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Life is the enemy of love. (Ekuni, Kaori)

3月
2008
31
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「人生は恋愛の敵よ」

江國香織の短編集『号泣する準備はできていた』の中の「熱帯夜」の一節。

「いちどこんなセリフを言ってみてえ」と思いましたね。

大地震をおこして世界中を皆殺しにすることができないのなら,考えても無駄だ。世界の中で,やっていくしかない。

「人生は恋愛の敵よ」

私は,最後にひとことだけ秋美に釘をさす。

「何のことだかわからないでしょうけど」

秋美は笑わなかった。きょとんともしていない。

「わかるわ」

と言って,スツールから降りた。

「じっとしてて」

私のうしろに立ち,背中を抱きしめて肩ごしに頬と頬をつける。

「人生は危険よ。そこには時間が流れてるし,他人がいるもの。男も女も犬も子供も」

おわかりでしょうが,二人はレズビアンカップルです。だからこそこんなセリフが言えるわけです。ほっておけば子供ができて,家庭ができて,生活が始まってしまう男女の仲ではなかなかこうは言えません。でも彼らは恋愛を純粋培養できるのかもしれません。ちょっとあこがれます。

でも,やはり無理でしょうね。彼女たちも無理なことはわかっています。この小説の終わりを読めばふたりの今の決意のようなものが見えます。

「ずーっとこのままならいいのに」

私が言い,

「ずーっとこのままだよ」

と,秋美が言う。そして二人ともいっぺんに噴きだしてしまう。

「そらぞらしい」

だから,冒頭のセリフの注としては,『泳ぐのに,安全でも適切でもありません』の「あとがき」の江國香織自身のことばの方がふさわしいのでしょう。

瞬間の集積が時間であり,時間の集積が人生であるならば,私はやっぱり瞬間を信じたい。

 

英訳は,意外に悩んで結局ありきたりのものにしました。主語と補語をひっくり返した方が理解しやすいかなとか(やっぱり落ち着きが悪いので却下),an enemy にした方がいいかなとか(他の敵は何なんだみたいな余計なことを考えさせるので却下),love じゃ広すぎるから,romantic love とか passionate love とか passion にしようかな(説明的になってしまうので却下)とか考えたのですが。日本語には「愛」「恋」「恋愛」と微妙にというか,大きく違うことばがあるので難しいところでもあり,おもしろいところでもあります。

 

 

 

 

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by rickie | Posted in 引用 | No Comments »

A Farewell to Arms (Ernest Hemingway) — paperback review

3月
2008
30
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語彙レベル★★☆☆|ストーリー★★★☆|知的興奮度★★★☆|前提知識☆☆☆☆|対象レベル 英検2級以上|ジャンル 純文学(恋愛小説)|336p.|英語

たまには古典・名作のたぐいも取り上げようかなというわけで,これまた大昔に読んだものを引っ張り出してきました。 ヘミングウェイ,「武器よさらば」。ノーベル賞受賞作家の代表作。学校では「老人と海」がよく取り上げられますが,短いからでしょうね。こちらは長編小説です。

発表は1929年。でも少しも古さを感じさせない英語です。

場面は第一次大戦中のイタリア。イタリア軍に従軍して運転手をしているアメリカ人 Henry が主人公。従軍看護婦のイギリス人女性 Catherine と出会って恋に落ちるというストーリーです。

冒頭の1パラグラフを丸ごと引用してみます。情景描写から始まります。

In the late summer of that year we lived in a house in a village that looked across the river and the plain to the mountains. In the bed of the river there were pebbles and boulders, dry and white in the sun, and the water was clear and swiftly moving and blue in the channels. Troops went by the house and down the road and the dust they raised powdered the leaves of the trees. The trunks of the trees too were dusty and the leaves fell early that year and we saw the troops marching along the road and the dust rising and leaves, stirred by the breeze, falling and the soldiers marching and afterward the road bare and white except for the leaves.

その年の夏の終わりごろ,川とそれに山地へと連なる平野を見渡せるとある村の一軒の家で私たちは暮らしていた。川底には小石が,それに日にあたって白く乾燥した大きな岩々が突き出ていた。水は澄んですばやく流れ,深いところでは青々としていた。軍隊が家の前を通って幹線道路を進み,連中が巻き上げる埃のせいで,木の葉は粉を吹いていた。木の幹も埃まみれで,その年の落葉は早く,そして私たちの目にしたのは,軍隊が道路を行進し,埃が舞い上がり,葉が風に揺られて落ちていき,兵士が行進し,その後に道が落ち葉以外白くむき出しになっている姿であった。

難しい単語はあまりなくても,読みにくいと感じるかもしれませんが,それはこの文章がある意味では「詩的」だからでしょう。and を連発していることからもわかるように,伝統的な意味での名文ではないのですが,簡潔でかつ詩のように反復が多く,視覚的イメージを連ねてリズム感を形作っています。ある意味では現代にまでつながるアメリカ文学の文体の流れの一つを作りだしたと言ってもいいと思います。

Hemingway は短編の評価が高く,”The Killers” のようにほとんど会話だけで,ストーリーが垣間見える(逆にいえばストーリーを語らない)ような作品がみごとなのですが,”A Farewell to Arms” はかなり語ってくれていて,その分わかりやすいでしょう。戦争という状況の中で,二人の異国人が恋におち,そして女性は妊娠し,さらに...という流れは現代の私たちから見れば別に珍しくもないのですが,1929年の時代状況の中ではインパクトはあったでしょう。今でも十分読むに堪える作品です。

次のはほとんど最後に近い場面です。語り手の頭の中のセリフ,いわゆる描出話法です。

Poor, poor dear Cat(=Catherine). And this was the price you paid for sleeping together. This was the end of the trap. This was what people got for loving each other.

