パラレルリーディング(parallel reading) は,別に新しい学習法でも何でもありません。中学校1年生でも似たようなことはやるでしょう。文章を朗読している(ネイティヴの)音声を聞きながら,その文章を目で追っていく,それだけです。
一般に語学の技能は,「読む」「聞く」「話す」「書く」の4つから成り立っていますが,「書く」以外の能力を同時に高めていく方法として以下のものがあります。
読みながら声を出す = 「音読」(reading aloud, oral reading)
聞きながら声を出す = 「リピーティング」(repeating)や「シャドウイング」(shadowing)
聞きながら読む = 「パラレルリーディング」
音読が基本
語学学習の基本中の基本と言っていい「音読」は,自分のスピードで読みかつ理解しようと試みる作業で情報の流れは,目 –> 口 ( –> 耳) となります。この流れの中で学習者は英文の内容を理解する努力を同時にやらなければなりません。これは意外にたいへんなことです。したがって音読という学習法の弱点もここにあります。ただ音読しているだけ,つまり理解というプロセスを経ずに声だけ出している状態に陥りやすいということです。理解の努力を経ない音読もやって損にはなりませんが,効果の面から言うとだいぶ落ちます。
今流行のシャドウイング
語学のプロの練習法として有名になった「シャドウイング」はさらに難しくなります。情報の流れは, 耳 –> 口 という単純なものですが,目の補助がありませんから,耳で聞いたものをいったん(短期)記憶に叩き込み,それを口に出さなければなりません。しかも自分のスピードではなく,(ネイティヴの)音声にあわさなければなりません。「シャドウイング」という練習が行えることがすでにかなりの能力を身につけているあかしと言えるでしょう(むろん,音声のスピードや難度にもよりますが)。これも音読と同じで,理解しないまま聞いたものを口に出しているだけになりやすいのでは,と思われるかもしれませんが,私の経験では意外なことにそれがあまりありません。まったく理解できないことは,そもそもリピーティング自体が不可能であるような気がします。このへんは確信を持っていうことはできませんが。
パラレルリーディングは...
「パラレルリーディング」は難易度としては音読とシャドウイングの中間くらいでしょうか。声に出さなくてかまわないのですが,出すなら文字付きシャドウイングとなり,文字がうまいぐあいに補助輪の役を果たしてくれます。下手をすればただ耳で聞き取ったことを,わけもわからず目で追っているだけになってしまいますが,その場合は教材のレベルが自分に合っていないことになります。レベルさえ合っていれば,耳で聞き,文字を目で追いながら内容を理解するのは,シャドウイングよりもとっつきやすいでしょう。ただし,シャドウイングと同様かなりの集中力が必要です。洋画のDVDを英語字幕付きで見るのもパラレルリーディングと似ています。ただし映画の場合は字幕と映像の両方を見ることになりますが。
「パラレルリーディング」は以前から私のお気に入りです。使う「教材」もいわゆる「教材」ではなく,ふつうの小説をまるごと一冊使います。したがって,これを勉強だとは思っていません。読書の一種です。もちろん各人が自分のレベルに応じて材料を選ぶべきですから,どのような教材でもかまいません。短い比較的簡単な文章を集めたものでもいいでしょう。教材の選び方次第でいろんなレベルに対応できます。
まだ World Wide Web ができたての頃,つまりブロードバンドなど存在しなかった頃,アメリカのサイトで本を一冊全文を朗読している(unabridged と言います)カセット(そういえば,CDでさえなかった)を探しては,通販で購入したものです。さいわいアメリカには目の不自由な人用のそのテのカセットが結構見つかりました。一冊分でカセット十数本,値段は軽く1万を越えましたが。その後日本の書店にも unabridged バージョンのカセットが並び始めましたが,値段の方は変わりませんでした。劇的に安くなったのはダウンロードが可能になってからでしょう。今では昔の3分の1か4分の1くらいになっています。