進路を決めろと言われても・・・
将来つきたい職業が決まっている人,自分が勉強したいことがはっきりとしている人なら話はかんたんです。その決まっている道を実現できそうな大学・学部の中から,今の自分の実力を考えて目標校やすべり止め校を考えるだけです。でも,その道が決まっていない,そもそもどんな道があるのかもよくわからない,という人が多いのではないでしょうか。親や教師に「どうするんだ?」とせっつかれ(おどされ?),まあそのうちに決めようと先延ばしにしている人も多いでしょう(私もそうでしたが)。決まらないことは何も恥ずかしいことではありません。
ある意味では,大学・学部で自分の将来の道が少なからず決まってしまいます。といっても,別に大学の名前で決まるわけではありません。いわゆる三流大学に入ると希望の持てない人生になると脅かす人もいるでしょうが,三流の人生を送る一流大学出身者は数え切れないくらいいます。三流大学だからどうのこうのということばは,本当は自分には中身がないことをうすうす気づいている「一流」大学出身者の,それがあばかれる恐怖心から出たことば,ないしは自分で自分の道を切り開けず,それを大学のせいにして責任転嫁している人たちのことばである可能性が高いでしょう。大学の名前で決まってしまう人生なんかつまらない人生です。
「大学・学部で自分の将来が少なからず決まる」と言ったのは,それが自分はどういう人間になりたいのか,そしてこれから社会にどう関わっていくのか,を考えていくことに等しいからです。無論,大学・学部だけで決まるわけではありません。むしろ,大学に入った後,いや一生のあいだ考えていくべきことでしょう。すでに今までにその問いにつきあたたった人もいるでしょうが,大学進学は(または就職という選択肢,ニート・フリーターという選択肢でさえ)自分がこの世の中でどのような人間になり,どのような人間として見てもらいたいのかのスタンスを決める第一歩になるでしょう。一生の方向性が決まればラッキーではありますが,決まったからといってその問いの最終的答が出たわけではありません。一生の問いなのですから。
将来の職業で選ぶ
医者なら医学部,法曹関係なら法学部,薬品開発をしたいなら薬学部でしょうし,自動車を作るエンジニアになりたいのなら工学部,というぐあいに,すでに「この道一筋」でいきたいという人は迷うことはないでしょう。でもたとえば教師になりたい場合,教育学部でなければならないわけではありませんし,コンピューター関係の職種についている人の中には文系の人もけっこういます。つまり,目標とする職業が決まっていても,学部選択には幅がありえます。さらには,考えている職業は一応あるけれど,「この道一筋」というほどの決意を固めているわけではない人(きっと多いよね),なんとなく英語を使う仕事がしたいというようなあまりに漠然とした願望を持っている人(これはもっと多い),そして仕事なんかまだぜんぜん考えてないという人(一番多いでしょう)などは,大学に入ってから煮詰めていくわけですから,受験の時点ではなかなか答は出せません。
まとめると,
- この道一筋でいくから,この学部しかない
- 決断してはいないが,意中の仕事はあるので,一応この学部
- 職業については漠然とした願望しかないので,これ系とこれ系の学部
- ぜんぜん考えてないので,文系・理系しか決まっていない,またはそれも未定
というかんじになりそうです。
ふつう,大人たちは2よりは1,3よりは2,4よりは3を評価します。「将来のことをちゃんと考えなさい」というわけです。僕もそういう評価の仕方を否定はしません。
否定はしませんが,人生は長く,そして意外性に満ちているものです。挫折もあれぱ,予期せぬチャンスもありえます。考え方も変わるし,古い夢を捨てて新しい夢を見つけることもあれば,家族環境の急変,恋愛,結婚,経済問題,病気・事故といった厳しい現実が突如襲いかかってくることもあります。僕の周囲にも,超難関大学医学部に入った後,エリート医師への道を捨ててしまった人,外務省のエリート官僚になったのにあっさりやめてしまった人などがゴロゴロいます。
それに,こういってはなんですが,みなさんはその職業がどういうものか本当に知っていますか?その学部が何を教えてくれるのかわかっていますか?胸を張って「もちろん」といえる人は少ないと思います。
結局,先ほどのリストで言うと,あなたが2や3に該当するなら,それでじゅうぶんだと僕は思っています。4だとちょっと困りますが,1である必要はないと思います。
あこがれの人(ロールモデル)で選ぶ
あこがれの人といっても,異性のことを言っているわけではありません(あっ,それもアリかな)。自分も,あんな人になりたいという願望をいだく対象のことです。有名人のこともあれば,身近な親,教師,先輩などのこともあるでしょう。「あんなふうになりたい」と思う対象のことをロールモデル( role model )といいます。
