英和辞典を比較する (10)

「ジーニアス」「ルミナス」「ウィズダム」「ロングマン」の4英和辞典の比較のシリーズ第10弾は,会話表現・口語の記述です。今回は受信型,つまり「こういうシチュエーションではどう言うか」ではなく,「こう言われたらそれはどういう意味か」ということを調べる場合を想定しています。発信型情報については,各辞書が「コミュニケーション」「会話」などの囲み記事として載せていますが,英和辞書は本来シチュエーション別ではなく,単語別の記述になっているため,この点では限界を感じざるをえません。それはむしろ和英辞典の仕事でしょう。受信型情報の記述なら,英和辞書の本領が発揮されるはずですが,さてどうでしょう。

 

☆ Nice to meet you. ⇔ Nice meeting you. ⇔ Nice to see you.

どなたもご存知の Nice to meet you. ですが, Nice meeting you. や Nice to see you. との使い分け・ちがいをどのように載せているかの比較です。

私の理解は,

  • Nice to meet you. は初対面の際
  • Nice to see you. は2回目以降の再開の際
  • Nice meeting you. は初対面の別れ際

で使われるというものです。かなり以前, native(American) に, Nice to meet you. と Nice meeting you. は interchangeable かと尋ねたことがありますが,答えは No. でした。「gerund はやっぱり過去的な意味になるんだろうね」というのが彼の意見でした。

この点を囲み記事を使っていちばん詳しく載せていたのは,「ウィズダム」でした。

ウィズダム

meet

コーパスの窓 meet を使った初対面のあいさつ

(1) 初対面の場面では紹介の後に (It’s) nice to meet [《比較的まれ》meeting] you. を用い,言われた方は通例それを繰り返すが,《くだけて》ではしばしば略式表現も用いられる ▶ “(It’s) nice to meet you, Susan.” “Nice to meet you, too. [《くだけて》 And you. You too], Ally.”「お会いできてうれしいです,スーザン」「こちらこそ,アリー」( 相手の名前を添えて呼びかける方が親しみが出る)

(It’s) nice の代わりに (It’s) good や (I’m) glad, 《かたく》では(It’s) a pleasure, I’m (very) happy, I’m (very) glad, How (very) nice を用いることがある。▶ “It’s a pleasure to meet you.” “Same here.” 「お会いできてうれしいです」「こちらこそ」

(2) 別れ際は It was [It’s been] nice to meet you / (It’s) nice [《かたく》 I’m glad] to have met you. などのほか,《主に米》 では(《かたく》 It was ) nice meeting you. が好まれる。▶ “(It was) nice meeting you.” “(It was) nice meeting you, too.” 「お会いできて楽しかったです」「こちらこそ」

pleasure を使った “(It’s been [It was] a) pleasure to meet [meeting] you.” “The pleasure is mine.” は《かたく》で用いられる。 (I am very) pleased to meet you. や Good to meet you. は通例初対面の時に用いるが,時に別れ際に用いられることもある。

(3) 2回目以降会ったときには Nice to see you again. のように meet ではなく通例 see を用いる。

 

ジーニアス

ジーニアスでは,この件の関連事項は特に囲みなどのない meet の語意欄に載っています。

meet (他)(2)

It’s really nice to ~ you. = I’m really glad to ~ you. 初めまして,よろしく。 《♦ meet は初対面で通例紹介されてあった場合 (–> see): 《英》では How do you do? の方がふつう》 / It was nice ~ing you. お会いできてよかったです。《♦ 初対面の折の別れのあいさつ。もっと改まったあいさつは I’m very pleased to ~ you. / I’m delighted to ~ you. など》 / Come to the party and ~ my wife. パーティにお越しください。妻を紹介します / I’d like you to ~ my friend Roy Smith. 友人のロイスミスを紹介します。

基本は「ウィズダム」と同じです。特別項目立てをしていないので目立たないきらいはありますが,いちおう合格点でしょう。

 

ルミナス

ルミナスでも囲みなどはありません。

meet (他) 3

(紹介されて)<人>と知り合いになる: I have often seen Brown at parties but I have never met him. 私はブラウンをパーティーでしばしば見かけましたが,まだ紹介されたことはありません。 / How did you (first) ~ your wife? 奥さんとは(最初)どのようにして知り合いましたか / Mr. Jones, I’d like you to ~ Mr. Smith. ジョーンズさん,スミスさんをご紹介します。 《Jones の方がSmith よりも年長[目上]のときの言い方》 Nice ~ing you. Ⓢ《米》 = Nice [Pleased, Glad] to ~ you. Ⓢ はじめまして,よろしく 《初対面のあいさつ: 2度目からは see を用いる》 Glad [Nice] to have met you. お会いして楽しかったです。《別れのあいさつ》

