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村上龍のニューヨーク・タイムズへの寄稿

9月
2009
10
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作家・村上龍が9月8日版のニューヨーク・タイムズに寄稿しています(原稿の日付は7日)。

タイトルは Japan Comes of Age 「日本は成人を迎えた」。衆院選における民主党の圧勝をめぐる日本人の変化のはなし。600語ほどの短い論文です。英文の質から考えて,村上氏が日本語で書いたものをネイティブのスタッフが英訳したものでしょう。訳者の記載がありませんので,スタッフはNYT側ではなく,村上氏側の人物だと思われます。

 

原文は → Japan Comes of Age   by Ryu Murakami (The New York Times)

  • come of age  ― 成人する

 

著作権に配慮して全文の引用・翻訳は控え,主要な論点だけをピックアップしてみたいと思います。

 

LAST week, some news outlets called it a revolution when the Democratic Party of Japan unseated the Liberal Democratic Party, which had been in power here almost continuously for a half-century. The old guard was out, replaced by a breath of fresh air. So why don’t people look happier?

The Japanese people are realizing that no government has the power to fix their problems. But this is a good thing — Japan is finally growing up.

先週,民主党が自民党を打ち破った時,メディアの中にはそれを革命と呼んだところもあった。自民党は半世紀間ほぼ一貫して政権の座にあったからである。旧態依然たる古顔が消え,新鮮ないぶきが流れ込む。だとしたら,なぜ人々は浮かない顔をしているのだろうか?

どんな政府になろうとも諸問題を解決する力はないと日本人は認識しつつあるのである。だがこれは悪いことではない。日本がようやく大人になり始めているということなのだから。

  • outlet  ― 出口,はけ口。「ニュースの出口」というのは,この場合は各種報道機関のこと
  • the Democratic Party of Japan / the Liberal Democratic Party  ― 「民主党」/「自由民主党」の英語での正式名称。略して,DPJ / LDP 。
  • old guard  ― 保守派,守旧派,古顔
  • a breath of air  ― 「一陣の風」のように空気を「数える」時に breath を使う
  • grow up   ― 大人になる

 

「人々の浮かない顔」というのは,選挙後の民主党政権に対する「期待と不安」のことを言っています。「変わってほしいけど,変わるかなあ?」というのは,国民の多くの感情を要約するもので,村上龍はこれを日本人の成長ととらえたいわけです。何ごともお上がわるい,責任は上にあり,上が変われば世の中が変わる,そういう発想自体が幼児的であるということをいいたいのでしょう。村上のその感想は選挙後に各メディアが映し出した国民の声から生まれたもののようです。人々は民主党政権に対する期待を表明しつつも,

the melancholy expressions on their faces belie their stated expectations.

言葉に表れた期待感とは裏腹に,顔に浮かぶ表情はどこか憂鬱さをにじませている。

  • belie  ― ~を隠す,~を裏切る(感情など)

 

村上は,自民党長期政権を支えてきた基盤とその変化について語ります。

In the past, the government was able to fix our problems. After World War II, Japan’s growth was largely state-directed. (…) Today, in part because of our aging society and our troubled pension system, the government simply doesn’t have the money to make everything better.

昔は,政府が諸問題を解決することは可能だった。第二次大戦後,日本の成長は主に政府主導で勧められた。(…) 今日,高齢化や年金問題の紛糾もあって,政府がすべての改善策に手をつけるには,金がまったくたりない。

  • state-directed  ― ~-directed で「~に導かれた」
  • aging society  ― 高齢化社会 (イギリス英語ではageing というつづりもある)
  • pension  ― 年金
  • simply + not  ― どうしても・まったく・・・ない (not + simply ~だけではない)

 

かつては,農村を中心とする地元に利益を誘導し,その見返りに票を獲得するという自民党を支える基盤がありました。

They(=politicians) functioned more as lobbyists than as politicians, and it’s hard to imagine a softer job. That’s why they love to have their sons and daughters follow in their footsteps.

彼ら政治家は政治家というよりもロビイストとして機能していたのだ。これ以上おいしい商売はありえないだろう。自分の子どもにあとを継がせたがるのも無理はない。

  • function  ― 機能する
  • lobbyist  ― 圧力団体
  • soft job  ― 楽な,うまみのある仕事
  • follow in one’s footstep  ― あとを継ぐ

 

しかし,高齢化や経済の停滞により,地元への利益誘導 票の獲得 という構造は破綻します。地元利益自体が齟齬をきたし,すべてを同時に改善することができなくなります。

But a landslide victory won’t give the Democratic Party the money to both construct all the roads and finance the hospitals. National and local government finances are on the verge of collapse. The Japanese are not naïve enough to rejoice over a change of administration at a time like this, or foolish enough to believe that their lives are about to improve.

だが地滑り的に勝利したからといって,道路建設と病院への補助をともに可能にする金を民主党が手にするわけではない。政府も地方自治体も財政破綻の瀬戸際にある。国民は,このような時期に政府が変わったからといって浮かれるほど単純ではないし,生活がよくなると信じ込むほど愚かでもない。

  • landslide victory  ― 地滑り的勝利
  • construct   ― 建設する
  • finance  ― 資金,資金を融資する
  • on the verge of ~  ― ~の瀬戸際で
  • naïve  ― 頭が単純な
  • rejoice over ~  ― ~をよろこぶ
  • administration  ― 行政,政府

 

すべてを同時によくすることができないとすれば,幼子のようにそれでも全部ほしいのだと泣き叫ぶか,さもなければ何かを選択するか,どちらかしかありません。

The depressing truth is hitting home.

