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大学入試と英語学習のバックアップ・サイト

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『外国語学習の科学 ― 第二言語習得論とは何か』

3月
2009
17
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著者:白井恭弘 |出版社:岩波書店(岩波新書)|2008年|700円|高校生・英語教師・一般向け|独断的おすすめ度 ★★★☆

外国語はどう学ばれるか,どう学ぶのがいいのかを研究する学問が「第二言語習得論」です。通常,言語学の中の応用言語学という学問の一分野と位置づけられています。

「外国語をどう学ぶか」を考える上では,この学問で明らかにされたこと,されていないことを踏まえないと有益な議論はできないはずですが,専門書以外の一般向けの本はあまり見当たらないのが現状のようです。このサイトで取り上げた本としては,

は,一般の外国語学習者にも役に立つ本だと思います。ここで取り上げる『外国語学習の科学 ― 第二言語習得論とは何か』は,上の『外国語学習に成功する人,しない人』と同じ白井氏の本です。後書きにもあるとおり,この本は『成功する人,しない人』を岩波新書用に書き換えたもので,「続編」とはいえ,内容的にはほとんど重複していますから,どちらかを読めばいいでしょう。こちらの岩波新書の方が全体的には読みやすいかもしれません(それに手に入りやすいですし)。この学問の全体像を手際よくまとめてあり,前著と同様かそれ以上にすばらしい入門書になっています。内容的には,『外国語学習に成功する人,しない人』についての記事をお読みください。

でも,この学問で得られた知見を,ではどうやって具体的に実践したらいいのかは,かんたんに処方箋が出せる問題ではありません。この本でも(前著でも),筆者の観点からの「学習法」の一端が示されていますが,決定版になっているわけではないようです。「教室」でどのような学習が行われるべきかということと,「個人」がどのように学ぶべきなのか(独学)ということは,必ずしも一致しません。さらに高校レベルで何をすべきかとか,それをどう評価すべきか(結局は,大学入試をどうすべきか)とかいう問題が絡み合っています。

ちょっと,教師や生徒や親が個々人のレベルでは手に負えない問題なのですが,まずは議論の共通の土台が必要でしょうし,その意味でもこの分野の学問にはがんばって欲しいところです。

 

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by rickie | Posted in いろんな本, 一般の語学学習, 勉強法の勉強 | No Comments »

発音・アクセント問題 どこまでやるか?

9月
2008
19
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よく思うのだが,大学入試英語問題に,発音・アクセントは不要ではなかろうか。 もちろん音声面はだいじだが,リスニング・テストをちゃんとやればいいはなしで,個々の単語の正しい発音・アクセントを択一形式のテストで成績をつけるということには意味があるだろうか。今のリスニングにもいろいろ問題点はあるが,まともなリスニング問題があれば発音・アクセント問題は不要なのでは?もちろん,英語問題の全体的傾向に対する批判(難しすぎ,非実用的)とか,そもそも入試に英語は必要かとか,はたまた入試そのものが必要か,とかを言い出す向きもございましょうが,そのへんは全部パス。

 

まず,そもそも正しい発音・アクセントなど存在するのかという問題。

英米差もあれば,たとえば同じアメリカでも当然地域差がある。さらに,豪・加英語もあるし,インドやフィリピンやアフリカ諸国の英語だって無視していいいわれはない。ただし,これらは規則的に対応していることが多いので,入試問題的にはあまり重要ではない。dog は /dɑg/(米) と /dɔg/(英) の2種類の発音があるが,/dɑg/ と読むところでは,hot も /hɑt/ と読まれるから,入試問題では矛盾は起きない。

むしろ,個人差の方が問題かもしれない。「語尾が -ee であれば,そこにアクセントが来る」 というのは,教師がよく言っていた「アクセント法則」だが,employée と並んで emplóyee という発音もよく耳にするし,often を /ɑftn/ と発音する人はかなり多い(印象では10人に1人か,せいぜい2人だが。学者なんかでも多い)。

アメリカ英語の標準的な(という言い方にすでに問題があるが)発音は,アメリカ中西部地方の発音だといわれている。イギリスには容認発音(Received Pronunciation: 略してRP。アナウンサーみたいな発音)というスタンダードがある。これらを学ぶことに意味はあるし,特に入門段階ではそれ一本でかまわないと思うが,それ以外は☓だ,などとはとてもいえない。