かわいそうなキャサリン。一緒に寝たことの代償がこれなんだ。これがワナの行き止まりなんだ。愛し合うとこういうことになってしまうんだ。

そしてこう続きます。ネタバレでもありますので,あえて訳しません。

And what if she should die? She won’t die. People don’t die in childbirth nowadays. That was what all husbands thought. Yes, but what if she should die? She won’t die. She’s just having a bad time. The initial labor is usually protracted. She’s only having a bad time. Afterward we’d say what a bad time and Catherine would say it wasn’t really so bad. But what if she should die? She can’t die. Yes, but what if she should die? She can’t, I tell you. Don’t be a fool. It’s a bad time. It’s just nature giving her hell. It’s only the first labor, which is almost always protracted. Yes, but what if she should die? She can’t die. Why would she die? What reason is there for her to die? There’s just a child that has to be born, the by-product of good nights in Milan. It makes trouble and is born and then you look after it and get fond of it maybe. But what if she should die? She won’t die. But what if she should die? She won’t. She’s all right. But what if she should die? She can’t die. But what if she should die? Hey, what about that? What if she should die?

哀切,痛惨,悲傷のリフレイン。

 

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by rickie | Posted in 英語を読む | No Comments »

英和辞典を比較する (9)

3月
2008
29
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「ジーニアス」「ルミナス」「ウィズダム」「ロングマン」の4英和辞典の比較のシリーズ第9弾!

今回は,いわゆる新語がどの程度載っているかの比較です。新語は毎日地球上のどこかで生まれては消え,そのごく一部が生き残る,そういうものです。あっという間に消えるのものもあれば,定着したと思いきや消えてしまうもの,消えたかに見えて復活してメジャーになるもの,いろいろあるはずです。従って,辞書にすべてを載せることは原理的に不可能でもあるし,その必要もありません。のせ過ぎても困るし,載っていなさすぎるのも困ります。まして,このシリーズで扱っているのは英語学習者向けの辞書ですから,そのバランスは難しいでしょうね。

まず Oxford 出版局が出版している”Language Report” が選んだ,”A Word a Year” の語彙の中から,1998 ~ 2006 を取り上げてみます。直訳すれば「一年一語」,つまりその年を象徴する単語ということですから,必ずしも新語だけとは限らないわけですが,そこそこ定着した代表的なもの(ややイギリスにかたよりがちですが)ですから,学習英和でも取り上げていておかしくはない単語ということになります。

ちなみにこの “A Word a Year” はけっこうおもしろくて,1907 cat burglar (猫泥棒が流行ったの?)1920 T-shirt(この頃できたんだ),  1933 power politics (Nazisが政権を取った年), 1947 bikini (もちろん水爆実験), 1970 Big Mac, 1979 karaoke(!) なんてのもあります。

 

1998 to Google 「ググる」

全辞書に載っていますが,「ロングマン」には慣用句も出ています。

google for sth <…>を検索する | be /get googled 《米》 <ホームページなどが>アクセスされる

 

1999 blogger 「ブロガー」「ブログ作者」

「ウィズダム」を除いて全部に載っています。「ウィズダム」には blog はありますが, blogger はありません。その代り,「ルミナス」「ロングマン」には出ていない, blog の動詞用法が出ています。いずれにせよ大差ないですが。

 

2000 bling

  • ジーニアス –  bling (-) bling 《主に米略式》 [形][名]人目を引く高価なアクセサリー(をつけた)《♦ 単に bling という》
  • ルミナス –  bling bling [名] 高価[派手]な装飾品,ピッカピカ《宝石など》
  • ウィズダム –  bling 《くだけて》(宝石などの高価な)けばけばしいアクセサリー (bling bling)
  • ロングマン – bling bling [名] 《インフォーマル》(ラップミュージシャンなどがするような)派手なアクセサリー

ロングマンがおもしろいですね。ラップ系(派手)とセレブ系(高価)ではモノがかなり違うような気がしますが...

 

2001 9/11  読みは nine eleven

当然,全辞書にあります。「ウィズダム」が 「NY の貿易センタービルと Washington D.C. の国防総省」という場所を特定してやや詳しいですが。まあ引き分け。

 

2002 metatarsal

  • ジーニアス –  metatarsal 《解剖》 [形][名] 中足骨(の)
  • ルミナス –  なし
  • ウィズダム –  なし
  • ロングマン – metatarsal 《専門》[名] 中足骨(足首と足指の間にある骨) – metatarsal [形] 《通例名詞の前で》《専門》 中足(骨)の

おお,ロングマンの勝利。これは新語ではなく,単なる専門用語。これがなぜこの年に流行ったかというと,2002年の日韓ワールドカップでベッカムの不調の原因がここの怪我だったということ。のちに,ルーニーもこの怪我に泣くことになったというはなし。

 

2003 to sex something up

  • ジーニアス –  sex [動](他)《略式》<人>の性的魅力を増す (+ up) [語法] 動詞 sex には「性交する」の意味はない。
  • ルミナス –  なし
  • ウィズダム –  sex A up [up A]  A<文書など>を大げさにする,おもしろくする
  • ロングマン – なし

Oxford がどの意味で取り上げているのかは不明なのですが,おそらく「ウィズダム」の意味でしょう。というわけでウィズダムの勝利。

 

2004 chav

  • ジーニアス –  chav [名]《英俗》流行を追う無教育の若者
  • ルミナス –  chav [名]《英俗》[軽蔑]チンピラ,チャブ《派手な装飾品を身に着け,野球帽をかぶるなどした無教養な若者》
  • ウィズダム –  なし
  • ロングマン – なし

