April is the cruellest month (T. S. Eliot)

「四月は最も残酷な季節」

T. S. Eliot の超難解な詩(といっても20ページを超える長詩)の第一行目の有名な文句です。あまりに難解なので注釈書もいくつも出ています。聖書,シェイクスピア,ボードレール,ダンテ,オウィディウス,その他サンスクリットにいたるまでのさまざまな引用とイメージのちりばめられた詩です。1948年ノーベル文学賞受賞。

私は大学時代にこの詩を途中まで読んで投げ出した,とばかり思っていましたが,本棚の奥から Eliot の “Collected Poems” を引っ張り出してみると,最後まで書き込みがしてあって,また大修館から出ていた注釈書(福田陸太郎,森山泰夫)にも最後までアンダーラインがしてあります。それなのに投げ出したと思っていたわけですから,結局読むには読みきったが,内容的にはお手上げだったということなのでしょう。

冒頭の部分はこうなっています。

April is the cruellest month, breeding
Lilacs out of the dead land, mixing
Memory and desire, stirring
Dull roots with spring rain.

四月はこの上なく残酷な月,
死の大地からライラックを育て上げ,
追憶と欲望をかき混ぜ,春の雨で
生気のない根を奮い立たせる。

       福田陸太郎,森山泰夫訳

福田・森山の注釈書によれば,「万物に生気のよみがえる春の訪れをかえって『残酷』に感ずるというのは,草木(すなわち人間)が生命の旺溢した生活を志すどころか,かえって死も同然な無気力な生活に安住することを欲しているからにほかならない」とあります。タナトスってやつですか。事実この直後は次のようになっています。

Winter kept us warm, covering
Earth in forgetful snow, feeding
A little life with dried tubers.

冬はわれわれを暖かく包み,
忘却の雪で大地を蔽い,乾からびた球根
で小さないのちを養ってくれた。

ひからびた忘却の冬が暖かく,雨で奮い立つ追憶の春は残酷,と意識されていることになります。

あるいは,冬は死ではなく,未生段階,生まれる前なのかもしれません( tuber = little life –> root)(warm, womb)。その場合,残酷さとは,この世に生まれ出でることのの残酷さということになります。

あれっ,歳取ると勝手な解釈をするようになるもんだな。

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