ことばは時々刻々生成されていて,それらが常に「標準」を求めて無数の争いを繰り広げている。いつ・どこで・何が標準と言えるのかは難しい問題だ。

 

「正しさ」の問題以外にも,ひとつの単語だけを取り出して発音・アクセントを問うことに対する疑義もある。

「次の4つの単語のうちアクセントの位置が異なるものを選べ」というようなものが,定番的問題形式のひとつだ。だが単語というものは文脈の中にしか存在し得ないものであり,文脈によってアクセントやアクセントの強さが変化する場合もある。センター試験がずっと出題している「文強勢問題」は,この点を考慮したもので,長らく評価されてきた。もっとも,これってペーパーテストでやるべきことなの?という疑問はあり得る。

本来,発音・アクセント問題はリスニングとスピーキングのテストをやりたいのだが,実施運営上の難しさゆえにできないので,その代用品というくらいの位置づけしかないのだろう。かなり不完全な代用品なのだから,本気で発音能力を試したいのであれば,むしろ逆に大量に出題した方がいいくらいだ。だが,たとえば最近のセンター試験では,文強勢を除く発音・アクセント問題は2~5題で,これで発音能力を測定できると考える方がおかしい。「発音もいちおう勉強しといてね」という,大学からの弱々しいプレッシャー以上のものではない。

 

上に述べたような問題点には,大学側もとっくに気づいているはずだ。それゆえにであろう,近年は発音・アクセント問題の比重は,入試問題の中で低下しつつある。

1999 3.7%
2000 4.6%
2001 2.7%
2002 3.2%
2003 1.6%
2004 1.8%
2005 2.0%
2006 1.5%
2007 2.1%
2008 1.7%

左は,私立大学の入試問題(英語)の総問題数のうち,発音・アクセント問題が占める割合の推移。データは,この10年間の旺文社の「大学入試問題正解」(いわゆる電話帳)に収録された資料による。「入試問題正解」では読解力(56.8% 2008年データ 以下同様),文法語法(22.9%),会話(10.9%),表現力(6.2%),発音アクセント(1.7%),語彙力(1.2%),聴解力(0.3%)に分類されている。分類基準が明示されていないので何とも言えないが,おそらく大問ごとの分類で,だとすると「語彙力」などは単独で大問を構成することは少なく,たいてい「文法・語法」に組み込まれているから,実数はだいぶ多いはずだ。つまり,発音・アクセントはほとんど分類が無意味なほど少ないということになる。(リスニングの割合が低いのは,出題大学がまだ少ないこともあるが,大問ごとの統計だからだろう。小問数やかかる時間,配点は多い。そして今後は出題大学自体が増えそうだ。)

推移に注目しても,全体的に低下傾向にある。これだけ低いと,これ以上の変化は誤差のレベルになってしまう。

さらに,このデータは問題数上の割合である。配点を考えれば,発音・アクセントはほとんどの場合1点~3点で,記述・論述問題と比べればかなり低い。2008年度の1.7%という数字は,配点ペースでみれば,0コンマ数パーセントのはずである。

早慶上智やMARCHレベルの大学では,発音・アクセント問題はほとんど出題されていない。たまだまある年のある学部の問題に出ることはあっても,毎年恒例で出題する大学は見かけなくなった。発音・アクセント問題がお好きな数少ない学部のひとつは,中央大学経済学部で,2008年の問題は,こんな感じだ。

アクセントがある母音の発音が同じものを選ぶ。

A widespread notion is that computers, the Internet, bioengineering, and so forth represent a (1) fundamental change in human affairs. These (2) recent inventions are sometimes hailed as a "third (3) Industrial Revolution." (…)

(1) 1 calendar   2 calculate  3 elementary  4 elusive  5 punctual

(2) 1 American  2 century  3 certainly  4 disease  5 athlete

(3) 1 intense  2 interference  3 intellectual  4 interested  5 interruption

中央・経済はなぜか文法系問題が伝統的に好きなようだ。

以前はこのような文章付き問題の形式ではなく,ただの4択問題であった。

 