新語では大敗するかに見えたルミナスが,意外に健闘。ルミナス一勝。

 

2005 biosecurity

  • ジーニアス –  なし
  • ルミナス –  なし
  • ウィズダム –  なし
  • ロングマン – なし

ちなみに,逆の状況である biohazard は「ルミナス」「ウィズダム」にあります。ゲームじゃなくて,生物実験,院内感染などによる危険性のこと。

 

2006 bovvered

  • ジーニアス –  なし
  • ルミナス –  なし
  • ウィズダム –  なし
  • ロングマン – なし

bovver なら,ロングマン以外にはあります。若者の暴力行為,喧嘩沙汰のこと。英・古 という表記つき。

 

今度は,Oxford から離れて勝手に思いつくものを調べてみます。結果的に日本語でも使われるようなものばかりになってしまいましたが。✔ は載っているものです。

 

新語 意味 Genius Luminous Wisdom Longman
crawler 検索エンジンのサイト巡回システム × ✔*
copyleft 自由著作権(運動) × × ×
adult child 幼少期の心的外傷による未成熟 × × ×
day trading 日計り商い
MERCOSUR 南米の関税同盟 × × × ×
transgender 性同一性障害の一種
iPod   ×
V-chip 児童向けでない番組を規制するテレビ用LSI

 

transgender については,Wikipedia などをご参照ください。語義が変化していて,「ジーニアス」「ルミナス」は古い意味のようです。現在の語義はウィズダムの「性転換手術までは行わないが,異性の社会的・性的役割を実践したい[できる]人についていう」がこの中ではいちばん近いように思われます。

 

 

 

 

英和辞典比較シリーズ   総評

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by rickie | Posted in その他(高校生向け), 英語の周辺, 辞書のはなし | No Comments »

新年度のNHKラジオ語学講座

3月
2008
26
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来週月曜日,3月31日からNHK語学講座の新年度がスタートします。

新年度は語学講座が大きく模様替えするようです。私はテレビの講座は使わない主義なので,ラジオの方だけフォローしておきます。スペイン,イタリア語も現在視野に入っていないのでパス。

英語以外の講座では,

  • 今まで20分であった英語以外の語学が,英語同様15分になる
  • 旧年度の講座を「アンコール××語講座」として放送
  • 月曜~土曜だったのを,月曜~金曜にする
  • これに伴い,独では月水金が入門,火木が中級。仏では月~水が入門,木金が中級。中露韓では前期(4月~9月)が入門,後期(10月~3月)が中級

明記されていませんが,従来の「入門」,「応用」という区分を,「入門」「中級」に変えた模様です。「入門」レベルと「応用」レベルに差があったので,たぶん「応用」視聴率が低かったのではないかと思います。その問題に対する改善策ではないかと思われます。簡単にいえば,「応用」のレベルを下げた?

「アンコール」は歓迎したいですね。一年を三カ月ごとに区切り,第一四半期と第三四半期が同内容,第二と第四が同内容になるようです。入門・応用の配分は各言語でバラバラ。以前も本編で再放送をやっていましたが,「アンコール」という本編と別の形になることで複線化されています。

英語は,

  • レベルアップ英文法が消え,基礎英語が1~3になる(去年は1, 2)
  • 「英会話入門」,「徹底トレーニング英会話」,「英会話上級」,「ビジネス英会話」というラインナップが,→ 「ラジオ英会話」(遠山顕),「徹底トレーニング英会話」(岩村圭南 再放送),「入門ビジネス英語」(J.K. ギレスビー,島川洋一),「実践ビジネス英語」(杉田敏)になる
  • 「ものしり英語塾」は「英語ものしり倶楽部」に改名

こちらは中級レベルでの試行錯誤があるくらいで,あまり大きな改編とは言えないようです。NHKのネット利用はまだ端緒段階なので,こちらを期待したいですね。

個人的には,今年も杉田敏講座なのがうれしい(まあ,これだけ安定した人気だと,他の人はやりにくいだろうけど)。その他では,「ハングル」の小倉紀蔵(昨年後期)につづき,「ロシア」の黒田龍之助という売れっ子登用が楽しみです。といってもしばらくはVJ-10に録音するだけなのですが。

 

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by rickie | Posted in 外国語全般 | No Comments »

『ニッポンの小説はどこへ行くのか』 「文學界」08年4月号

3月
2008
25
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「文學界」最新号が『十一人大座談会 ニッポンの小説はどこへ行くのか』という特集を組んでいる。50年前の昭和32年,同誌が掲載した「日本の小説はどう変わるか」という座談会を踏まえた,いわば小説は50年でどう変わったのかという問題設定で行われている会のようだ。

当時の出席者は,

堀田善衛,大岡昇平,伊藤整,遠藤周作,高見順,中村光夫,石川達三,山本健吉,福田恆存,石原慎太郎,野間宏,江藤淳,荒正人(司会)

である。全員がビッグ・ネームで,今回の座談会で古井が言っているように,このメンバーに三島由紀夫,開高健,大江健三郎が加われば,当時の文壇の中心メンバーが終結したことになるほどのまばゆいメンツである。

今回の出席者は,

岡田利規,川上未映子,車谷長吉,島田雅彦,諏訪哲史,田中弥生,筒井康隆,中原昌也,古井由吉,山崎ナオコーラ,高橋源一郎(司会)

