高校生用の分厚い英文法参考書のはなし (8)

いくつかの英文法参考書でひとつのポイントを調べて比較するという企画のつづきです。

前回は「同族目的語」という高校レベルではあるけれどさほど頻度は高くないポイントでした。今回は少し重要度が上がって,「劣等比較」にしてみます。まあ,テキトーな選択ではありますが。

 

「劣等比較」とは?

more や -er の比較級ではなく, less という比較級を使う表現を「劣等比較」といいます。

a_ilst075.gif

形としては,

less + 形容詞・副詞の原級 + than ~

となります。than に引きずられて比較級を使ってしまいやすいので注意。 ☓ less bigger than → 〇 less big than 。

意味は,ふつう否定で訳されて「~ほど・・・でない」となります。直訳だと「~よりも・・・の程度が低い」ということですが,これはさすがに日本語としてこなれていないし,「~ほど大きくない」を反対語を使って「~より小さい」としても悪くはないですが,形容詞が価値判断を伴う語だとちょっと言い過ぎになってしまいます(「~ほど美しくない」と「~より醜い」はニュアンスがかなりちがいます。 less beautiful than のニュアンスは前のものに近いでしょう)。

 

さて,今回は内容比較もさることながら,レイアウトや見た目にも注目です。

★ 総合英語Forest

FOREST-less

FOREST-less

項目名が「 lessを用いて『~ほど・・・でない』を表す」となっていて,本文中にも「劣等比較」ということばは見当たりません。索引にもありません。従って教師が「これは劣等比較だから...」という説明をしてそのことばを引こうとしてもダメということになります。「比較」の章全体なり,大項目なりをある程度まとめて読む前提で作られているようです。説明の方は,ほかと比べると特に詳しくはなく,必要最小限のことをうまくまとめている,という印象です。これは特に英語が苦手な生徒(つまり大半の生徒)対象という範疇内ではほめことばになるでしょう。

A is not 比較級 than B. は A ≦ B を, A is less 原級 than B は A < B を表す という記述もあります。まあ,当たり前なのですが,現実の英語では厳密には言い切れない場合はよくあるような気がします。

全体的には,教師から見るとおもしろみはないが,生徒にはこのあたりで十分だし,その範囲でみっちりことばを費やして理解させようという意図がはっきりしています。

 

★ ロイヤル英文法―徹底例解

less ロイヤル

項目タイトルは「劣等比較の構文」。でも意外にあっさりした記述で,例文もひとつだけ。

「マイナス方向の意味を表す語の場合は,一般に劣等比較では用いない」という記述もあります。ふつう as young as よりも as old as が使われるというのと同じポイントと言っていいでしょう。 less tall がふつうで, less short はあまりない,ということです。

このポイントを取り上げているのは「ロイヤル―徹底例解」だけです。

 

★ 表現のための実践ロイヤル英文法

項目タイトルは「比較級の特殊な形式 lessを使った比較」で,「劣等比較」という用語は使われていません。

訳が受験常識的な「~ほど・・・でない」でなくて,「栄養価が低い」「危険度が低い」になっているところがおもしろいですね。これは注として出ている less … than ~ と not as … as ~ の違いの話に関わっています。

less ~ than … ≒ not as ~ as … となるのはすべての本に載っていますが(「解説」以外),違いに触れているのは,「表現ロイヤル」だけです。

A is less tall than B. は,A, B 両者があまり背が高くない場合に, A is not as tall as B. は,Bは結構背が高い場合にふさわしい,という内容です。

「表現のための」というタイトルはこの説明の微妙なワーディングにも表れている気がします。受信型・英文理解に重点を置く書き方なら「~場合にふさわしい」という表現ではなく,「A is not as tall as B. という英文からはBが背が高いという前提が読み取れる」のような表現になるでしょう。

 

★ 英文法解説

項目タイトルは「 less について」で,解説も短く,「日本語では通例『より少なく~である』とは言わないので,英語のlessの訳し方には工夫の必要がある。」という書き方です。

なんか,「こんなポイント,説明する必要ないと思うけど,いちおう書いとくね。」ってな書き方ですね。

 

★ 英文法総覧

less 英文法総覧

これもあっさりした説明。というより,ふつうの比較級の説明の中に less も入れているだけで,独立項目としては扱っていません。not as ~ as に相当するという記述があるだけで,他の情報はなし。そのわりに,比較級構文は変形操作としては最も解明しにくいもののひとつである,といった記述もあり,生徒にはあまり縁のない説明です(教師にはおもしろいが)。

 

★ 英文法詳解

less 英文法詳解

less 英文法詳解

項目タイトルは「劣勢比較」。あまり使われない,文語である,little の比較級としての less と区別せよ,といった記述があって,それなりに詳しいです。生徒が陥りやすいポイントは何かということを,この筆者は意識して書いているな,という印象です。

 

基本項目になると,「解説」「総覧」は記述が(雑とは言わないが)短くさらっと流している感じです。

そういえば,同一物比較の less の用法の説明がどの参考書にも見当たりません。同一物比較の more の方はあるのですが。大学入試にもたまに取り上げられることがあります。

He is less tired than sleepy. 「彼は疲れているというよりも眠たいのだ。」

これは, not as ~ as … ではなく, not so much ~ as … で書き換えられます。

どこかに紛れて載っているのかな?

1 thought on “高校生用の分厚い英文法参考書のはなし (8)”

  1. mayuko より:

    あなたのコメント

    no so much as と not as as の違いがわかりました
    ありがとうございます!

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