  発・アク 問題数 発・アク 配点 文強勢 など配点
1979 20 20  
1980 10 20  
1981 11 11  
1982 9 18  
1983 10 20  
1984 6 12 6
1985 5 10 10
1986 6 12 6
1987 5 15 6
1988 4 8 6
1989 5 10 6
1990 5 10 6
1991 5 10 6
1992 8 16 4
1993 8 16 4
1994 8 16 4
1995 6 16 6
1996 5 12 8
1997 4 12 6
1998 4 12 6
1999 4 12 6
2000 4 12 12
2001 2 4 16
2002 2 4 12
2003 2 4 12
2004 2 4 12
2005 2 4 12
2006 2 4 12
2007 5 10 9
2008 5 10 6

こちら(右)はセンター試験(89年までは共通一次試験)のデータ。

すべて200点満点。全問題数は昔は70~80問あったが,今は50問程度になっている。

最初の2年間の発音・アクセント重視(総点の10%)ぶりには驚く。いくらか波があるものの全体的には,比重は低下しつつある。ただし,この2年はちょっと盛り返してますね(配点では5%)。2006年からリスニングが導入されていて,そのころは「発音・アクセント問題は消えるかも」といわれていたのだが,翌年からむしろ増えている。リスニング導入で何か反省点があったのか,それとも単なる気まぐれか。上にも述べたが,2問程度では何も測定できないので,少し増やしたということか。

文強勢が減っているが,確かにこちらはリスニングと「かぶる」かもしれない。

ただし,文強勢は,極端に言えば単語の発音・アクセントを間違えて覚えていても解答には影響しない。文強勢は,文の中でどの単語を強く読むべきか,という問題であり,ふつうのアクセント問題は一単語の中のどの母音を強く読むべきかという問題。すごく大事なことではあるが,今回のテーマとは異なっている。

 

発音・アクセントの勉強は?

さて,受験生からみると,発音・アクセント問題問題はどう扱うべきか。

発音・アクセントの勉強にどの程度のエネルギーや時間を傾けるべきか。

 

簡単に言うと,発音・アクセントはだいじ,でも問題として練習する必要はほとんどない,ということだ。

まずふつうに単語を覚える時にできるだけ声に出して,正確な発音で覚えようとすること。すでにどこかにも書いたが,発音できない単語は覚えられない。「僕は単語は覚えてるけど,ちゃんと発音するのは苦手」という人もいるかもしれないが,そういう人は実は自己流の言い方(=発音)で覚えているというにすぎない。どうせ言い方を覚えるなら,正確に覚えた方がいいに決まっている。

覚える時は,音声教材があればそれをまねすればよいが,なければ発音記号を読めるようになる必要がある。

発音記号 – おおざっぱに理解しよう

 

こうして,ふだんの単語学習の際に地道に覚えおけば,それ以上のことはほとんど必要ないだろう。

いちおう自分の受ける大学で出るのかどうかチェックして,どうも不安だったらそこではじめて対策の必要が出てくる。そうでないのなら,特に対策は必要ない。

単語自体はほっておけば意味をどんどん忘れてしまうから,何度もチェックしなければならない。そのついでにもう一度発音もチェックしておこう。単語集には「発音注意」とか「類音」とかのマークがついているものもある。そういう単語は発音を意識して重点的にチェックする必要がある。

 

 

 

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by rickie | Posted in その他(高校生向け), 勉強法の勉強 | No Comments »

『より良い外国語学習法を求めて』『「達人」の英語学習法』

7月
2008
22
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著者:竹内理 |出版社:松柏社|2003年|2500円|英語教師・研究者・一般向け|独断的おすすめ度 ★★☆☆

著者:竹内理 |出版社:草思社|2007年|1500円|高校生・一般向け|独断的おすすめ度 ★★★☆

 

同じ著者による同じテーマの2冊の本。実は,この2冊は読者対象が違うだけで,中身はほぼ同じといってもいい。

「より良い」が,データをもとにした研究発表の形式であり,「達人」はその研究成果を一般向けにかいつまんで述べたものです。従って,調査方法やデータを含めて知りたいのであれば「より良い」を,結果だけ知りたければ「達人」を読めばいいわけです。

調査目的は,「英語ができるようになった人に共通する学習法はあるのか」ということ。調査対象は3種類で,第二言語習得論の先行研究を踏まえて,

  • 英語ができる大学生とできない大学生
  • おそらく筆者周辺の,英語の達人たち
  • 世間に出回っている「私はいかにして英語の達人となりし乎」といった類の本