である。メンツが軽すぎないか,と言いたいわけではない(言ってもいいが)。軽く見えてしまうのは,かつて小説界を束ねていた(牛耳っていた)文壇というものがもはや存在せず,孤立した小説家群のみが存在するということが理由の一つではあるだろう。このテーマならこの小説家を入れればいいのに,と思う候補はいくらでもいるが,50人の座談会を催したとしても50年前の座談会ほどの重みは期待できない。島田や古井が言うように,かつてあった小説家たちが暗黙に共有していた何かを既に失っているからだ。80年代の頃までは,私は古井由吉と中上健次と村上春樹で現代日本の小説のすべてが語れると思っていたが,中上はすでに亡く,大病以降の古井と「ダンス・ダンス・ダンス」以降の村上はどこかへと後退を余儀なくされながら孤独な苦闘を続けているという印象がある。

小説は死んだか,という語りつくされた感のある問いがここでも反芻される。

  • 車谷 「今の時代の流れる速さで行くと,五十年くらい経ったら文学そのものは残っていくだろうけど,小説は書くことがなくなっているだろうというのが私の考えですね。」
  • 島田 「車谷さんが,小説に書くものがなくなったとおっしゃったけど,私は割とポジティブなんです。」「二十世紀文学のそれなりの蓄積はあったわけで,その中には二十一世紀の今日,リサイクルできるものはたくさんあると思います。しかし純粋に書籍の形態で文学作品を書いて,それを流通させるという昔ながらのやり方はもうすでに安泰ではないと思っています(…)」
  • 田中 「主流となっている言葉に違和感を覚えた時に,昔の本を通してしかそれを確認できないのは,いびつだと思いますし,それを現在形で考える場として,文芸誌的なものがあるんじゃないかと思うんです。たとえば自動車市場の中に,公道でのマナーに一見反する,F1があるように。」
  • 筒井 「つまり,文学はもうお終いなんじゃなくて,これからしなきゃいけないことがたくさんあると僕は思うんです。僕にはもうできないけれどね。文学がもし本当になくなるとか滅亡するとかいうのであれば,それより先に人類が滅亡すると僕は思うね。」
  • 山崎 「私としては,小説を書くことで言語芸術を作りたいと思っているので,純文学という概念はこれからも打ち出していきたい。自分がこれから時代を作っていきたいと思っています。」
  • 諏訪 「2008年現在,ちょっと暴論かもしれませんが,『読者』が死んでしまったんじゃないかという気持ちが僕にはあります。」「この先,自分だけが読みたい小説を万人が自分自身の手で書いていくという時代...『国民総オナニズム時代』が来るかもしれない,ということです。」
  • 古井 「(小説の)解体とか崩壊というと,どうかすると投げやりな感じを伴うんだけど,しかし,解体させることによって本質に迫るということはあるわけですよね。私の場合を言いますと,私の気質からしても,歳からしても元気な解体はできない(笑)。ぶっ壊しはできない。けれど,束ね束ね,守りながらほぐしていくことはできるんじゃないかと。そのときどういうことになるかというと,小説から文学へ退くんです。あるいは,文学から言葉まで退いてしまうんじゃないかと思うんです。小説の意味とか世界に対する働きということでも,ひょうとして世間一般の読む,書く,話す,の基本的現実まで考え直さなきゃならないとこに来ているんではないか。」
  • 川上 「ここから見ればすべてが見えるという絶対定まっている点がない以上,『いま』しかないという感覚はすごくあります。」「私は自分の小説で,切実に摑んでみたい,闘ってみたいというものしか扱うことができないと思っています。」
  • 中原 「一つ言えるのは,日本の文学が終わる前に,世界が終る前に自分が破綻するだろうということです。その前に転職をしなければいけないというのが,自分が今考えていることですね。」

小説の悲観的現状は共有しているようだが,若い女性の書き手(山崎,川上)からは,古風なまでの必死さ(芸術!)が伝わってくるし(新人だから?),年長の古井,車谷,筒井はかえって元気で自信に満ちているように見える。

また,切り口を変えると,分析的な諏訪,筒井,古井に対し,「最後の私小説家」たる車谷は(中原も)ぶつけられる問いを常に意図的にはぐらかし続ける。それゆえに車谷は本人も意図せぬうちに,この座談会の見えない中心としての位置を確保してしまった。

50年前の座談会では,私小説批判の大合唱に対して高見順が激昂する一幕があったらしいが,今回,編集部によって仕組まれた爆弾は車谷と中原であったのだろう。車谷はその意図を見事にかわして若手の敬意を集め,中原はねずみ花火程度だが掻きまわしてくれた。座談会出席者全員を写した写真の中の中原のふてくされぶりは,愛すべき稚気を感じさせて,むしろほほえましい。

 

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by rickie | Posted in いろんな本 | No Comments »

Practical men, who believe themselves to be quite exempt from any intellectual influences, are usually the slaves of some defunct economist. (J. M. Keynes)

3月
2008
24
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「自分はいかなる知的影響とも全く無縁だと信じている実務家も,たいていの場合,どこかのもう時代遅れになった経済学者の奴隷になっている」  (ジョン・メイナード・ケインズ『雇用・利子・貨幣の一般理論』)

  • exempt from ~   ~をまぬがれた
  • defunct     廃れた
  • some + 可算単数名詞  何らかの~,何かの~

これもよく引用される有名な文句です。原文はこの後に,

Madmen in authority, who hear voices in the air, are distilling their frenzy from some academic scribbler of a few years back.