気の滅入るような真実がぐさりと突き刺さっている。

  • depressing  ― 人を憂鬱にさせるような,落ち込むような
  • hit home  ― 胸にぐさりとくる,響く home(副)「ぐさりと,痛烈に,ずばっと」

 

日本は何かを捨て,何かを選ばなければならないという時代に来ている。

The days when everything worked like a dream and everyone’s standard of living kept rising are over, and have been for a long time. Now that there is no longer enough money, the Japanese public has to make some hard choices.

万事が夢のようにうまくいき,国民全員の生活水準は右肩上がりで上がっていくという時代はとうの昔に終わっている。十分な金がない以上,国民は困難な選択に迫られているのである。

  • standard of living  ― 生活水準
  • keep Ving  ― Vしつづける
  • now that S+V  ― 今や・・・なのだから
  •  

    最後は次のように終わります。

    Deep down, we all know this. That’s why the gloomy expressions on the faces of Japanese on the street haven’t changed. But this does not mean we are on the verge of decline or decay. We’re merely experiencing the melancholy that any child goes through as adulthood approaches.

    誰もがこうしたことを心の底では承知している。街頭での日本人のふさぎ込んだ表情があいかわらずなのはそういうわけだ。といって,日本人が衰退・衰亡のふちにいるということではない。日本人は,子どもが大人になっていく時に通過する憂鬱を今経験しているということに過ぎないのである。

    • deep down  ― 心の底で
    • gloomy  ― 憂鬱そうな
    • decline  ― 衰退
    • decay  ― 腐敗,衰退
    • go through  ― 経験する

     

     

    青年は無限の可能性を信じているが,大人というものは自己の有限性を直視し,無限の選択肢の中から困難な選択をしなければならない。選択するということは残りを捨て去ることでもある。それは憂鬱なことなのだけれど,それが大人だ。かつて無限の成長を夢見ていた日本は,やっと選択と捨象という現実を見つめる位置にたどり着いた。およそそんなことを言っているのでしょう。別に民主党を選択したことが大人だと言っているのではありません。民主党に託しつつも冷めた顔をしている,それが大人(の自覚)だ,ということです。

     

    英語としてむずかしい文章ではありませんが,少なくとも英文で読むと,論旨が取りやすい論文ではありません。論旨が前後したり,飛躍したりという箇所がいくつもあります。英語の文章としての構成とは異なる構成で書かれているからです。でも,きっと日本語の原文だとそれほどの異和感がないのだろうと推測します。そのへんが翻訳の難しさ,というか限界なのでしょうか。

     

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by rickie | Posted in 社会・時事, 英語の落としもの | No Comments »

青の選挙区,赤の選挙区

8月
2009
31
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どうでもいいことなのだけれど...

 

今回の衆院選の開票速報ページでは,各社ともだいたい,

  • 民主(その他 旧野党勢力)は,青で,
  • 自民・公明は,赤で,

勢力分布が表示されている。

 

これは,明らかにアメリカ方式を取り入れたもの。

アメリカでは,大統領選で民主党が勝った州は青,

共和党が勝った州は赤

で表示される。いわゆる,ブルー・ステート/レッド・ステートである。

→ 2008大統領選の選挙結果マップ

 

ずっとそうだったっけ。僕が気づかなかっただけなのかも。

 

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by rickie | Posted in 社会・時事, 雑記 | No Comments »

大学入試の英文の出典 ― 東京大学の場合(2)

6月
2009
30
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前回,東大の入試英文の出典を取り上げましたが,今回は出典原文と出題の間の異同がどうなっているかを調べてみます。

例として,2006年の5番の問題を扱います。前回触れたように,これはUmberto Eco (ウンベルト・エーコ)著の "How to Travel with a Salmon and other Essays" (1994) の中の How to React to Familiar Faces という章から採られています。ニューヨークでよく知った顔を見つけ,でも誰だったか思い出せず,声をかけようか逃げようか迷うというEco 自身の体験談からはじまり,それが実は知り合いでも何でもない,俳優のアンソニー・クインだと気づき,そこから話題はメディア論へと展開していく章で,原文ではペーパーバック 3ページに満たないはなしです。本文中に Eco ということばが出てきますので,出典探しは楽でした。

もともとはイタリア語で,翻訳はWilliam Weaver。わたしの持っている版と東大が使った版とが同じかどうかは不明なので,ここに挙げたものが正しいとは限りませんが,比べてみるとほぼすべて易しい英語への言い換えになっていることから考え,東大による改編だとみなせると思います。

問題によっては大幅な省略が行われることがありますが,この問題では省略箇所はありません。

なお,同じ年に同じ原文が筑波大学でも使われていて,当然ながら書き換え箇所は異なっています。出版年はだいぶ以前なのに,なぜよりによって同じ年に同じ文章を使ったのかは,わたしには謎です。

 

(表中の太字・下線は筆者。ただし12の下線部は東大。)