を扱っています。「より良い」の第9章で,これらのデータと既存の理論を踏まえた結論を述べていますが,この部分を敷衍ふえんして,英語学習者へのアドバイスの形で1冊の本に独立させたのが「達人」です。

調査方法も,そこから導き出されている「学習法」のアドバイスも,ハッタリのない信頼できるものです。たとえば,「学習法」の議論はそもそも万人共通の学習法が存在するのかどうかから出発すべきなのですが,筆者はその前提を踏まえた上で,調査対象から共通項が引き出せるという順当な手順を踏んで議論を組み立てています。その上で,学習者全般だけでなく,初級段階(中~高レベル)に必要なことと,中上級で必要なことを分けていたりと,あたりまえなんだけど実際には雑に扱われることが多い手順をしっかり押さえて考察を引きだしています。

リスニングは初級レベルでは正確さを重視すべきだが,上級では形式的正確さよりも内容重視に移行する傾向が英語の達人には多いパターンであるという記述があります。細かいことをいえば,「達人にはこのパターンが多い」というデータから「学習者はみなこの方法を採用すべき」という結論を引き出すには少し飛躍があるわけですし,私の経験的(データに基づかない)問題意識から言えば,中上級者も正確さ重視の方法を適宜組み込まないと進歩が止まるという感想を持っています。しかし,日本人の学習成功者対象のデータにもとづいたこの種の議論は今までありそうで,案外なかったような気がします。

英語学習法本には,自分の経験だけが最良の学習法であるかのような語り口の本がよく見られますし,そこに売らんがための宣伝文句が加わるとほとんどウソに近いものも存在しますが,この本は安心して全レベルの学習者にお勧めできるでしょう。もちろんその分,「楽にペラペラになれる」「いつのまにかあなたも達人に」といった魔法のような学習法を探している人にはがっかりするようなことしか出ていません。逆にしっかり腰を据えて勉強しようと思っている人,特に英語初心者にはぜひ読んで欲しい本だと言えます。

 

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by rickie | Posted in 一般の語学学習, 勉強法の勉強, 英語の周辺 | No Comments »

『STUDY HACKS! ― スタディ ハック』

7月
2008
12
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著者:小山龍介 |出版社:東洋経済新報社|2008年|1500円|一般向け|独断的おすすめ度 ★☆☆☆

副題には「楽しみながら成果が上がるスキルアップのコツ」とあります。ビジネスマン向けのようですが,受験生にも何か使えるネタはあるかなと読んでみた。

使えるところが全くないというわけではないが,なんだかなあ,という本ですね。奥付の筆者の経歴によれば筆者は1975年生まれ,京大→広告代理店→MBA→現・松竹・松竹芸能ほか,ということで若い多才な(そしてリッチでスマートな)エリートビジネスマンという人物像が浮かんでくるのですが,本書から受ける印象もそのイメージから1ミリもはみ出しません。紹介しているツールのたぐいはどれもお金のかかるものばかりだし,特に検証されずにシータ波やクオリア,フォトリーディング(!)などが方法論やその理論的背景として導入されているし,英語ができることは前提になっているし...

  • ノイズキャンセリング機能付きヘッドフォンを紹介していて,おもしろそうなので実際買っちゃいました。筆者は4万いくらのやつを薦めていたのですが,手が出るはずもなく1万のものでガマン。ま,こんなところかな。
  • 六本木ヒルズ(!)などの有料自習室を紹介していたので調べてみたが,高いの高くないの。
  • ハーブティー,アロマ,お経,腹式呼吸...好きですよね,こういう人ってこういうものが。
  • 「夜の散歩でリスニング暗記」...昔からやっとります。
  • 「長時間眠る」...生まれたときからやっとります。
  • 「まず机のそうじから始める」...すみません。やってませんでした。さっそくやります。

まあ,このサイトはできる限り人の悪口を言わない方針なのでフォローしておくと,役に立つところもけっこうあります。「勉強」というものとある程度以上つきあってきた人なら誰でも知っていることが多いですが,でもこれからやろうという人にはいいかもしれません。ただそういう人にとって難しいかな,と思うのは,ここのアドバイスをどう使い,どう使わないかです。アドバイス自体が正しくても,学習対象(科目),学習段階,個性などによって使えるときと使えないときがあるということは,どんな勉強法でも言えることです。「試験ハック」の章に出ている「問題集は答から読む」とか「正解した問題は二度とやらない」「教科書を逆さまに読む」とかは使えない場合も多いので注意です。「問題集は答から読む」というのは,知識系の科目(地歴公民)などで,かつある程度予備知識を持っていて新たに覚えることはそれほど多くないという場合などはたいへん有効でしょうが,それ以外の場合はどうかなあ。