「あんな人になりたい」というのは,おもにその人の人格・人間性についてのことですから,必ずしも大学・学部の選択と結びつくわけではありませんが,でも,もしあなたにロールモデルがいて,その人と同じ道を選んでみたいと考えているなら,それはたいせつにすべき選択肢です。このページの最初に,大学・学部選択は「自分はどういう人間になりたいのか,そしてこれから社会にどう関わっていくのか」の第一歩になると言いましたが,ロールモデルというのはまさしくそれだからです。
ミエで選ぶ
これは,いちばん安易でいちばんダメな選び方,といいたいところですが,もちろん誰でもやっていることであり,これを否定することは誰にもできないでしょう。ひょっとするとこれも大切なことかもしれません。
ミエというのは,自分をより大きく,すばらしく,立派にみせようとするプライドと言っていいかもしれません。だとすれば,それはある意味で健全なことで,特に青年時代には誰もが何かの点で向上しようともがいているわけですからミエをはるのは当たり前のことです。ただ,その「より大きく,すばらしく,立派に」見てくれるのは他人の視線,他人の評価基準なわけですから,ミエだけを追い求めることは周囲の人の価値観,評価に自分を合わせることになり, 気づいてみるとひどく居心地の悪い場所にいた,ということにもなりかねません。他人の価値観に合わせて生きることは,それに少しも疑いを抱かない人にとっては気楽な生き方でしょうが,いったんズレが生じると他人の視線が苦痛以外の何物でもなくなってしまいます。大学生になって,「自分はなんでこんな大学でこんなことをしているのだろう」と思う人はかなり多く見かけます。
だから,進学後に明らかにモチベーションを保てそうもない,つまりあんまり興味もない学部をミエだけで選んでしまうのはあまりに危険です。ある程度,その学部で何を学ぶのかを頭に入れておかないと暗い気持ちで4年を過ごさなければならなくなるかもしれません。逆にそういう危険がなさそうなら,どんな選び方をしたって別に構わないわけです。
関心・興味を持っている分野で選ぶ
自分の今の関心で大学・学部を選ぶというのは,学問を志す高校生の模範的答えでしょうし,大学側も一番望んでいる答えです。少しでも高校生の知的・学問的好奇心を高めてもらった上で自分の進路を考えてもらいたい,というのがこのサイトのねらいの一つでもあります。ただし,いくつか考慮しておきたいこともあります。
- 今の関心・興味といっても,たいていの場合漠然としているので,はっきりと進路を定めきれないのがふつう。(たとえば,文学が好きだとして,英米文学にするのか国文学にするのかそれいがいにするのか。物理が好きだとして,何物理にするのか,さらに理論物理的なものか,工学的なものか)
- その学問分野について,誤解をしていないだろうか。(人の心について知りたいから心理学科,英語をやりたいので英文科という選択は失敗することもある)
- 自分の関心は,その大学のその学部への進学で満たされるものなのか。(大学によって,教師によって当然,得意不得意やクセや個性がある)
- 関心がいくつかあって,それがかけ離れていたらどうするのか。(たとえば,経済学とコンピュータサイエンスを両方できるのか)
- 関心・興味はあくまで今現在の関心・興味なので,将来大きく変わることがある。そして,この変化はたいていすごくいいことである。
- よく,本などで知った大学教授に教わりたくて大学を選ぶことがあるが,その先生が将来もその大学にいるとは限らない。お年を召した先生なら定年ということもあるし,若い先生なら大学を移ることはよくあることです。
このへんは,日本の大学教育の現在の問題点が関わってくるので,ページを改めて考えていきたいと思っています。
将来の職業も何に関心があるのかもよくわからない,またはいろんなことに関心があってひとつに決められないという人には,次のような大学・学部がいいかもしれません。
- 東京大学
- 国際基督教大学 (ICU)
- 首都大学東京・都市教養学部
- 横浜市立大学・国際総合科学部
などで,これらは比較的はば広い括りで進路が選べたり,大学入学後に進路変更が可能なところ(難関ばっかりですが)。それ以外でも,
- 国際教養学部 (早稲田・上智)
- 総合人間学部・人間科学部 (大阪・京都・上智)
- 総合科学部 (広島・徳島)
- 文理学部 (東京女子・日大)
- 情報文化学部 (名古屋)
など比較的新しい学部(文理学部は昔からある)も広い領域を扱う学部です。ただ,昔からの学部と併設される形で作られた学部なので,人文系にかたよっていたりするかもしれません。詳細は各大学のホームページをご覧ください。