  原文   東大入試問題2006年
1 strolling in New York walking down the street in New York
2 those sensations you encounter those feelings you have
3 or vice versa or the other way around
4 and converse and talk to him
5 too late to flee too late to ( 2 ) him  [ (2) = get away from
6 a broad, radiant smile a big, broad smile
7 Anthony Quinn Anthony Quinn, the famous film star
8 had glimpsed had caught sight of
9 inhabit our memory live in our memory
10 debate discuss
11 expound explain
12 fall permanently into this confusion; but still you are not immune to the syndrome. And there is worse. fall permanently into this confusion — but still you cannot escape the same confusion yourself.
My problems with film stars were all in my head, of course. (6)But there is worse.
13 I have received confidences from people I have been told stories by people
14 have been subjected to the mass media have been involved with the mass media
15 I’m not talking about Johnny Carson or Oprah Winfrey, I’m not talking about the most famous media stars,
16 panel discussions talk shows
17 disagreeable experience unpleasant experience
18 when he or she can overhear when he or she can hear us
19 Such behavior would be rude, even — if carried too faragressive. Such behavior would be impolite, even offensive, ( 8 ). [ (8) = if carried too far ]
20 My guinea pigs insist that My own relatively famous friends insist that
21 at a newsstand, in the tobacconist’s, at a newsstand, in a bookstore,
22 boarding a train getting on a train
23 they encounter others they run into others
24 amiably happily
25 a protagonist a character
26 abruptly unexpectedly
27 grabbed taken hold of
28 by the lapel by the arm
29 a telephone booth a telephone box
30 Talk about coincidence! Guess what!
31 I’ve run into Anthony Quinn. I’m with Anthony Quinn.
32 (After which I would throw Quinn aside and go on about my business.) After which I would throw Quinn aside and go on about my business.
33 cinematic movie-like
34 Until we will think that — until we think that

 

原文自体がかなり易しい英語なのですが,それをさらにやさしく書き換えています。東大を受けようという受験生なら知っているだろうと想定できるものでさえ書き換えているようです。うなずける語彙レベルの書き換えは,11, 13, 20, 25, 28といったあたりでしょうか。説明を加えたり,注の手間を省いた7や15も納得できます。

しいて東大の書き換え意図を推測すれば,できるだけ語彙でつまずくのを避けて,設問箇所に集中させようということなのかもしれません。文脈から設問部分を考えさせたい,よって前後の脈絡は苦労せずに読み取れるようにさせる,好意的にとればそんなところでしょう。

5は書き換えた句を選択肢にしていますが,これはどうかな。19では順序を変えて解きやすくするねらいでしょうか。

この中では12が比較的大きく変わっています。これは,下線部(6)が「"worse"とされていることは何か。25~35字の日本語で述べよ。」という設問になっているからと思われます。東大が挿入した一文(My problems with film stars were all in my head, of course.)が問題を解く上での手がかりになるわけです。

34では,独立節として使われている until 節をダッシュで前文につなげています。高校レベルの英文法としてはこういう独立節の用法は破格であることが理由でしょう。「時・条件の副詞節では未来のことを現在形で用いて表現する」というルールに照らして,willをカットしています。原文にwillが使われているのは,独立節であるため,副詞節的性質が弱まり,untilが等位接続詞として感じられるためだと思います。

 

 

 

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by rickie | Posted in その他(高校生向け), 教育 | No Comments »

大学入試の英文の出典 ― 東京大学 の場合

6月
2009
25
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第1回で触れたように,出典を明示する大学が増えてきたとはいえ,まだ3割に満たない少数派で,出題の意図から考えて明示するのが不適切な場合もある。著作権料を払っているのかどうか,よくわからないが,そのへんの問題で出典を隠す場合もあるかもしれない。

早稲田は,国際教養,法が比較的公表する方で,後は政経,理工がぼちぼち。慶應は文学部以外は公表非公表の基準が不明,上智は昔から公表する方だろう。

東大や京大はほぼ一貫して明示しない方針でやってきた(東大後期は出典を載せることもある)。どういう意図かはわからないが,東大の要約問題ではタイトルがヒントになりうるので,出典明示が一般的になったとしても載せない方がいいだろう。

明示していなくても,現在ではネットで出典を発見することも可能になってきた。英米の新聞社・雑誌社は自社の記事をかなり大胆に無料公開している(そうでないところもあるが)し,なにより Google Book Search (グーグル・ブック検索)の存在が大きい。

どの程度発見できるか,2000年から最新の2009年までの東大の入試問題を探してみることにする。

対象は,1番の 1 の要約問題で使われる英文と,最後の5番で使われる英文とする。

 

 

● 2009年度

○ <1 の 1 > 要約問題

タイトル: Seeing 
著者: Annie Dillard

 

  ==  書籍のプレビュー  ==

 

○ <5> 長文総合問題

珍しく,新聞からの出題。

タイトル:
Looking for the Lie (New York Times Magazine February 5, 2006)

著者: ROBIN MARANTZ HENIG

 

● 2008年度

○ <1 の 1 > 要約問題

このエッセイからは,別の箇所が早稲田・政経,中央・法でも出題されている。

タイトル: About Face

著者: Joseph Epstein

 

○ <5> 長文総合問題 不明

 

● 2007年度

○ <1 の 1 > 要約問題 不明

 

○ <5> 長文総合問題 不明

 

● 2006年度

○ <1 の 1 > 要約問題

タイトル: Voice and equality

著者: Sidney Verba, Kay Lehman Schlozman, Henry E. Brady

 

   ==  書籍のプレビュー  ==

 

○ <5> 長文総合問題

記号学の大家,「薔薇の名前」の著者。

タイトル: How to Travel with a Salmon & Other Essays の中の "How to React to Familiar Faces" の章

著者: Umberto Eco

 

● 2005年度

○ <1 の 1 > 要約問題 不明

 

○ <5> 長文総合問題

タイトル: "The Lighthouse," The New Yorker, January 20, 1968

著者: Arturo Vivante

 

