英和辞典を比較する (9)

「ジーニアス」「ルミナス」「ウィズダム」「ロングマン」の4英和辞典の比較のシリーズ第9弾!

今回は,いわゆる新語がどの程度載っているかの比較です。新語は毎日地球上のどこかで生まれては消え,そのごく一部が生き残る,そういうものです。あっという間に消えるのものもあれば,定着したと思いきや消えてしまうもの,消えたかに見えて復活してメジャーになるもの,いろいろあるはずです。従って,辞書にすべてを載せることは原理的に不可能でもあるし,その必要もありません。のせ過ぎても困るし,載っていなさすぎるのも困ります。まして,このシリーズで扱っているのは英語学習者向けの辞書ですから,そのバランスは難しいでしょうね。

まず Oxford 出版局が出版している”Language Report” が選んだ,”A Word a Year” の語彙の中から,1998 ~ 2006 を取り上げてみます。直訳すれば「一年一語」,つまりその年を象徴する単語ということですから,必ずしも新語だけとは限らないわけですが,そこそこ定着した代表的なもの(ややイギリスにかたよりがちですが)ですから,学習英和でも取り上げていておかしくはない単語ということになります。

ちなみにこの “A Word a Year” はけっこうおもしろくて,1907 cat burglar (猫泥棒が流行ったの?)1920 T-shirt(この頃できたんだ),  1933 power politics (Nazisが政権を取った年), 1947 bikini (もちろん水爆実験), 1970 Big Mac, 1979 karaoke(!) なんてのもあります。

 

1998 to Google 「ググる」

全辞書に載っていますが,「ロングマン」には慣用句も出ています。

google for sth <…>を検索する | be /get googled 《米》 <ホームページなどが>アクセスされる

 

1999 blogger 「ブロガー」「ブログ作者」

「ウィズダム」を除いて全部に載っています。「ウィズダム」には blog はありますが, blogger はありません。その代り,「ルミナス」「ロングマン」には出ていない, blog の動詞用法が出ています。いずれにせよ大差ないですが。

 

2000 bling

  • ジーニアス –  bling (-) bling 《主に米略式》 [形][名]人目を引く高価なアクセサリー(をつけた)《♦ 単に bling という》
  • ルミナス –  bling bling [名] 高価[派手]な装飾品,ピッカピカ《宝石など》
  • ウィズダム –  bling 《くだけて》(宝石などの高価な)けばけばしいアクセサリー (bling bling)
  • ロングマン – bling bling [名] 《インフォーマル》(ラップミュージシャンなどがするような)派手なアクセサリー

ロングマンがおもしろいですね。ラップ系(派手)とセレブ系(高価)ではモノがかなり違うような気がしますが...

 

2001 9/11  読みは nine eleven

当然,全辞書にあります。「ウィズダム」が 「NY の貿易センタービルと Washington D.C. の国防総省」という場所を特定してやや詳しいですが。まあ引き分け。

 

2002 metatarsal

  • ジーニアス –  metatarsal 《解剖》 [形][名] 中足骨(の)
  • ルミナス –  なし
  • ウィズダム –  なし
  • ロングマン – metatarsal 《専門》[名] 中足骨(足首と足指の間にある骨) – metatarsal [形] 《通例名詞の前で》《専門》 中足(骨)の

おお,ロングマンの勝利。これは新語ではなく,単なる専門用語。これがなぜこの年に流行ったかというと,2002年の日韓ワールドカップでベッカムの不調の原因がここの怪我だったということ。のちに,ルーニーもこの怪我に泣くことになったというはなし。

 

2003 to sex something up

  • ジーニアス –  sex [動](他)《略式》<人>の性的魅力を増す (+ up) [語法] 動詞 sex には「性交する」の意味はない。
  • ルミナス –  なし
  • ウィズダム –  sex A up [up A]  A<文書など>を大げさにする,おもしろくする
  • ロングマン – なし

Oxford がどの意味で取り上げているのかは不明なのですが,おそらく「ウィズダム」の意味でしょう。というわけでウィズダムの勝利。

 

2004 chav

  • ジーニアス –  chav [名]《英俗》流行を追う無教育の若者
  • ルミナス –  chav [名]《英俗》[軽蔑]チンピラ,チャブ《派手な装飾品を身に着け,野球帽をかぶるなどした無教養な若者》
  • ウィズダム –  なし
  • ロングマン – なし

新語では大敗するかに見えたルミナスが,意外に健闘。ルミナス一勝。

 

2005 biosecurity

  • ジーニアス –  なし
  • ルミナス –  なし
  • ウィズダム –  なし
  • ロングマン – なし

ちなみに,逆の状況である biohazard は「ルミナス」「ウィズダム」にあります。ゲームじゃなくて,生物実験,院内感染などによる危険性のこと。

 

2006 bovvered

  • ジーニアス –  なし
  • ルミナス –  なし
  • ウィズダム –  なし
  • ロングマン – なし

bovver なら,ロングマン以外にはあります。若者の暴力行為,喧嘩沙汰のこと。英・古 という表記つき。

 

今度は,Oxford から離れて勝手に思いつくものを調べてみます。結果的に日本語でも使われるようなものばかりになってしまいましたが。✔ は載っているものです。

 

新語 意味 Genius Luminous Wisdom Longman
crawler 検索エンジンのサイト巡回システム × ✔*
copyleft 自由著作権(運動) × × ×
adult child 幼少期の心的外傷による未成熟 × × ×
day trading 日計り商い
MERCOSUR 南米の関税同盟 × × × ×
transgender 性同一性障害の一種
iPod   ×
V-chip 児童向けでない番組を規制するテレビ用LSI

 

transgender については,Wikipedia などをご参照ください。語義が変化していて,「ジーニアス」「ルミナス」は古い意味のようです。現在の語義はウィズダムの「性転換手術までは行わないが,異性の社会的・性的役割を実践したい[できる]人についていう」がこの中ではいちばん近いように思われます。

 

 

 

 

英和辞典比較シリーズ   総評

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