学習法というものは「人が言うことを鵜呑みにしない」というのがいちばんだいじなことで,それがわかっている人にはこの本も大いに使えるでしょう。

 

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by rickie | Posted in 一般の語学学習, 勉強法の勉強 | No Comments »

『勉強法が変わる本 – 心理学からのアドバイス』

5月
2008
29
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著者:市川伸一 |出版社:岩波書店(岩波ジュニア新書)|2000年|780円|高校生・教師向け|独断的おすすめ度 ★★★☆

高校生向けの本を集めている「岩波ジュニア新書」の一冊。英語に限らず,全教科の勉強法を扱っている本です。

勉強法についての本は,今年有名大学に合格した先輩が自分の体験から書いている本もあれば,受験業界の人(予備校講師や教務担当者)による本など様々出ていますが,はっきり言ってこれらはかなり癖があります。だってその人の体験が全員に通用する保証はないわけだし,業界の人の本は(かなりいい本もありますが)営業的意図が見え隠れすることもあります。

認知心理学の権威,市川伸一氏によって書かれたこの本は,そういう癖のない,しかも学問的なバックグラウンドをもとに書かれているスタンダードな学習法本になっていて,ある意味でいろんなところの本棚でこのテの本の中ではよく見かける本です。いちばん広く評価されている本と言っていいと思います。「はじめに」の中で筆者はこう言っています。

ぼくが,勉強法の本をいろいろと読んでみて,いちばん問題だと思うのは,著者自身がやってきた方法を,「こうするとよい」と一方的に書きすぎていることだ。

わたしもそう思います。人は自分の体験抜きにして,他人を動かすようなことをいうことはなかなかできないものですが,体験のみで語られると引いてしまうでしょう。自分の体験を客観視することができていないと,言葉は相手に届きません。特に勉強とか大学受験とかはほとんどの(かなり多くの)大人が経てきた体験なので,お互いに矛盾するような勉強法がいろんな人の口から出てきています。勉強法はなんかの宗教ではないので,すぐうのみにしたりせず,納得できそうなものを何回か試して,それでうまくいきそうなら本格的に取り組んでみる,というほうがいい。

さて,学者が自分の専門分野にもとづいて一般の人(つまりここでは高校生)にアドバイスを送ろうとすると,どうしても抽象的なアドバイスになりがちです。この本の筆者もそのことには気づいていて,できるだけ具体的な指針を出そうと工夫しています。でも,高校生の目から見ると,先ほど挙げた先輩たちのアドバイスに比べれば具体性に欠けているように見えるかもしれません。たとえば,数学に関して言っている「手続きから這入ってある程度習熟し,理解力が育ってから理屈を習う」とか,英文読解に関しての「できるだけ能動的に作者の言っていることをつかみとり,『なるほど。そういうことが言いたいのか。おもしろい!』という感じを持つように心がけ」るというようなアドバイスがありますが,「ふーん」という感想で終わってしまうかもしれません。

でも,わたし的にはこれらはとってもいいアドバイスだと思います。ただそれがいいアドバイスと実感できるまでには,かなり本格的な学習経験を積まなければならないかもしれません。

この本は読んで損はありません。できたら一度読んだ時には良さが実感できなかったとしても,何ヶ月かした後でもう一度パラパラめくってみると,「あっ,そういうことか」という発見があると思います。もちろん,今までさんざん苦労して,学習法に意識的になっている人は,一度で実感できるかもしれませんね。

科目別で言うと,「数学は暗記か理解か」とか「小論文作成のスキル」あたりは,特に問題意識がなくても,なかなかおもしろく読めるのではないかと思います。

 

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by rickie | Posted in いろんな本, 勉強法の勉強 | No Comments »

『外国語の学び方』『外国語学習法』

5月
2008
10
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著者:渡辺照宏 |出版社:岩波書店(岩波新書)|1962年|絶版|高校生以上・一般向け|独断的おすすめ度 ★★☆☆