● 2004年度 

○ <1 の 1 > 要約問題

タイトル: Searching for memory

著者: Daniel L. Schacter

 

○ <5> 長文総合問題

タイトル: The Shadow Lines

著者: Amitav Ghosh

 

==  書籍のプレビュー  ==

 

 

● 2003年度

○ <1 の 1 > 要約問題

タイトル: Grooming, Gossip, and the Evolution of Language

著者: Robin Dunbar

==  書籍のプレビュー  ==

 

○ <5> 長文総合問題

タイトル: Neither East Nor West  

著者: Christiane Bird

 

● 2002年度

この年はどちらも有名な本。

○ <1 の 1 > 要約問題

A Lateral View
著者: Donald Richie

 

○ <5> 長文総合問題

タイトル: How the Mind Works

著者: Steven Pinker

 

● 2001年度

○ <1 の 1 > 要約問題   不明

○ <5> 長文総合問題

タイトル: The darkness of Wallis Simpson and other stories

著者: Rose Tremain

 

 

● 2000年度

○ <1 の 1 > 要約問題

タイトル: Beyond Modularity

著者: Annette Karmiloff-Smith

 

==  書籍のプレビュー  ==

 

○ <5> 長文総合問題 不明

 

トータルで,判明率70%。

 

 

 

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by rickie | Posted in その他(高校生向け), 教育 | No Comments »

大学入試の英文の出典 ― どこから採られているか? <5>

6月
2009
20
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今回は,へぇ,こんなのも出てるんだというような出典。

まずは古典。古典といっても定義はあいまいなのですが,少なくとも第二次大戦前後およびそれ以前という程度です。古くても19世紀後半が限界のようです。過去には欽定訳聖書の一部が出たこともあったような記憶がありますが。

ちなみにわたしは,古い英語を出題してもいっこうにかまわないと思っています。古い英語だけではまずいと思いますが。新しい英語が新しいとは限りません。

古典

"The Aims of Education" (1929) A. N. Whitehead 青森公立大
"Orthodoxy" (1909) G. K. Chesterton 横浜国立大
"A Short History of the World" (1922) H. G. Wells 埼玉工業大
"Democracy and Education" (1916) John Dewey 鹿児島大
"The Pearl" (1947) John Steinbeck 拓殖大
"How Does One Study Social Science?" (1915) Joseph A. Schumpeter 静岡県立大
"The Story of an Hour" (1894) Kate Chopin 福井大
"The Happy Prince" (1888) Oscar Wilde 岐阜大
"The Chrysanthemum and the Sword" (1946) Ruth Benedict 大阪薬科大
"My Mortal Enemy" (1926) Willa Cather 愛媛大

これ以外に,神学部などでは古典も多いような気がします。内容が特殊ですが。

 

 

Wikipedia

英語版Wikipediaからの出題です。もともと百科事典からの出題はよくあった(今もある)わけですが,こんなところからも出題されるようになりました。

  • Salt の項から      麗澤大
  • Exploratory engineering の項から(?)   北九州市立大

北九州市立の問題は"Exploratory engineering"の項からの出題だと思われるのですが,後半(下線部)の箇所が不明です。「原文の一部を変更している」と言っている,その変更の箇所なのでしょうがどこをもとに「変更」しているのでしょうか?別の記事と合成しているのかもしれませんが,そうでなければ「変更」というよりも「改作」「創作」みたいです。

 

問題文(全文)

次の英文を読んで,下線部を和訳せよ。

Engineering is concerned with the design of a solution to a practical problem. Scientists may ask why a problem arises, and proceed to research into the question, perhaps creating a mathematical model of their observations. By contrast, engineers want to know how to solve a problem, and how to make practical use of that solution. In other words, scientists attempt to explain phenomena, whereas engineers use any available knowledge, including that produced by science, to construct solutions to problems.

出典: Wikipedia — The Free Encyclopedia (http://en.wikipedia.org/wiki/)

(出題の都合により,原文の一部を変更している箇所がある。)

Wikipediaの原文(出題者が依ったと思われる2006年9月頃のバージョンでも,この箇所には変更はない)

Engineering is concerned with the design of a solution to a practical problem. A scientist may ask "why?" and proceed to research the answer to the question. By contrast, engineers want to know how to solve a problem, and how to implement that solution. Exploratory engineering often posits that a highly detailed solution exists, and explores the putative characteristics of such a solution, while holding in abeyance the question of how to implement that solution. If a point can be reached where the attempted implementation of the solution is addressed using the principles of engineering science, the activity transitions from protoengineering to actual engineering, and results in success or failure to implement the design.

Unlike the scientific method which relies on peer reviewed experiments which attempt to prove or disprove a falsifiable hypothesis, exploratory engineering relies on peer review, simulation and other methods employed by scientists, but applies them to some hypothetical artifact, a specific and detailed hypothesized design or process, rather than to an abstract model or theory. Because of the inherent lack of experimental falsifiability in exploratory engineering, its practitioners must take particular care to avoid falling into practices analogous to cargo cult science, pseudoscience, and pathological science.

