A Scandal in Bohemia の英語解説 《予告編》

このサイト・ブログではいろいろな英語の小説・エッセイを解説しながら読んでいくことを企画しています。

すでに,オバマ大統領就任演説や村上春樹エルサレム賞受賞演説などの解説をしましたが,この線を延長していろんな英語に取り組んでいく予定です。ただし,原文+解説+翻訳を載せるとなると,その作品が著作権切れになっていることが前提で,日本の著作権法では1949年以前に物故した作家に限ることになります。あまり新しい作家・作品はムリそうですね。それにあまり長いものも現実的ではないでしょう。どこまでつづくかわかりませんが,とりあえずスタートしてみます。

 

まず最初は,アーサー・コナン・ドイル(Sir Arthur Conan Doyle) 原作の短編集「シャーロック・ホームズの冒険」("Adventures of Sherlock Holmes")の劈頭を飾る,『ボヘミアの醜聞』(A Scandal in Bohemia)を読んでいきます。週に1 ~ 2 回の更新の予定です。

 

コナン・ドイルについてはご存知の方が多いでしょう。1859年イギリスに生まれ,1930年に亡くなるまで,「シャーロック・ホームズ」のシリーズ(全部で60編)を始め,数多くの作品を世に遺した作家です。現在にまでつづく推理小説・探偵小説はエドガー・アラン・ポー(Edgar Allan Poe)によって創始され,コナン・ドイルによってゆるぎないものとされました[1] 。ドイルはホームズ物以外の小説も書いていて,恐竜の登場するSF「失われた世界」("The Lost World")[2] などは有名です。

シャーロック・ホームズは世界一有名な探偵と言ってもいいでしょう。もっとも愛されている探偵とも言えます。シャーロック・ホームズ愛好家のことをシャーロッキアン(Sherlockian)と言いますが,彼らはホームズの登場する全作品を分析し,作品のあちこちに散らばった描写・記述の一つ一つのピースからホームズという人間を再構築しています。彼らによるとホームズの人物像は,

田舎の領主の次男(?)[3]で,1854年生まれ(推定)。 長身・やせ形で,頭脳明晰,怜悧にして博学(ただし知識は偏っている)。ロンドンのベーカー街221Bに暮らし,生涯独身を通す。バイオリンを弾き,コカインを愛飲する(当時は合法)。シリーズでは一度死んだのだが,読者の要望に応えて復活した。

小説は友人の医師ワトソン(John H. Watson)に視点が設定され,常識人であるワトソンが,ホームズによって異常な推理力で解決されていく難事件を語っていくという体裁をとっています[4]。ワトソンが語り手兼ツッコミ,ということになります。

 

「ボヘミアの醜聞」を含む短編集「シャーロック・ホームズの冒険」は,ストランド・マガジン(Strand Magazine)という雑誌に1891年から1892年にかけて連載された12作の短篇からなります。

  • ボヘミアの醜聞 ("A Scandal in Bohemia")
  • 赤毛連盟 ("The Red-Headed League")
  • 花婿の正体 ("A Case of Identity")
  • ボスコム渓谷の惨劇 ("The Boscombe Valley Mystery")
  • 5個のオレンジの種 ("The Five Orange Pips")
  • 唇のねじれた男 ("The Man with the Twisted Lip")
  • 青い紅玉 ("The Adventure of the Blue Carbuncle")
  • まだらの紐 ("The Adventure of the Speckled Band")
  • 技師の親指 ("The Adventure of the Engineer’s Thumb")
  • 独身の貴族 ("The Adventure of the Noble Bachelor")
  • 緑柱石宝冠事件 ("The Adventure of the Beryl Coronet")
  • ぶなの木立 ("The Adventure of the Copper Beeches")

「シャーロック・ホームズの冒険」はコナン・ドイルの3番目の作品[5]ですが,シャーロッキアンによると,事件の発生順でいうと「ボヘミアの醜聞」は全事件の中でホームズにとって9番目の事件ということになります。

 

では,次回から「ボヘミアの醜聞」を読んでいくことにします。

原文は,

  • "The Penguin Complete Sherlock Holmes"(1981)
  • Project Gutenberg (ダウンロードは,下のDownload this ebook for free から。HTML版とテキストファイル版のどちらかを選択)

日本語訳は多数存在しますが,以下のものを参考にします。

  • 「詳注版 シャーロック・ホームズ全集 3」 小池滋 訳(筑摩文庫 1997)
  • 「シャーロック・ホームズの冒険」 阿部知二 訳 (創元推理文庫 1960)
  • 「シャーロック・ホームズの冒険」 鮎川信夫 訳 (講談社文庫 1973)
  • 「シャーロック・ホームズの冒険」 延原謙 訳 (新潮文庫 1953)
  • 「新訳シャーロック・ホームズ全集 シャーロック・ホームズの冒険」 日暮雅通 訳 (光文社文庫 2006)

また,作品,作者については以下のものを参考にしています。

  • 「詳注版 シャーロック・ホームズ全集 [別巻] シャーロック・ホームズ事典」 北原尚彦 編著 (筑摩文庫 1998)
  • 「シャーロック・ホームズの謎を解く」 小林司・東山あかね 著 (宝島SUGOI文庫 2009)
  • 「シャーロック・ホームズ 大人の楽しみ方」 諸兄邦香 著 (アーク出版 2006)
  • 「ミステリ・ハンドブック シャーロック・ホームズ」 ディック・ライリー & パム・マカリスター 編 日暮雅道 訳 (原書房 2000)

 


  1. ちなみに,「名探偵コナン」の主人公「江戸川コナン」は作家,江戸川乱歩とコナン・ドイルからとられていて,江戸川乱歩という名はエドガー・アラン・ポーからとられていることは有名です。 [▲ 戻る]
  2. 「ジュラシック・パーク」の続編,「ロスト・ワールド」という題名はここから。 [▲ 戻る]
  3. 確実なのは兄がひとりいることだけだが。 [▲ 戻る]
  4. 「謎は解けたよ,ワトソン君」! [▲ 戻る]
  5. 1ばんめが「緋色の研究」(「緋色の習作」と訳されることもある)"Study in Scarlet"で,2作目が「四つの署名」("The Sign of the Four") [▲ 戻る]

 

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