大統領になったあかつきには,…

言語学者集団が寄稿する Language Log というブログ(英語)があって,そこで見つけた記事のはなし。

ことはアメリカの大統領選と環境問題とカリフォルニア州知事アーノルド・シュワルツェネッガー(Arnold Schwarzenegger)に絡む。シュワちゃん(この言い方好きじゃないけど長すぎなので)がテレビインタビューでした発言が話題になっている。7月13日に載ったニューヨークタイムズの記事で引用すると以下のとおり。

That apparently prompted George Stephanopoulos, the moderator of "This Week," to ask Mr. Schwarzenegger whether he would take a phone call from Mr. Obama if he was calling with an offer to be his energy and environment czar.

"I’d take his call now, and I’d take his call when he’s president — any time," Mr. Schwarzenegger said. "Remember, no matter who is president, I don’t see this as a political thing. I see this as we always have to help, no matter what the administration is."

 

そうしたことに促されたかのように,"This Week"(ABCのテレビ番組)の司会者である George Stephanopoulos は,シュワルツェネッガー氏に,もしオバマ氏から,エネルギー・環境問題の責任者になってくれないかという申し出の電話が来たら,あなたは受けるかどうか尋ねた。

「今でも受けるし,大統領になった時でも受けますよ。いつでもね。」とシュワルツェネッガー氏は言った。「忘れないでほしいんだが,誰が大統領になろうと,このこと(環境問題)が政治的問題だとは思わないんですよ。政府がどうだろうと,助力しなければいけないことだと思うんです。」(下線はわたし)

シュワちゃんは共和党であり,共和党は George W. Bush を筆頭に環境問題に熱心ではないというイメージがあるが,その中にあってシュワちゃんはやけに熱心らしいという背景がある。もちろん彼は Obama ではなく,McCain 支持でもある。だからこの発言がとりあげられた。だが,言語学者が問題にしているのはもちろんそっちじゃない。 おわかりかもしれないが,問題は下線部の when の用法で,when he’s president と言ってしまうと,オバマが大統領になることがすでに予定されていることになってしまうのではないか,いちおう McCain支持なんだから,ここは if じゃないの?ということだ。Language Log を引用すると,

This use of when instead of if struck me as unfortunate, and my first thought was that it might be the result of interference from Schwarzenegger’s native German, where wenn can serve as the equivalent of English if or when.

if ではなく when をこのように使うことは私には適切だとは思えなかった。最初に思い浮かんだのは,シュワルツェネッガーの母語であるドイツ語が干渉した結果ではないかということだ。ドイツ語では,英語の if と when 両方に相当するはたらきができるものとして wenn (ヴェン)がある。

ブログ記事はこのあとドイツ語との比較分析が続き,コメント欄でも,うがちすぎだとか,いやちがうとか,関係ない意見も含め,いろいろな意見が寄せられている。「ちょっとした言い間違いが母語話者と同じような分析を受けるなんて,第二言語話者としては名誉だ」というコメントあたりには同感できる。

when と if の違いについては,たとえば「ウィズダム英和辞典」では,

when と if 未来の事柄について確定的であれば when を用いるが,確定的でなければ if を用いる。「彼が来たらそういってください」という場合,Tell him so when he comes. と言えば彼が来ることが予定されているが,… if he comes. と言えば彼が来るか来ないかは不確定。習慣的・必然的な事柄についてはいずれも用いられる。▶ When[If] you heat ice, it turns to water.

また,デクラーク(Renaat Declerck)の「現代英文法総論」には,

when 節は,叙実的含意を持つので,条件節を導くのには用いられないことに注意すべきである。

  • I’ll deliver the goods if you pay me. [話し手は,彼が金を払うかどうかに確信を持っていない]
  • I’ll deliver the goods when you pay me. [話し手は,彼が金を払うことを当然と考えている]

とある。

ところでシュワちゃんはどういえばよかったのか。ふつうに考えれば,

  • I will take his call if he becomes president. 直説法 「彼が大統領になれば,受けますよ」
  • I would take his call if he were to become president. 仮定法 「彼が仮りに大統領になったと仮定したら,受けるでしょうね。」

あたりが無難だと思える。前者は客観的に,「この場合はこうする」といった表現になるし,後者だと「あくまでも仮定の話で言えば」という表現になる。

 

ただ気になるのはシュワちゃんの発言は,あくまでも司会者の質問を受けたものだということで,シュワちゃん発言だけを文脈を取っ払って考えてもしょうがない。MC は「もし Obama が大統領になったら」と聞いているのではなく,「もし Obama が電話してきたら」と聞いている。

それを踏まえれば彼の意図は次のようなものではなかったのか。

I would take his call ( if he were calling me ) when he is president.

これとて, if 節を省略して if 節中の when 節が残るというのは文法性に疑問が残るし, he is でいいのかもやや疑問だ。でも,きっとこう言いたかったんじゃないでしょうかね。

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