 

 

 

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by rickie | Posted in その他(高校生向け), 教育 | No Comments »

大学入試の英文の出典 ― どこから採られているか? <4>

6月
2009
18
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2007年度と2008年度の大学入試英文のうち,その出典が英語書籍からのものをピックアップしてみます。

まず,この2年で,2大学(2学部)以上で出題されている作家を挙げてみましょう。人名の後の数字がこの2年間の出題数。出題数2 というのが多いから,もっとデータを増やせば大きく変わってくるはずだが,出典を明示していない大学は今でも多いし,数年前だとさらに少ないので今後に期待するしかない。

 

アル・ゴア (Al Gore)   [4]  ご存知,合衆国前副大統領。ノーベル平和賞受賞者(2007年)。

"An Inconvenient Truth" 「不都合な真実」 からの出題が,北九州市立大,大阪府立大,長崎大の国公立3大学。別のゴアの文章からの出題が関東学院。わたしも持っているが,読んでない!

 

アンソニー・ギデンズ (Anthony Giddens) [4]  イギリスの社会学者。ブレア政権のブレーンでもあった。出題はすべて,"Sociology" から。翻訳もされている,代表的な社会学の「教科書」。慶應・商,お茶の水,新潟国際情報,東京農工(慶應,農工は第5版,お茶大は第4版,新潟国際は第2版)。新潟国際情報で出題しているのと同じ箇所を,わたしは20年くらい前に模試の問題として新作した記憶があって,ちょっとなつかしい。

 

デール・カーネギー Dale Carnegie [3] 大富豪のカーネギーとは別人(だよね?)。出題は "How to Stop Worrying and Start Living" (邦題:「道は開ける」)が2題(岐阜,福井),"How to Enjoy Your Life and Your Job"(「人生論」)が1題(帝京)。

このカーネギーもそうだが,ここに挙げたものの中には,Self-Help ものが多いような気がします。大学入試の英文の傾向とまでは言えないのですが,英語自体がかんたんで読みやすく,内容に専門知識がいらず,たいして知的関心がない若者にも取っつきやすいということが理由なのかどうなのか,安っぽい(失礼!)人生論や処世訓話のたぐいに出くわすことがあります。もちろん昔の入試にだってそのテのものはありましたが,昔のは,イギリス人のひねくれた人生観をこねくり回した文章で綴る式の,今風に言えばヘタレインテリ向け人生論でした(ラッセルとかモームとかリンドとか)。それがアメリカの一般大衆向け処世術に変わったということでしょうか。

 

デイビッド・クリスタル David Crystal [5] イギリスの大御所言語学者。一般向けの著作も多く,英語学を中心に言語に関わる様々な問題について発言している(インターネットの言語とか言語の死滅とか方言とか)。5題中3題は"How Language Works" からの出題(お茶の水,福島県立医科大,山形)。このうち,お茶の水と福島県医は同じ箇所からの出題。その他は滋賀と上智。これは読んだ。

 

デボラ・タネン Deborah Tannen [7] アメリカの社会言語学者。言語における性差に関する問題を扱うことが多い。エッセイ風で読みやすく,人気作家といってもいいかも。"You Just Can’t Understand" (「すれ違う女と男」)が2題,"That’s Not What I Meant!" が3題。持ってるけど読んでないな。

 

ハル・アーバン Hal Urban [2] 元教師のエッセイストらしい。"Life’s Greatest Lessons"(「心の癖」を変える20の法則)から,山口大と鹿児島大で出題。これも Self-Help もの。2006年には鳥取でも出題。

 

ジャック・キャンフィールド Jack Canfield [2] アメリカに "Chicken Soup"シリーズという一連の本があって,これはいろんな人から集めた「ちょっといい話」(実話)を本にしたものです。"Chicken Soup for the Soul" から始まって,10代むけやら教師向けやら何やらかんやら,シリーズはすでに100冊以上出ています。一冊も読んでませんが。日本版も「こころのチキンスープ―愛の奇跡の物語」以降数十冊翻訳されているようです。Jack Canfield はこのシリーズの編者。一編一編が短く,入試向けに使いやすいのでしょう。数もある(1冊100話くらい×100)からネタ切れしにくいし。Jack Canfield 編を明示した問題が2題(上智,奈良教育)で,それ以外にこのシリーズをネタ元の文章が慶應,佐賀,相愛などで使われています。

 

ジェシカ・ウィリアムズ Jessica Williams [2] 音楽をやっているジェシカ・ウィリアムズとは別人(だと思う)。"50 Facts That Should Change the World"(「世界を見る目が変わる50の事実」)という本の著者で,出題もここから(神戸,名古屋市立)。現代という時代の問題点を50の事実を通して切開しようという啓蒙書。「日本女性の平均寿命は84歳,ボツワナ人の平均寿命は39歳」とか,「タイガー・ウッズが帽子をかぶって得るスポンサー料は,1日あたり5万5000ドル。その帽子を作る工場労働者の年収の38年分」とか。うーん。ウッズがもらいすぎというべきか,ウッズすげえと讃えるべきか。

 

ケイト・フォックス Kate Fox [2] 人類学者。出題は "Watching the English: The Hidden Rules of English" (「イギリス人ウォッチング―その行動に潜むコードを読み解く」)から。イギリス人の国民性についての議論。一橋と東京外国語の2007年度の問題。

 

ケイ・ヘザリ Kay Hetherly [3] 日本に在住し大学で教えている先生。NHKラジオの「英会話」のテキストに連載した英文をまとめた本が"Kitchen Table Talk", "American Pie", "Tokyo Wonderland" などで,"Kitchen Table Talk"が滋賀で,"Tokyo Wonderland"が奈良県立と山形で出題。

 

レオナード・サックス Leonard Sax [2] アメリカの医師・心理学者。出題は"Why Gender Matters" (「男の子の脳、女の子の脳―こんなにちがう見え方、聞こえ方、学び方」)から。子どもの性差と教育のあり方がテーマ。明治学院と熊本県立で出題。