著者:千野栄一|出版社:岩波書店(岩波新書)|1986年|735円|高校生以上・一般向け|独断的おすすめ度 ★★★☆

どちらも岩波新書の外国語学習法本。かなり人気を博した「外国語の学び方」(1962 青本)の後継が「外国語学習法」(1986 黄本)で,そのあいだに24年が経過しています。とすれば,そろそろ岩波の次期「学習法本」が出てもいい頃でしょうか。

これらは英語学習法ではなく,外国語学習法です。別に英語は特別な習得法があるわけではありませんが,世の中,英語しか見えていない風潮なので,多言語を身につけた人のことばは大いに聞くべきでしょう。

前々から疑問なのですが,なぜか英語以外,とくに東欧・スラブ系言語の専門家は驚くほど多くの言語を習得している人がいます。今回の本では,渡辺氏はドイツ語・サンスクリット語が専門,千野氏はチェコ語,それ以外でも,黒田龍之助氏はロシア語の専門家。「わたしの外国語学習法」を出している十数カ国語の達人ロンブ・カトーさんと,12カ国語が使えるというピーター・フランクルさんはともにハンガリー出身。作家でも,英語で小説を書いた Nabokov はロシア, Kosinski はポーランド(盗作疑惑もありましたが),フランス語で書いている Kundera はチェコ,Agota Kristof はハンガリー出身です。逆に,英語の専門家にはそういう人が見当たらない気がするのですが(昔は少しいた)。スラブ語ができれば英語なんかちょろい,というわけでもないでしょう。東欧諸国はよきにつけ悪しきにつけ交流が多いから,そして文化的には英・仏・独・旧ソ連などの強い影響を受けているため自国語だけでは自足せず,外国語に触れることが多くて外国語学習意識が高いから,という理由を今でっちあげてみたのですが,でもそれなら日本も似たようなものなのですが。上の4人の作家はみな亡命者・難民ですから,そういう外的な事情ももちろん影響しているでしょう。でも日本人のスラブ専門家たちのポリグロットぶりはどう説明できるんでしょうか。

さて,「外国語の学び方」はすでに絶版のようですが(古本は大量に出回っているはず),確かに音声面の学習ではレコードのリンガフォンの話が出てきたり,時代を感じさせるものもあります。でも,そんなことより,残念ながら今の人の耳に届きそうにないのは,たとえば

  • 自分の日本語能力と同レベルを目指す
  • 1日24時間その言語のことだけを考えて,3ヶ月後にはなんとかなる
  • 書くためには,短い論文や短編小説を丸暗記する

といった,現代人には難しい集中的学習・言語オタク化を暗に前提にしているところでしょうか。べつに批判しているわけではありません。わたしも実は同意見です。千野先生の本では,「1日に6時間ずつ4日やるより,2時間ずつ12日した方がいい」という説が出ていて,これは実証的に正しいらしいのですが,わたしはそれは初心者向けの話であって,学習過程のどの段階かで集中学習が必要になると思っていますし,今では流行らない長文の丸暗記もかなりプラスになると考えています。でも今そんなことを言うと,引いちゃうでしょうね,みんな。

千野本の特徴は,文法重視の教育に対して,語彙力強化をかなり前面に押し出しているところでしょうか。この本の影響なのか,その後の語学学習では語彙面重視は浸透しているようです。アドバイスのいくつかをピックアップすると,

  • 単語は最低レベルの1000語は単語集などで有無を言わせず覚えねばならない
  • その後,辞書を使って何とか本の読める3000語レベルにまでは上げる
  • 語学学習には金と時間が必要
  • 西洋語の基本的活用は表にすれば10ページくらいに収まるので,まずこれを丸ごと覚える
  • 会話上達には,「いささかの軽薄さと内容」が必要
  • 教養のための語学学習は失敗しやすい

などです。ふつうのアドバイスと言えばそれまでですが,ちまたによくあるエキセントリックな内容ではなく,汎用性があるので,読んである種のインスピレーションを受けて自分なりに工夫していくにはいいだろうとおもいます。語学ってふつうにやるしかないと思いますよ,けっきょく。

どちらの本も,中にちりばめられたいろんな人,ひろんな場面のエピソードが魅力になっていますから,読んで損はありません。

 

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by rickie | Posted in いろんな本, 一般の語学学習, 勉強法の勉強 | No Comments »