Ⓢ はルミナスでは Spoken ,つまり 「話しことば」であることを示す記号です。

Nice to see you. の扱いは他の3辞書と同じですが,Nice meeting you.はアメリカではNice to see you. と同じとしているのは,他の辞典とは違っています。少なくとも,コーパスデータを参照して扱っている「ウィズダム」の《比較的まれ》という注記が正しいと思われます。

 

ロングマン

ロングマンでの関連事項は meet の熟語欄に載っています。

meet

Nice / Pleased / Good to meet you. 《話》 はじめまして (紹介などの際,初対面の人に対する丁寧なあいさつ): “This is my friend Betty.” “Hi. Nice to meet you.” 「こちらは友達のベティです」「こんにちは,はじめまして」 すでに面識のある人に再会したときには meet でなく see を用いる :Nice to see (× meet) you again. またお会いできてうれしいです。

(It was) nice meeting you. 《話》お会いできてよかったです。(初対面の人と別れる際の丁寧な表現): Nice meeting you, Ann. アン,お会いできてよかったです。

必要なことが簡潔にまとめられています。詳しさではウィズダムに負けるけれど,いちばんわかりやすいかもしれません。

 

 

☆ You never know.

You never know. は,「うーん,それはどうかな。案外どうだかわかんないよ~。」という感じの会話の決まり文句ですが,なかなか説明しにくい表現です。

ジーニアス

You never know. 《略式》 先のことはわからない(けどね),さあなんとも言えない(ね); ひょっとしたら(ね),そうかもね 《♦ 何があっても不思議でないという気持ち》 || I doubt we’ll arrive on time, but you never know. 我々は時間どおりにつけないと思うが,なんとも言えないね。

ルミナス

You never know.  Ⓢ 先のことはわからない。さあどうだか; ひょっとしたらそういうこともある。

ウィズダム

You never know. 《話》 どうなるかわからないけどね( 「そうなるといい」という含みがある): ひょっとすると(そういうことになるかも) ▶ You never know — you might win the lottery. 先のことはわからないよ。もしかしたら宝くじに当たるかもしれないしね。

ロングマン

You never know. 《話》 (ありえなさそうだが)ひょっとすると,もしかしたら

 

この種の表現は例文がなければ,理解不能です。できたら少し長めの例文が複数欲しいところです(無理な注文ですが)。その点で,ルミナス,ロングマンはちょっと不満が残ります。

基本的に,前文でいったこと,または相手の発言に対し,その可能性を限定し,「ただし確かなことはわからない」「あなたの言っていることが正しいかどうかホントのところはわからない」というようなニュアンスを持ち,次の例でもそうですが,you never know のあとで,こういう可能性もありうる,という内容を付け加えることが多いと思われます。この,別の可能性を付け加えるときに,「ひょっとすると」という訳語が生きてきます。

BNC コーパスの例文

  • It probably won’t get us very far, but you never know, one of them might come up with something.
  • Asked whether he thought the Jockey Club was ready to change the rules, the South African champion was guardedly optimistic: ‘You never know, It’s difficult.’
  • The odds are that you will not need it, but you never know.

 

☆ Just like that.

just like that は,直訳すると「ちょうどそのように」となりますが,会話上の決まり文句としては,「そんなに簡単に(かよ)」くらいの訳になるでしょうか。これも例文がないとなかなか意味をつかみにくく,まして自分で使おうと思ったら,多くの例に触れて,語感を肌で知るしかありません。

ジーニアス

just like that (1) びっくりするほど簡単に,無造作に。 (2) 突然,何の説明[予告]もなしに

ルミナス

just like that [副] 《略式》 あっさりと,さっさと,(そんなに)簡単に; 突然

ウィズダム

なし

ロングマン

just like that 《特に話》 いきなり,何の説明もなく : You can’t give up your job just like that. そんなに急に仕事を辞められるわけないでしょう。

 

例文があるのはロングマンだけ。各辞書ともコーパス準拠をうたっているのだから,例の一つや二つくらいは見つかるでしょうに。次の例も BNC (British National Corpus) で引いたもののピックアップです。

BNC コーパスより

  • Did she imagine she could run away from Alice, just like that?
  • ‘I couldn’t look at you and kill you’ — he clapped his hands — ‘just like that.’
  • Quietly, unhesitatingly — just like that — he faces up to the moral consequences of his realization.
  • What was unacceptable and intolerable suddenly — just like that — became acceptable and tolerable, as the Conservative party line turned, with a discipline which I found quite remarkable and which was reminiscent of societies that Conservative Members often dismiss contemptuously.

私は,この熟語に今から20年くらい前のNHKのラジオ講座で出会いました。だから,けっこう昔からある表現ですね。

 

 

英和辞典比較シリーズ   総評

タグ:

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。