 

ルイス・コープランド Lewis Copeland [2] 高校レベルの全教科を教科書的に記述した"High School Subjects Self Taught"という本の編者。この本は翻訳もなく,ハードカバーで全4巻。これは持っていますが,ぶ厚いし,ぶこつな装丁。まあ教科書的教科書です。新刊としては見当たらない。アメリカのアマゾンで入手可。

 

リサ・ベルキン Lisa Belkin [2] この人は"Tales from the TIMES"という本の編者。New York Times が一般の人から集めた実話をまとめたもの。副題が "Real-life Stories to Make You Think, Wonder, and Smile, from the Pages of the New York Times"とある。「ちょっといい話」系のようです。翻訳はなさそう。杏林,福岡教育。

 

マルコム・グラッドウェル Malcolm Gladwell [2] アメリカ在住のライター。"Blink ― The Power of Thinking Without Thinking" (「第1感 「最初の2秒」の「なんとなく」が正しい」)から横浜国立とノートルダム清心で出題。これまたセルフヘルプ系の本のようですね。

マイケル・ルモニック Michael Lemonick [2] Time誌の科学ライター。科学ネタということになりますが,書籍名は不明。信州と富山で出題。

 

ポール・オースター Paul Auster [5] いわずとしれたアメリカの小説家ですが,実は出題されている5題中4題はオースターの小説ではなく,オースターが編集した本から。"I Thought My Father Was God"という題名の本と"True Tales of American Life" という題名の本がありますが,同じ本のようです。NPRというラジオ局が集めた実話集。上の"Tales from the TIMES"や"Chicken Soup"シリーズと同工異曲ということになります。"Chicken Soup"は量で,"Tales from the TIMES"はNew York Timesの権威で,そしてこれはPaul Austerの名前で勝負しています。日本の入試ではオースターの勝ち。出版界でもそうかな。新潮文庫になっています(もちろん柴田元幸訳)し,英語対訳朗読CD付きバージョンもあります。ただし,日本版は5巻に分冊し,タイトルは「ナショナル・ストーリー・プロジェクト」です。これはNPRのラジオ番組の時の企画名。いくつか読みましたが,ホントかよって話が多いような気が。

 

レイチェル・カーソン Rachel Carson [2] 誰も環境問題なんか気にしていなかった頃に,はじめてテーマとして取り上げ普及させた人として有名ですね。入試でも何度も取り上げられましたが,いまだに出ています。だいぶ減りましたが。"Silent Spring"(「沈黙の春」)が名城,"The Sense of Wonder"(「センス・オブ・ワンダー」)が宇都宮。

 

リチャード・カールソン Richard Carlson [2] 心理学者らしい。"Don’t Sweat the Small Stuff"シリーズ(「小さいことにくよくよするな!」シリーズ)。大妻と島根。ったく,セルフ・ヘルプもの好きですね。ちょっと宗教っぽくないですか?

 

サイモン・シン Simon Singh [2] 科学ライターとしてはいま一番人気かも。"The Code Book"(「暗号解読」)から防衛大と別のが神戸大で出題。

 

鈴木孝夫 Takao Suzuki [2] 日本の言語学者。ベストセラーでもあり,現代文入試でも出題されたことがある岩波新書の「ことばと文化」を英訳した"Words in Context"からの出題。慶應・看護と九州女子。日本語の英訳からの出題は多くはないが,他に養老孟司「バカの壁」や小熊英二なんてのもあります。

 

その他で気になるのは,Oxford UP から出ている Very Short Introduction シリーズからの出題。日本の新書(昔の学術志向の)やク・セ・ジュ新書みたいな感じのシリーズで,岩波から翻訳中です。出題は,"Journalism" (東京学芸),"History"(明治学院),"Globalisation"(上智),"Global Warming"(奈良県立),"Philosophy of Science"(慶應・医 以前には早稲田・政経も)なんてところです。

 

 

 

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大学入試の英文の出典 ― どこから採られているか? <3>

6月
2009
16
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前回は英語の新聞・雑誌からの出題を扱いましたが,3回目の今回は,英語の書籍から大学入試問題に使われているものを取り上げます。

そもそも書籍に限らず,大学入試に使える英文はほんとうはかなり限られています。大学側が問題に出したい「ポイント」を含んでいなければなりませんが,といって専門的すぎる内容のものは使えません。また,受験生の語彙はどんな優秀な生徒でも現実の英語で使われる語彙に比べればごくわずかでしかなく,注をつけるにしても何十もの中で問題用紙を埋め尽くすわけにもいきません。そして量的にも他の問題や解答時間との兼ね合いで全文が掲載できないのがふつうです。ポイント,内容,量,語彙の難度などを勘案した上で出題文を選択するわけですが,そんなおあつらえ向きなものがごろごろころがっているはずものなく,したがっていきおい,

  1. 原文を大幅に改変(あちこちカットする,語彙を入れ替えるなど)して出題する
  2. 他大学で過去に出題された英文とバッティングしてしまう(いわゆる頻出長文)
  3. 他大学で過去に出題された英文を意図的に使う(いわゆる過去問再利用)

2 の頻出長文は,10年以上前に頻出長文を集めた問題集などがあちこちで出版され流行しました。そのせいか,当時取り上げられた頻出長文が今出題されることはかなり減りました。