「天からのお告げを聞くという頭のおかしい権力者も,何年か前の雑文を書き散らかす学者から,その狂気のネタをひきだしているのだ。」

とつづきます。

  • in authority  権力の座にある
  • distill   ひき出す,蒸留する
  • scribbler  三流の学者・記者など <  scribble なぐり書きする

practical men は「実務家」と一応訳しましたが,別に何かのプロの実務家ではないでしょう。理屈なんかいらない,学問など何になる,というようなタイプの人間のことです。つまり,ふつうの私たちのこととして読みたいと思います。

私たちは,思想やイデオロギーから(日本人の多くの場合には宗教からも)自由である,自由でありたいとと思っているかもしれませんが,その自由は本当はイデオロギーからの自由ではなく,現在この社会と時代の中で支配的であるイデオロギーに同調している限りにおいて与えられている自由にすぎません。周囲の人が行動規範としている(と思われる)ものに従っていれば,とりあえずご褒美として受け取れる自由,つまりある人々から見ればカゴの中,牢獄の中の自由なわけです。

この牢獄から抜け出そうとする試みは数多くありました。それが新しい芸術であったり,新しい文学であったり,音楽であったり,思想であったり,社会運動であったりしました。しかし,この牢獄から抜け出すことは簡単なことではありません。抜け出そうとする試みの多くは,押しつぶされるか,自分からつぶれてしまうだけでした。残った少数のものは何かを変革しましたが,それは次の世代にとっては新しい牢獄とうつるのでしょう。結局ここからは永久に抜け出すことはできないのかもしれません。

でも,絶望する必要はないでしょう。自分が今いる場所はカゴの中だということを心しておくだけでも,何も考えないで「おれは自由だ」と信じ込むよりはましだという気がします。カゴをぶちこわせる可能性はなさそうですが,すり抜ける(すぐ連れ戻されますが)という楽しみくらいは持てますしね。あれっ,なんか話がズレちゃいました?

 

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by rickie | Posted in 引用 | No Comments »

the silence of the lambs (Thomas Harris)– paperback review

3月
2008
23
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語彙レベル★★☆☆|ストーリー★★★☆|知的興奮度★★☆☆|前提知識☆☆☆☆|対象レベル 英検準1級以上|ジャンル 冒険小説|384p.|英語

ハンニバル・レクターのシリーズ第一作(?)にして,トマス・ハリスを知らしめた「羊たちの沈黙」。ジョディ・フォスター主演で映画化もされていますし,「別冊宝島」によれば過去20年の「このミステリーがすごい!」ベストの中から選んだ「ベスト・オブ・ベスト」の第2位(第1位は「薔薇の名前」)にもなっていますからご存知の方が多いでしょう。

でも,ごめんなさい。この本を読んだのはかなり前のことなので,だいぶいろんなことを忘れています。映画も(テレビだか,ビデオだかで)見ているので筋は覚えていますが。それ以外で覚えているのは,ストーリーは面白かったこと,でも英語としては「結構読みにくいなあ」という印象だったこと,「また猟奇殺人と幼少期のトラウマが出てくるわけね」と思ったことぐらいかな。プロファイリングという言葉が使われだしたのもこの頃のことでした。

英語として読みにくいというのは,語彙や構文の問題ではありません。専門用語が頻出するわけでもなく,文章が込み入っているわけでもありません。むしろ,表現が口語的でいわゆる「生きた英語」であったことが理由だったと思います。「生きた」というのは,パターンどうりではないということですから,時に「くずれた」「ごちゃごちゃした」にもなりえます。この辺の印象はその人の学習経験によってかなり違ってくるようです。

余談になりますが,以前ジョン・グリシャム(John Grisham)の「ペリカン文書」(”The Pelican Brief”)の読後感を同僚の教師と話したときに,「あれは読みやすいね。Agatha Christie の方がよっぽど難しい」と言われてびっくりしました。私の印象は全く逆だったからです。Christie のどの作品のことをイメージしているのかは不明ですが,私のような,読むことを中心に英語と付き合ってきた者にとっては行儀のよい Christie の英語はむしろ読みやすいように思います。アメリカ英語とイギリス英語の違いのせいでは,と思われるかもしれませんが,その同僚はイギリス留学経験のある人ですから,問題はそこではないでしょう。

さて,次はそんなに読みにくくはない部分です。主人公である FBI 訓練生である Clarice が獄中の Hannibal Lecter とはじめて対面するところ。Lecter が Sherlock Holmes のような観察眼を見せる場面です。

“You use Evyan skin cream, and sometimes you wear L’Air du Temps, but not today. Today you are determinedly unperfumed. (…)”

“(…) How did you know about the perfume?”

“A puff from your bag when you got out your card. Your bag is lovely.”

“Thank you.”

“You bought your best bag, didn’t you?”

“Yes.” It was true. She had saved for the classic casual handbag, and it was the best item she owned.

カットしたところは four-letter word があるところ。こういうのを載せるとコメントスパムが大量に来るというはなしなので。香水を「つける」のも wear と表現するのはおもしろいですね。レール・デュ・タン。そういえば,昔つき合ってた女性がおんなじ香水だったなあ。

 

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by rickie | Posted in 英語を読む | No Comments »

英和辞典を比較する (8)

3月
2008
22
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「ジーニアス」「ルミナス」「ウィズダム」「ロングマン」の4英和辞典の比較のシリーズ第8弾!

現在の学習用英和辞典には,さまざまな「囲み記事」「コラム」的な追加情報が載せられています。既に取り上げた語法以外にも,「文化」に関する情報であったり,会話上の注意事項であったり,各社がそれぞれ工夫を凝らした「囲み記事」を掲載し,これがあるためにかつての小さな文字の羅列という印象が薄れ,辞書自体がちょっと楽しいカタログ的読み物になっています。今回はその中から「類語」の比較を取り上げます。「傷つける」という意味を持つ injure と wound と hurt はどこが違うのか,というようなポイントですね。

まず,類義語としてどんな単語を選ぶのか,という問題があります。

各辞書の A のページから「類義語」の囲み記事になっているものをピックアップしてみました。ただし,ルミナスは囲み記事になっておらず,解説の末尾に小さめの活字で類義語が説明されています。(そのため見落としがあるかもしれません。)

