un のつく話   (ONE POINT at a time : Mar. 09)

= 接頭辞 un  =

ジョージ・オーウェル(George Orwell) の小説 Nineteen Eighty-Four (1984) は,ユートピア(Utopia)の反対に,すべてが悪夢のような社会であるディストピア(dystopia)を描いた作品です。Big Brother と呼ばれる,いるのかいないのかよくわからない独裁者に支配され,国民の行動はすべてモニターされ,もちろん言論・思想は完全に統制されている社会なのですが,言語(舞台はイギリスなので英語)も人工的に「改良」されていて,この新言語はEnglishではなく, Newspeak と呼ばれています。ことばからすべての曖昧性を廃し,むだをなくし,そもそもこの言語を使って考えると Big Brother にさからうような思考ができないような言語をめざしています。ニュアンスなどというものが入り込む余地のない言語で,語彙も制限・「改良」されていて,たとえば great という単語が廃止され代わりに plusgood (good+ ってこと), excellent は doubleplusgood (good++ ってこと)になり,逆に bad は ungood ということばになります。

 

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さて,きょうの話はこの un という接頭辞です。

接頭辞とは,もとの単語(語基とか語根とよばれます)の前にくっつけて新しい単語(複合語)を作るための要素です。日本語でも「可能」(語基)の前に「不」(接頭辞)をつけて,「不可能」という単語が作れます。ちなみに,おしりにくっつくのは接尾辞と呼ばれます。「可能性」の「性」のようなやつ。

un- という接頭辞は「打ち消し」を表す,というのはけっこう有名でしょう。日本語の「不」(「不可能」),「非」(「非常識」),「無」(「無意識」)などと似ています。ただし,un- には異なる二つの un- があるので要注意です。

  1. un + 形容詞・分詞 「~でない」という否定の意味をあらわす [出来上がった単語も形容詞]
    例) unable, unkind, uncertain, unprecedented(前例のない) (ungood ということばはオーウェルの造語)
  2. un + 動詞 もとの動詞と逆方向の動作をあらわす。「~したものを~しない状態に戻す」 [出来上がった単語も動詞]

un1 はわかりやすいと思います。

ただし,否定したければどんな形容詞でも un をつければいいというわけではありません。in(im,il,ir)を使うもの(incapable, impossible, illegal, irregular)やdisを使うもの(dishonest)もあります。もとの形容詞が -ful で終わっていれば,un- ではなく接尾辞 -less を使います。でも in や dis はラテン語系・フランス語系の単語につくので,使い道はunよりも狭く,新しく生まれる単語を否定する時はunが使われることが多くなります。

un2 について解説しておきましょう。

たとえば,fold という動詞は「折りたたむ」という意味ですが,これに un- をつけて unfold にすると「折りたたまない」という意味にな...らなくて,「(折りたたんであるものを)広げる・開く」という意味になります。learn 「学ぶ」に対して,unlearn は「(学んだことを意図的に)忘れる」という意味です(forget とは違って,「わざとがんばって忘れる」こと)。

つまり, V + O 「OをVする」に対して un2 つきV + O は「OをVされる前の状態に戻す」ということです。

  • fold  開いた状態のものを折りたたんだ状態にする 「折りたたむ」
  • unfold 折りたたんだ状態のものを開いた状態にする 「広げる」

 

  • wrap ラッピングしてない状態をラッピングした状態にする 「包む」
  • unwrap ラッピングした状態のものを,ラッピングしていない状態にする 「包みをひらく,ほどく」

 

  • do + O   O(たとえば何かの作業)をしてない状態から,された状態にする 「する」
  • undo + O   Oがなされた状態のものを,なされてない状態にする 「元に戻す」

その他,undress 「服を脱がす」,  unlock 「解錠する」, untie 「結んである(tie)ものをほどく」などいろいろありますが,いちいち覚えようとしなくても,理屈がわかれば推測できるでしょう。

《un2 つき動詞》はこういう意味を持つことから,使える動詞が限られています。まず,他動詞であること,そしてその動作をする前とした後で状態がはっきり異なっていること,です。たとえば *unsee という動詞はありません。何かを見たからといって,目的語に変化は起きないからです。変化が起きなければ「元に戻す」こともできません。

 

さて,以上の2つの un- はun1 は形容詞・分詞につき,un2 は動詞につくわけですから,まったく違うものなのですが,紛らわしくなる場合があります。どんな場合でしょうか?

そうです,《un2 つき動詞》が過去分詞になった時です。たとえば,

unlocked は,《un1 つき分詞》と考えれば「鍵がかかっていない」状態を表し,《un2 つき動詞の過去分詞》と考えれば,have unlocked 「解錠してしまった」のようになります。

  • He left his homework undone. 「彼は宿題をまだやってない」(宿題をなされていないままにする)《un1 つき過去分詞》
  • What’s done cannot be undone. 「後悔先に立たず」(されてしまったことは元に戻せない)《un2 つき動詞の過去分詞》

結局,前後関係で区別するしかなさそうです。

 

この un は生産性が高く(つまり,単語を新造する時にも使える),だからこそオーウェルの小説でも ungood というありもしない単語を使っても理解はできるわけです。

単語は新たに作って,それが広まっていくということはありますが,言語を特定の意図を持って作ったからといって,それがもとの意図通りに使われ広まることはまずありません。「1984」の世界が単語からあいまいさと非効率性を排除することに成功したとしても,それらが使われているうちに1つ1つの単語に新しいあいまいさがまとわりついていき,「非効率的」になっていくでしょう。あいまいで非効率的であることで,ことばの自由,ことばという自由が生まれるのだと思います。

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