3 の過去問再利用は,全体としては増えているようなのですが,英語に限ってはそれほど多くないのかもしれません(「入試過去問題活用宣言」のページを参照)。

というわけで,現在の主流は 1 の原文改変です。どのように改変されるのかについては,そのうち取り上げてみたいと思っています。

 

新たに入試に使える英文を探して,それに多少手を入れて出題するとしても,出題者が目を通せる英文の量も限られていて,出題に偏りが出たり,出題者に人気の英文なんてものが自然に見えてくることもあります。

 

あまり専門的なものは使えない,と先ほど言いましたが,これには例外があって,医学部・薬学部では比較的医学,薬学的な内容の英文が使われる傾向があります。一般には,たとえば文学部で自然科学,理工学部で文学論を出題することだってあるわけなのですが,医学部・薬学部では,さすがにあまりに専門に深入りしたものは出せないにしても,その学問に関係した内容(生物学の話題,医療倫理,病気や患者についての一般的話題など)を出すことにためらいはないようです。それにつづくのは,教育学部,看護学部と言ったところでしょうか。

 

「中堅大学」という呼び方が受験界には存在していて,何のことはない,偏差値から見た難易度がMARCH(ないしMARCH相当の大学)よりも下の大学のことです。なんだかなあ,という呼び名ですが,まあそれを使っておくと,「中堅大学」では大学生や一般向けのリーディング用のテキストから出題している場合がままあります。2008年では,桜美林,国士舘,関東学院,中部大学などに見られます。

別にいけないこと,非難されるようなことではありません。上で述べた入試問題に使える条件の厳しさを考えれば,ノン・ネイティブの読解力養成用に書かれた(つまり,もともとその条件を考慮した上で書かれた)英文を集めたテキストは,ある意味でうってつけなわけですが,「中堅大学」より上のレベルの大学ではあまり使われない傾向があります(2008年では広島大学くらいか?)。

  • Timed Readings (Glencoe/McGraw-Hill)
  • The Speed Reading Book (BBC)
  • Weaving it Together (Heinle & Heinle)
  • Reading Advantage (Heinle)
  • Reading Power (Longman)

などのシリーズが使われています。シリーズもの以外の単発ものや,大学教養の語学の授業で使われる南雲堂,成美堂などのテキストも見当たります。

 

次回は,どんな作家が使われているかを見てみます。

 

 

 

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大学入試の英文の出典 ― どこから採られているか? <2>

6月
2009
9
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大学入試で使われる英文の出典が明記されていても,筆者名やタイトルだけという場合もあって,その先を特定するのは面倒です。特に最近は,新聞・雑誌はネット上にも同じものがあったりするので分類しにくいのですが,一応以下のようになります。(以下のデータはすべて2008年度入試)

本 (推定) 234
新聞 65
雑誌 70
その他のメディア 18

 

2008年度(昨年度)の入試英文のうち,長文で出典が表示されているのが408題(26.7%)ですが,重複分を除いた実数では397題で,書籍を元にしていると思われるのが全体の60%,ネットなどのメディアが5%,残りが新聞・雑誌で,この二つはほぼ同じくらいの比率になります。

 

やはり書籍が多いのですが,本については次回に回すことにして,今回は新聞・雑誌を見てみます。

 おもな新聞 (数字は,出題数)

International Herald Tribune 4
The Daily Yomiuri (Web版を含む) 16
The Guardian (Weeklyを含む) 3
The Japan Times 10
The Japan Times Weekly 4
The New York Times 6
The Times (Sunday版・Web版を含む) 5
USA Today 2
週刊ST (Web版を含む) 7

新聞でいちばん多いのが, The Daily Yomiuri (16) ,それにつづくのが The Japan Times (Weeklyを含めると14),次いで 週刊ST で,やはり日本の英字新聞が上位に来ています。大学入試の長文では原文を一部書き換えることが当たり前のように行われています。英米メディアの記事を出題する場合,原文と照らし合わせてみるとズタズタになっていることも少なくありません。日本で発行された,日本について日本人が書いた英字新聞ならば,書き換え箇所が少なくてすむのかもしれません。

 

出題された記事の発行月を見てみると,いちばん遅くても10月です。大学入試は11月前にはだいたいできあがっている,と推測できます。使われているのは,前年の3月~8月の記事が中心,ということになるでしょう。このグラフに載せてないのは,月日まで公開していないデータです。2006年の記事とだけ書いてあるものが2題,2007年が4題あります。

 

 

おもな雑誌 (数字は,出題数)

Newsweek (Web版を含む) 10
Reader’s Digest 3
Scientific American: Mind (Web版を含む) 3
The Economist 4
The New Yorker 2
Time (Web版を含む) 14

雑誌は Time と Newsweek が飛び抜けています。まあ,誰もが予想することですから,意外性はありません。出題されている雑誌も,左にあげたもの以外多岐にわたっていて,新聞よりもばらつきが大きくなっていますが,これも当然と言えるでしょう。

 

発行月も新聞よりばらついています。新聞と同様,前年の3月の数ヶ月がピーク(雑誌の実際の発行日は,たとえば10月号は9月に出るといったように早くなる)ですが,それ以前のものもけっこう多いようです。出題者がふつうに雑誌を読んでいて,「あっ,これ使えるな」と思ってストックしておいたものでしょう。それに対し,前年3月以降の記事は出題委員になってから問題に使える記事を探したものなのかもしれません。

 

 

その他 (数字は,出題数)

BBC News 4
VOA (Special Englishを含む) 4

「その他」のものとしてはネットが多いのが特徴で,左のBBC とVOAはいずれも英米の放送局ですが,どちらも英語学習者用の,単語の難易度を比較的押さえたニュース記事を配信するページも持っています。