ジーニアス は, ability, capacity, talent, gift / act, action / admittance, admission / almost, nearly / alone, lonely / area, region, district, zone / ashamed, embarrassed, shy / attempt, try / authentic, genuine の9項目

ルミナス は, ability, faculty, capacity, talent, capability / about, almost, nearly / accept, receive / accompany, attend / achieve, accomplish, attain / acknowledge, admit, confess / act, action, behavior, conduct / advice, counsel, recommendation / angry, furious, mad, indignant / answer, reply, respond / anxious, concerned, nervous / appointment, engagement, date / argument, dispute, debate, discussion, controversy / arms, weapon / arrive, reach, get to / aware, conscious の16項目

ウィズダム は, ability, capability, capacity, skill, talent, gift  / about, on, of, over / above, over / achieve, accomplish / across, over, through / action, act, deed, behavior, conduct / after, later, in, from now / ago, before, earlier / alive, living / allow, let, permit / almost, nearly / among, between, amid / anger, rage, fury, wrath / anyway, anyhow / apt, likely, liable / area, region, district, zone / at, in / aware, conscious の18項目

ロングマン は, about, on, concerning, regarding / accident, event, incident / act, action, behavior, conduct, deed / allow, permit, let / area, region, district, zone の5項目

「ジーニアス」「ロングマン」に比べ,「ルミナス」「ウィズダム」は多めです。しかし,実際探してみて気づいたのですが,たとえば alive と living のように意味よりも語法上の違いが大きいものは,「類語比較」の項目ではなく,「語法」囲みに載っている場合があります。また,囲みにせず,本文中に記載してある場合(特に前置詞)もあります。そしてもちろん,area と region の違いを area の項目ではなく region の項目で説明していることもあります。ここでの多い少ないはあくまでも A のページに載っていたのはたまたまこれらだったというにすぎません。

4つの辞典で共通していた area を取り上げてみます。

 

ジーニアス

【類語比較】 [area, region, district, zone] area は「地域」を表す最も一般的な語。region は地理的・文化的・社会的特徴によって区分された地域を表す。district は region と同じように使うこともあるが,行政上の区域についてはもっぱらこの語を用いる。zone は特別な現象の生じる地帯や特別な用途・目的のための地域を表す: Major industrial areas [districts, regions, zones ] of Japan are in Tokyo, Osaka and Nagoya. / Each election district [×area, ×region, ×zone] elects one member. / Los Angeles is in an earthquake zone [ area, ×district, ×region].

ルミナス (region の項)

【類義語】 region かなりの広さを持つ地域で,何か他と区別する特徴を持つ地域を意味する: a wooded region 森林地帯 district region よりも小さく,明確な行政区画,あるいは地域の特徴などによって明らかに区画されている地方などに用いる: an electoral district 選挙区 area 広い狭いには関係なくある region や district をいくつかに区分した場合の1つの地域: a cultivated area 耕作地域 quarter 都市の区分で,同じ種類のものが集まっている地域: the Chinese quarter 中国人居住地域 zone 用途・生産物・生息している動物,繁茂している植物などで分けた地域: a demilitarized zone 非武装地帯

ウィズダム

【類義】 [コーパス] area と region, district, zone など

area は面積の大小を問わず,一般的に地域を表す語で,明確な境界線は持たない。 region は邦楽や地名をしばしば伴い,地理的特徴などが他とは区別される広い地域をさす。 district は region よりは狭い地域をさし,school, business, financial といった目的を示す語をしばしば伴う。 zone は time zone (時間帯)のようなある基準で指定された地域や,war, parking などの特定の行動を行う区域をさす。 country は farming, rugby, wine といった特別な活動や物で知られる地域のこと。

ロングマン

【類語】 area は広さに関係なく,ある特定の地域を漠然とさす : mountainous areas 山岳地帯

region は主に地理的なかなり広い地域をいう : the northwest region of Russia ロシアの北西地域

district は国や都市の行政上の区域や特定の「地区」をいうことが多い : the shopping district 商店街

zone はある目的などのために指定された「区域」や気温などで分けられた「地帯」をいう : a no-parking zone 駐車禁止区域

 

どうでしょうか。たとえば zone の説明だけを比較すると,違いがわかりやすくなるかもしれません。

説明の仕方や用例の挙げ方にいくらか個性が見られます。「ジーニアス」は説明が少し抽象的で分かりにくいのですが,ほかには見られない用例の × 印があって,それでいくらか救われています。(余談ですが,ジーニアスはこの× 印を多用していて,日本人にはいいのですが,ネイティブには批判的な人もいるようです。)

「ルミナス」は「ジーニアス」よりは具体的な説明になっています。region と district を「広い」⇔「狭い」としているのは「ウィズダム」も同じです。意味だけで説明するとすればこの辺が妥当なのかもしれません。

「ウィズダム」は用例を入れない代わりに,修飾語を列挙するという形で説明しています。これが案外わかりやすいかも。

「ロングマン」はいちばん短い説明で,その分いちばんわかりやすいですね。「地区」,「区域,地帯」などの対応語の記述はロングマンだけです。もちろん短い説明は,切り捨てているものも多いわけですから危険と言えば危険なのですが,学習英和である以上,こういう切り捨て方もアリだとは思います。

ところで,「ウィズダム」「ロングマン」の記述を読んだ後で,「ジーニアス」の記述を読み直すと,案外すんなりと読めてきます。一つの視点からだけではなく,いろんな視点からの説明によって全体像がはっきりしてきます。よく,辞書は何がいいのか,「ジーニアス」の時代は終わったとか,いやまだまだだとかいう議論が聞こえてきますが,辞書は一つより二つ,二つより....だと思いますよ。「話せればいい」「読めればいい」という考えなら話は別ですが,外国語に対して,単なる道具以上の興味を持っているのであれば複数の辞書は必要でしょう。もちろん,特に電子辞書などという高価なものも使うとなれば,財布との相談になるわけですが...

