超・長文問題を考える -2

今回は,超長文問題の出題傾向を大ざっぱに考えてみます。

なお,このシリーズで用いているデータは,入試問題データベース EXAM (JC教育研究所)に収録されているデータを独自に集計したものです。このデータペースは必ずしも全大学・全学部・全日程の全問題を収録しているわけではありません。よってそこから導き出されたデータも完全なものとは言えませんが,サンプル数はかなり大きく,特に偏りがあるわけでもなさそうなので,大きな意味での方向性は明らかになるだろうと思います。

 

超・長文問題を前回,「900語以上の長文読解問題」としましたので,それで,2000年~2009年(最新)を集計すると以下のようになります。[1]

 

年度 私立 国公立 うち国立後期 合計(a) 読解総問数 (b) 超長文占有率 (a/b)
2000 12 15 3 27 1509 1.79%
2001 12 18 4 30 1511 1.99%
2002 20 16 5 36 1276 2.82%
2003 29 24 7 53 1346 3.94%
2004 31 25 5 56 1336 4.19%
2005 27 23 6 50 1345 3.72%
2006 33 34 9 67 1318 5.08%
2007 49 35 16 84 1508 5.57%
2008 60 31 10 91 1529 5.95%
2009 36 23 5 59 1404 4.20%

 

morethan900
percentage-mt900

 

ざっと,傾向をまとめると,

  • 2000年には例外的な問題であったが,2008年まで私立・国公立とも,ほぼ着実な増加傾向にあった
  • もともと,超長文問題は,入試レベルが,MARCH またはそれに準じる大学以上のレベルの大学に集中する傾向があるので(私立の場合),それだけで考えると「超長文占有率」はさらに上がるはずで,無視できないタイプの問題になった
  • ところが,2009年入試では大きな下落が見られた

 

「入試問題の英文が長くなっている」というのは,かなり前から,おそらくこの二十年くらい言われてきたことでした。かつては,特に国公立には短い英文の和訳問題が多く出題されていましたが,短ければ文脈が取りにくく,文脈と切り離された形で和訳するということに,果たして英語力を調べる上で意味があるのか,という疑問や批判が起きるのも無理はありません。文章の断片ではなく,一つの文章の論理をできるだけまるごと提示する,というのはある意味で当然なあり方で,かつて言われた「入試英語の長文化」には十分根拠のあるものでした。[2]

毎年出版されている旺文社「全国大学入試問題正解」の巻頭の出題傾向分析は90年代を通じて,「長さは大半が600語(最初の頃は500語)以内」とあり[3] ,1000語以上のものは慶應・文やSFCくらいしかありませんでした。今世紀になって,その例外が例外の範囲を超えた,ということになります。

かつての「長文化」は理由があるものでした。しかし,「超長文化」にも根拠はあるのでしょうか。複雑な文構造をパズルを解くように知恵を絞って解釈するというあり方から,コンテンツの把握を重視した英語教育へ,という流れからすれば,「超長文化」は「長文化」の延長線上にあるものに過ぎないと考えることもできなくはないでしょう。でも,一方で「学力低下」を嘆いている大学が,片方で入試問題を難しくしているのであれば,どこか別の意図をかんぐりたくもなります。少子化のために大学は生き残り策を模索せざるをえず,そして「偏差値」は大学の「プレスティッジ」のひとつとされていますから,それを上げるために問題を難しくしているのでしょうか。

だとすると,2009年にこれが減少したのは,ひとまず歓迎すべきことなのかもしれません。大学間の競争が落ち着いたのか,現実離れした傾向に大学が気づきはじめたのか,理由はよくわかりませんが。

むろん,「超長文化」=難問化,というわけではありません。比較的読みやすい英文を大量に出題する,というあり方があってしかるべきでしょう。しかし現実は,英米の新聞や雑誌の論説をそのまま出題するという形の超長文が多く,とても高校3年生に読めたものではないという英文もしばしば見かけます。大学院入試の問題では?と思わせるようなものもあります。

 


  1. 今回の集計はあくまでも1問の長文の長さ(語数)を基準にしている。生徒の側から見れば,1問ではなくその年の英語問題全体でどのくらいの長さ(語数)を読まされるかも重要なファクターであり,また,どのくらいの時間で読まされるのかも考慮した統計が必要になる。 [▲ 戻る]
  2. かつての「長文化」は,文法問題の比重が低下したことによる副次的効果の面もあった。 [▲ 戻る]
  3. 2009年でも75%程度が600語以内。ただし,会話文問題を含む。 [▲ 戻る]

 

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