ネット記事からの出題は今後も増えていくでしょう。すでに英語版Wikipediaからの出題もあります。

 

 

 

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大学入試の英文の出典 ― どこから採られているか? <1>

6月
2009
4
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ここ数年,大学入試で使われる英文に出典が明記されているケースが増えています。

 

すべての大学・学部のすべての問題を集められるわけではないし,どんな問題を長文問題とみなすかとか,そもそもデータを集計しにくいのですが,大ざっぱなデータだけでも趨勢はわかります。たとえば2008年の全国主要大学の英語入試のうち,長文問題は1529題で,そのうち408題(≒26.2%)に何らかの形で出典が示されています。[1]

5年前の2003年では,英文総数約1350題に対し,出典の明示は約80題(≒6%)。2005年から2008年までのデータは以下のようになります。[2]

 

年度 英文数 出典明示数 割合
2005 1345 57 4.2%
2006 1318 178 13.5%
2007 1508 244 16.2%
2008 1529 408 26.7%

 

比率から言えば,まだまだ明示している問題は少ないと言っていいでしょうが,目に見えて増えているのは間違いのないところです。おそらくこの傾向はしばらく続くと思われます。

英文総数のうち75%が私立ですが,出典明示数は私立―国公立で大差ありません。ということは国公立の明示比率が高いことになります。といっても,センターや東大のように過去一度も出典を明示したことがないところもあれば,上智のようにほぼすべての長文に出典が記載されている大学もあります。

表示の仕方もさまざまです。タイトルや筆者はもちろんページまで記載している大学もあれば,タイトルのみ,筆者のみ(立命館のように)というところもあります。タイトルが問題のヒントになってしまう場合や,タイトルを答えさせる問題もあるわけですから,こまかく記載すればよいというものでもありません。

 

こうした傾向は,むろん近年の著作権・知的財産権重視の風潮を背景にしたものでしょう。入試問題にも著作権保護がなされるべきだという考えは,現代文・現代国語では当たり前になっています。著作権料を払っていない予備校が訴訟の対象となる事例もあります。問題集や予備校の場合は,いわゆる「二次利用」なので,大学が出題する問題文の著作権とは扱いがやや異なるようですし,まして英文の場合,どのような扱いがされているのかよくわかりません。二次利用である「入試問題正解」(通称『電話帳』)などでは,著作権料の支払いが行われる場合もあるらしいですし,著作権に対する配慮から問題文を掲載しなかったり,というケースもあります。特に国内に版権がある「英字新聞」からの出題に多く見られます。

 

このシリーズで採り上げたいのは,著作権の問題ではなく,入試はどこから採られているのかということです。以下で,より具体的に考えてみたいと思います。

 

 

 


  1. データはEXAM 2000~2008(JC教育研究所)にもとづく分析。以下同じ。最新の2009年のデータは未集計。 [▲ 戻る]
  2. 集計方法は,各年度の<長文読解力>問題の問題文中に「出典」「Adapted from」が含まれているか,で調査した。したがって完全ではない。 [▲ 戻る]

 

 

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「おくりびと」の受賞

2月
2009
26
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映画「おくりびと」(英語タイトル: Departures )がアカデミー賞外国語映画賞を受賞した。めでたいことである。この賞を日本の作品が受賞するのは初めてだという。

 

でも,それってそんなにすごいことなの?

カンヌの「パルム・ドール」なら,過去に「地獄門」(衣笠貞之助),「影武者」(黒澤明),「楢山節考」(今村昌平),「うなぎ」(今村昌平),ベルリンの「金熊賞」なら「千と千尋の神隠し」(宮崎駿),ヴェネツィアの「金獅子賞」なら「羅生門」(黒澤明),「無法松の一生」(稲垣浩),HANA-BI(北野武)が受賞している。

これらは『国際映画祭』であり,アメリカ映画,すくなくとも英語の映画をメインにするアカデミー賞とはちがっている。だからアカデミー賞はわざわざ『外国語』映画賞とことわっているわけだ。カンヌ・ベルリン・ヴェネツィア・トロントなどには「外国語」という断り書きのついた賞はない。どの言語,どの国籍の映画もスタートラインは同じである。

映画に順位をつけて何がおもしろいの?というまっとうな疑問は,とりあえず脇に置いておくことにする。

アカデミー賞はアメリカのお祭りであって,世界の映画の最高峰を決める祭典ではない。芸術性が基準になっているわけでもない。そんなことは自明なのだが,それでも知名度も影響力もずば抜けて高いのは,もちろん商業的な意味でのインパクトがいちばん持っているからだろう。アメリカは最大の市場であり,アメリカで興行的に成功しなければ,世界で成功したとは呼べない。

だからアカデミー賞が世界最高の映画賞であるといっても,商業的な意味ならそれほど外れていないということになるのでしょうね。アメリカのベースボールの大会にすぎない『ワールド・シリーズ』が,その年の世界最強のチームを選出する大会であると言ってもそれほど外れていないのと同じレベルで。

 

《アメリカ=世界》,《英語=世界共通語》という固定観念には誰もがうんざりしつつも,一朝一夕には改まりそうもないどころか,ますます強化されている。それに対抗しうるものも見当たらない。わたしたちはどこかで,対抗しなくてもいいやと思っているのかもしれない。世界というものをわたしたちは必要としていて,それに一番近そうなのがこの固定観念だからである。

 

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