 

 

英和辞典比較シリーズ   総評

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by rickie | Posted in その他(高校生向け), 英語の周辺, 辞書のはなし | No Comments »

英和辞典を比較する (7)

3月
2008
19
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「ジーニアス」「ルミナス」「ウィズダム」「ロングマン」の4英和辞典の比較のシリーズ第7弾!

 
 

語法上いちばん問題になるのはなんといっても動詞でしょう。今回は動詞の語法をどのように表記しているのかを取り上げます。不定詞目的語をとれるか,that節をとれるかなどがわかりやすく記述されているかが比較のポイントになります。とりあげるのは,advise の他動詞。語法表記を比較したいので,必要でない例文はカットします。

ジーニアス

advise

(他)(1) a) [SVO to do / SVO that 節] <人・広告などが>O<人>に・・・するように[・・・することを]助言する勧める; [直接話法で]「・・・」と勧める; [SV that節] ・・・だと忠告する

[語法] (1) (1)a)の意味では,that 節の動詞は《米・英正式》仮定法現在; should を用いるのは《英正式》。 (以下略)

b) [ SVO1 not to do / SVO1 against doing / SVO1 against O2 ] <人が>O1<人>に・・・しないよう[O2<事>をしないよう] 戒める,警告する

c) [SVO1 on [about, in] O2] <人が>O1<人>にO2<物・事>について助言する忠告する 《◆ wh節が来る場合は前置詞の省略不可》

(2) [ SVO / SV doing ]  <人が>O<事>を[・・・することを]勧める 《◆<物>をOとしない: recommend [× ~] a good book 》

(3) 《正式》《◆主に《商》で用いる堅い表現;一般には tell, inform, 《正式》notify 》 a) [SVO1 (of O2)] <人が>O1<人>に(O2<決定・日時など>を)通知する,<人>に[・・・について]知らせる[about]

b) [SVO (that) 節 / SOV (of) wh句] <人が>O<人>に・・・だと通知する

 

特徴は,advise という語をまず語法で分類し(1a, 1b, 1c, 2, 3a, 3b),その分類の下に意味を配置していることでしょう。ルミナスと比較してみるとこの特徴がよくわかると思います。見た目としては,この「ジーニアス」の分類法の方が整理された印象を与えます。

that 節の後ろが仮定法現在またはshould が来ることは,例文中には全辞書に書かれていますが,語法として記されているのは「ジーニアス」だけです。ただし,仮定法現在という文法用語ではちょっと不親切かもしれません。原形と書けばいいのですから。概して「ジーニアス」は利用者の文法力をやや高めに想定している感があります。

なお,(1)の c) に「《◆ wh節が来る場合は前置詞の省略不可》」という記述がありますが,これはほかの辞書には見当たりません。 wh 節が後ろに来るのはここだけなのですが((3) b) は句),google で “advised me which” という検索をかけたところ48400件該当し,この中にはwh 句も入っていますが,ざっと見積もるとその半分は節になっています。”advised me about which”は10件のみ,”advised me on which”だと20400件で,これらは句の方が多そうな感じです。「ジーニアス」のこの記述は勇み足の感を免れません。

 

ルミナス

advise

(他) 1 <人>に忠告する助言する; (・・・に)<–すること>を勧告する; <事>を勧める: He ~d me on this problem. <V+O+on+名・代> / [言い換え] We ~d them to start early. <V+O+C(to 不定詞)> = We ~d (them) that they should start early. <V+(O+)O(that節)> = we ~d (them), “You should start early.” <V+(O+)O (引用節)> = 《格式》 We ~d their starting early. <V+O(動名)>

[語法] (1) to 不定詞の方が動名詞よりも普通。 (以下略)

You are strongly ~d to have a medical checkup. <V+O+C (to 不定詞)の受身> / [言い換え] She ~d me which to buy. <V+O+O(wh句)> = She ~d me which I should buy. <V+O+O(wh節)> / Please me whether I should accept the offer. <V+O+O(whether節)>

2 《格式》《主に商》 <・・・>に通知[通告]する

advise をまず意味で2つに分け,その下に例文を置き,その例文を公式化した形をその後にまとめる,という形をとっています。ジーニアスよりもこちらの方が自然な分類でしょうが,自然な分,ごちゃごちゃした印象があります。advise A against B については,この分類法では収まりが悪かったのか,熟語として別扱いをしています。例文が先で,公式を後に置いているのは一長一短ありで,微妙なところです。辞書は例文を読むもの,なのですからこれでいいと言えなくはないのですが。

もうひとつ,他の辞書に見られないのは,[言い換え]が多用されていることです。何か,大昔の大学入試問題をほうふつとさせますが,でも悪くはないですね。

 

ウィズダム

advise

(他) 1 a advise A to do<専門家・物事にくわしい人などが>A<人>に・・・するよう忠告する強く勧める](日本語の「アドバイス」と違い強制を含意)

badvise (A) that 節/ wh 節・句 (A<人>に・・・ということ[・・・か]を忠告する; 《書》[直接話法] ・・・と忠告する  (1) should の省略については→suggest (2) I advise him [his] starting at once. とすることもできるが《まれ》で,to 不定詞の型がもっとも普通)

2 advise A not to do <人などが>A<人>に・・・しないように警告する,戒める;  【~ A against B/ doing】 A<人>にB<事>を[・・・]しないように忠告する

