最新・最後発の本で,なかなかおもしろい記述が詰まっています。

「表現のための」というのがこの本の特徴でもあり,上の「徹底例解」との違い(ビミョーですが)ということになります。とくに英文を読むという受信型学習の際のレファレンスとしては,「徹底例解」の方が緻密・網羅的かもしれませんが,「表現のための」の方はポイントをいくらか絞って(いるような気がする),見方を変えて発信の視点で書かれています。といって,「読む」のには向かないというわけではなく,項目としては十分な記述がされていますから,高校生には十分でしょう。

「英文法解説」(江川)の特徴が『解説』,「徹底例解」の特徴が『リスト』と『Q&A』だとすれば,「表現のための」の特徴は『Helpful Hints』(全部で128ある)でしょう。こまかいポイントというよりも,あまり気づきにくいポイントが挙げられていますから,高校生にも有益です。おまけとしてついている「英作文のための暗記用例文300」は使えそうです(詳しく見てないけど)。

  • 読者対象 英語力が平均レベルの高校生~大学生・一般レベル
  • 使用目的  文法上の疑問点,とくに「どう書いたらいいのか」という疑問の解決に便利
  • 長所 例文や表現が新しめのものです。生徒にはこれで十分ですが,教師にも発見がいっぱいあります。
  • 短所 「読む」時には新しい英語だけを読むとは限らないのですから,その点の不満はありえますが,一冊にすべてを望むのもムリな話です。

捨てがたい本ですね。「第1回国際理解促進図書優秀賞」というのを受賞したようです。

「英語教育のコミュニケーション重視」には異論もあり得ますが,その方向性で書かれている文法参考書はこれくらいでしょう。今後のスタンダードになるかもしれません。

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