The Name of the Rose (Umberto Eco) — paperback review

語彙レベル★★★☆|ストーリー★★★☆|知的興奮度★★★★|前提知識★★★★|対象レベル 英検準1級以上|ジャンル 推理小説|502p.|英語

舞台は中世イタリアの修道院。そこで起きる連続殺人事件を,修道院側のさまざまな妨害をのりこえて探偵役の修道士が探っていく....なんてまとめ方は,この本を読んだ多くの読者からひんしゅくを買ってしまうでしょうね。たしかに物語の外枠は,シャーロック・ホームズとワトソン博士の探偵小説を借りて,中世の修道院という設定にはめこんだという形になっていますし,筆者もなかばパロディー気味に「歴史ミステリー」的叙述で楽しんでいます。が,内容をまともに理解しようとすると,歴史・哲学・宗教学(キリスト教神学)についてのかなりの知識が必要になります。1980年のイタリアでのこの本の出版以来,解説書・ガイドブックが何冊も出たくらいで,世界的なベストセラーになったのが不思議です。みなさん,ほんとにわかったのでしょうか?

筆者ウンベルト・エーコは,世界的に高名なイタリアの記号学者。日本でも,構造主義—ポスト構造主義が喧伝された1980年代の「ニューアカ」ブームの際にも,本業の記号論でしばしば取り上げられました。推理小説はもともと記号論と相性がいいらしく,筆者には「シャーロック・ホームズの記号論」という著書もあります。

知的で,難解で,解説書もいっぱいあり...というと「ダビンチ・コード」を思い浮かべるかもしれませんが,そんなもんじゃありません。ほんものの学者が,余技ではなく本気で書いた小説です。

英語(イタリア語からの翻訳)としては,文章自体はさほど難解ではありませんが,修道院やキリスト教,中世文化,哲学などの用語がちりばめられていてその点で苦労するかもしれません。まあ,ペーパーバックを読みなれていない人にはお勧めできませんが,こうした内容に興味を持っていて,多少難しくてもチャレンジする知的好奇心豊かな人には,お勧めしたい本です。

次は,「序章」の冒頭です。しょっぱなから「ヨハネ福音書」の引用です。

In the beginning was the Word and the Word was with God, and the Word was the God. This was beginning with God and the duty of every faithful monk would be to repeat every day with chanting humility the one never-changing event whose incontrovertible truth can be asserted.   (Prologue)

 

 

 

(この paperback review のカテゴリーは,英語で読む本を探している方に向けた読書案内です。私が読んだ本の中から選んでコメントしています。)

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