3 advise A on B / about B <人などが>A<人>にB<物・事>について専門的助言をする

4 advise A/ doing <人が>A<事など>[・・・すること]を勧める (具体的な物品の推奨はrecommendを用いる)

5 《かたく》advise A of B /(that)節/ wh 節・句 A<人>にB<事実・状況など>を[・・・だと/・・・かを]通知[通告,伝達]する一般的な tell, inform と違い,ビジネス文書などに多用される)

分類は語法→意味という「ジーニアス」型です。「ウィズダム」はいちばん整理されて読みやすい印象があります。前二者にあっただいじなところはすべて押さえていて,SVOCではなく,do や A,B という記号表記も親しみやすいでしょう。

以前に触れておくべきだったかもしれませんが,見出し語が例文中に出てくる時,「ジーニアス」「ルミナス」は「~」という記号を使っていますが,「ウィズダム」「ロングマン」は基本的に見出し語をそのまま例文中で用いています。「~」はスペースの節約上使っているのでしょうが,見出し語そのままの方がはるかに読みやすく,「ジーニアス」「ルミナス」もそろそろこちらにした方がいいと思いますよ。

 

ロングマン

advise

1 a) 他 <人>に忠告する,助言する,アドバイスする | advise sb about/on sth <…>について<人に>アドバイスする | advise sb to do sth <人>に<…>するようにアドバイスする | advise sb against doing sth <人>に<…>しないように忠告する | advise that  ・・・ということを勧める | advise caution/ patience/ restraint 用心[忍耐,自制]するよう忠告する

b) 自 略

2 a) 他 ・・・のアドバイザー[顧問]を務める | advise sb on sth <人>の<…>について顧問をする

b) 自 略

3 他 《フォーマル》<人>に伝える | advise sb of sth <人>に<…>について伝える | advise sb that <人>に・・・ということを伝える | keep sb advised of <人>に<…>を絶えず知らせる

分類タイプとしては,意味→語法の「ルミナス」型です。SVOC, A, B という記号ではなく,sb (=somebody) と sth (= something) を使っていますが,これは英英辞典で使われている方法です。前三者が「語法公式」のようになっているのに対し,「ロングマン」は文を切り出しているような印象を与えますが,これはこれで一つのポリシーになっています。自動詞と他動詞を大別してから解説するという従来の英和のやり方を捨てていますが,これも英英型です。仮定法現在の指摘がまったくないなど,語法説明は少し不親切な感じを受けざるを得ませんが,訳語のスッキリ感はあいかわらず個性的でいいと思います。「アドバイスする」という訳はこの辞書だけですね。

 

 

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It(=tradition) involves, in the first place, the historical sense, which we may call nearly indispensable to anyone who would continue to be a poet beyond his twenty-fifth year. (T. S. Eliot)

3月
2008
18
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「伝統はまず第一に歴史意識に関わっており,25歳を過ぎても詩人であり続けようとする人には誰にとってもそれは不可欠なものだと言ってよかろう。」(『伝統と個人の才能』 T. S. エリオット)

もう少し長めに前後の文脈を引用してみます。

Yet if the only form of tradition, of handing down, consisted in following the ways of the immediate generation before us in a blind or timid adherence to its successes, ‘tradition’ should positively be discouraged. We have seen many such simple currents soon lost in the sand; and novelty is better than repetition. Tradition is a matter of much wider significance. It cannot be inherited, and if you want it you must obtain it by great labour. It involves, in the first place, the historical sense, which we may call nearly indispensable to anyone who would continue to be a poet beyond his twenty-fifth year; and the historical sense involves a perception, not only of the pastness of the past, but of its presence; ( Tradition and Individual Talent  T. S. Eliot )

「しかし,もし伝統の,伝承することの唯一の形態が,直前の世代の成功に盲目的におずおずとつき従って,そのやり方を踏襲することにあるとするならば,『伝統』などきっぱりとさえぎってしまうべきだろう。こうした単純な傾向が,やがて埋もれて消えてしまったのを我々は数多く目にしてきた。繰り返しになるよりは目新しい方がましなのだ。伝統とはもっとずっと広い意味をもった問題なのである。自然に受け継ぐことなどできはしないものなのだ。伝統を望むなら,大変な労苦の果てに手にするしかないのである。伝統はまず第一に歴史意識に関わっており,25歳を過ぎても詩人であり続けようとする人には誰にとってもそれは不可欠なものだと言ってよかろう。そして,歴史意識は,過去のみならず現在をも感じ取ることに関わっているのである。」

若い頃,この文句に出会った時はちょっと複雑な心境でした。べつに詩人になりたかったわけではないのですが,才能だけで勝負できるのは25歳までで,そこを過ぎれば「伝統」を,「歴史意識」を自らに課さねばならない,というのは自我の肥大化した若者にとっては少しうるさい重荷だったのでしょう。

もちろんここで言われているように,歴史意識とは,歴史知識とは別物であり,また過去だけでなく現在についての感覚的認識を含みます。古典に無知であるとするならば,それはそれで問題ではあるでしょうが,古典を知ったからと言って歴史意識が身についているわけではないということになります。

伝統はともすれば,歌舞伎やら法隆寺やら何かそこにある実体的なモノと考えられがちですが,それは伝統の一断面,悪く言えば伝統を固定化された「死体のようなもの」としてとらえた姿にすぎません。伝統とは,時間の中にうごめく生きものなのであって,それは今も私たちを束縛しつつ,私たちによって書き換えられつつあるもの,と考えるべきなのではないでしょうか。

いい年こいて,自分の才能なんか信じてるんじゃない,ちゃんと伝統と格闘しろよ,というのが私の読解なのですが,いつもながら勝手な読み替えですねえ。

 

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by rickie | Posted in 引用 | No Comments »

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